翌日の昼、折西は組長室へと入り込む。
組長が寝ている事を確認し折西は
こっそり組長の手を握って昨晩の
ロックバンドのメンツを思い浮かべた。
…
…?
何も起こらない。
それどころか現実に弾き飛ばされてしまった。
(…あれ?トラウマって女性じゃない…?
いや、そんなはずは…)
引き続き目を瞑り手をにぎりしめる。
すると組長の目がバッと開き、
折西の腕を強く引っ張った。
「…何用だ、折西。」
「あっ、こ、これはその…」
明らかにオドオドする折西に組長は
溜息をつき、困った顔をしていた。
「…俺に鍵開けは不要だ。」
折西は組長をちらりと見る。
すると鍵穴が一瞬だけみえた。
鍵穴のある錠前が…3つ…?
「あ、あの…バンドの方々はやっぱり
助けることって出来ないんでしょうか…?」
折西は鍵開けの話を逸らすように
3人を助けられないかと組長に提案した。
「助けたいのは山々だが…俺たちが下手に
手を出して悪目立ちするのは避けたいのでな。」
確かに影國会の動きが公に晒されてしまうと
特定に繋がり今までの仕事がより
ハイリスクにはなるだろう。
「立場的に目立つ行動もあまり
出来ませんもんね…すみません、
夜にコソコソと…」
折西が頭を下げると組長は首を横に振る。
「気にするな。明日は休みだろう?
ゆっくり過ごすといい。」
組長から促されるままに折西は
組長室を後にするのだった。
折西は組長室から出て自室へと戻ると
ベッドの上にダイブした。
「恐らく次の鍵開けは組長なんですが…
バンドの方々との計画を通してどさくさに
紛れて鍵開けするのがいいのかも
しれませんね…」
隙のない組長の鍵開けをするなら組長の
余裕を無くして不意打ちを狙って
鍵開けするしかない。
…それなら依頼を引き受けるよう
説得する代わりに首切れスターのメンバーに
組長の不意を突いてもらう手伝いを任せれば
いいのでは?
そう思った折西はどうにかバンドの子達の
依頼を組長に引き受けて貰えるように
頭の中で作戦を練る。
良さそうな案が浮かびかけたが
睡魔が折西を襲い、そのまま日付が変わるまで
ぐっすり眠ってしまったのだった…
・・・
翌日、折西は久しぶりに中華店へと足を運んだ。
折西は麻婆豆腐と杏仁豆腐を食べ、
会計を済ませて幸せそうな顔で店を出る。
隣にあった心療内科は潰れ、
今は空き家になっていた。
「…流石に潰れますよね。」
抜かりない昴は勿論白花の悪事を
ネットの海にばら撒き、白花をこの国に
居られないようにしたらしい。
白花が居なくなり安心した折西は
ふと空き家を眺めていると空き家から
何やらすすり泣く声が聞こえてきた。
「白花さんが殺めた呪縛霊でしょうか…?」
気になった折西は空き家の中に
そっと入ってみることにした。
折西が中に入ると部屋の隅っこで
すすり泣く呪縛霊…
ではなくマアクの姿があった。
マアクの手にはぐしゃぐしゃのメモ帳と
涙で濡れたペンがある。
「おっ、折西さん…!?一体どうしてここに…」
折西の気配に気がつくとバッと
マアクは振り返った。
「外から泣いてる声が聞こえてつい…」
しゃがんでいたマアクに合わせて
折西も隣でしゃがむ。メモをよく見ると
会場奪還の計画が書かれていた。
「…実は言ってなかったんだけどね。
僕の実の母親ってカリマお姉ちゃんの
妹の「ライ」なんだ。」
「えっ、そうなんですか!?」
「うん。散々虐待して捨てた癖に今になって
親権を取り戻そうとしているらしくて。
恐らく今回僕らの会場を奪ったのは
挙式ライブだけが目的じゃない。
…僕を連れて帰るつもりなんだと思う。」
マアクは両手に力が入り、やがて力が
抜けたかと思うと大粒の涙が零れていく。
「…僕が邪魔しちゃったんだ…
モルフォお姉ちゃんとカリマお姉ちゃんの
結婚記念日を…」
「結婚記念日…?」
「バンドの5周年の記念日と結婚記念日が
同じなの。カリマお姉ちゃんは
バンド結成時にモルフォお姉ちゃんに
プロポーズして数ヶ月後に初ライブで
挙式をして…」
もちろんちゃんと場所を横取りせず事前に
場所を取ったらしいよ!と
マアクはくしゃっとした笑顔を見せた。
…それでも溢れるマアクの涙を見て折西は
胸がキュッと傷んだ。
「僕はカリマお姉ちゃんや
モルフォお姉ちゃんが本当の家族だと思ってる。
捨てられた日に2人に拾われて、
ご飯食べさせてくれて…ずっと大切に
育ててもらった。」
「…だから、クミチョーが計画に
加わらなくてもロックに会場奪還できる方法を
考えなきゃいけないの…それなのに…
何も思い浮かばなくて…」
折西はただ静かに泣くマアクの背中をさすった。
しばらくして折西は決心し、口を開く。
「…今なら組長を説得できるかも。
昨日の夜考えてた作戦、思い出しました。
もう一度影國会に2人で行ってみよう!」
折西がそう言うとマアクの手を引いて
影國会へと向かうのだった…