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『ごめーん、レポート見せてくんない?』
『500円』
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「ふぅ…」
会沢からの連絡。いつものレポートがなんやらと。500円を請求し、写真を送る。
「ほーんと、こいつ自分でやれよな」
呆れる以外の言葉で言い表せない心情になる。でも、なんだかんだ上手くやっているから強く言おうと思えない。
「あーしたは……買い貯めと、課題でもやっとくか……」
眠気混じりに口ずさむ。ふかふかで顔を包み込めるくらいに大きい枕は眠気を誘うのに十分だった。
「はぁ…気持ちいい。このまま眠ってしまいたい」
溢れ出る欲望を抑えつつ、スマホに目をやる。連絡先を下へとスライドしていく。ある名前は俺の目を引いた。
「……んー」
謎の唸り声をあげる。最近話もしていない。というか、元々出会っていなかったようなものだ。1度…1回だけそういうことをしただけ。せっかく連絡が取れるようになったのに…と悲しむが、自分のせいである。
1回だけ連絡してみようか、と苦悩する。メッセージを打っては消してを繰り返し、言葉をまとめることが出来てもすぐには送信出来ない。相手が会沢や清水なら言葉を軽い気持ちに乗せて送ることができただろう。しかし、昨日のことが気がかりで上手く指を運べない。まともな別れ方をしてないのがより心をくもらせる。
「思い切って電話とか……」
迷惑だろうか、とも思うがもっとちゃんと話したいという気持ちもある。第1優先としては相手の気持ちだが、抑えきれない欲求が自分に働きかける。確かに、日暮のことは好きだ。だが、それは恋愛感情では無い。あの夜、あんなことを言ってしまったのは持て余した性欲を消費したいがためだろう。我ながら最低だ。
しかし、もう既に自分勝手にしてしまっているのだから思うがままに進むべきではと考えしまう。
「まあ、フラれたらその時だ。」
覚悟を決めてスマホを押す。スマホが機械的な音を出すと、自分の胸は段々と熱くなっていき、緊張の音が聞こえてきた。
「……はい。」
少し不安そうな声が聞こえてきた。
「あ!!良かった!出てくれたんだな!!」
正直無視されると思っていたから咄嗟に声が出てしまった。その声はきっと嬉しそうに聞こえているだろう。
「え、え?まぁ、あんまりちゃんと話せてなかったし」
困惑が伝わる。相手も同じようなことを考えているみたいで安心感が湧いてくる。
「…で、何か言いたいことがあるの?」
まるで聞きたくないと言っているように感じた。あの事を深堀するのは自分だって気が引ける。
「うん。言いたいことっていうか…」
もっと話したい。そんな気持ちだった。彼の考えていることが見えてこないし、自分のこともよく分からなくなってしまっている。
「日暮って大学同じだよな。会いに行くからその時全部言う!!」
無理やり言葉を押し出す。え、ちょ、と何か言いたげだったが、言葉は来なかった。
「…僕も会いたいよ。でも、さすがに愛せない。君のことは」
絞り出したように彼は言った。もう少し追求したかったところだが、既に電話は切れていた。
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「悠、もうそろそろ立ち直ったら?」
「何言ってんだよ。家賃もちゃんと払ってるっての」
「いやそうじゃねぇって…」
いつまで悩んでんだって言いたいんだろう。でも、何も知らない奴にそんなことは言われたくないと少しひねくれた気持ちになる。
「会沢は、男のこと好きにならないだろ?」
「は?いや、まぁ基本的にはな…」
「俺やっぱ惚れっぽいから。相手が男でもダメだった。」
「…おめでとう?」
普通なら喜ばしいだろう。生まれ経ってから恋を知らずに生きて、交際を1度も出来なかった。
「でも悩んでるってことは振られでもした?」
「ご名答。恋っていうのは幻と同じだったよ。」
「あーらら。日暮に話つけとこうか?」
「もう話すことは無さそうだしいいよ。」
もう過ぎたことを嘆いているのも面白いものでは無い。少し寂しさはあるが、本当になかったことでいいかもしれない。
「……悠。ちょっとこっち向いて。」
「えぇ…何?」
途端に両目を塞がれる。気づいた時には熱の篭った柔らかなものが口の中に入ってきていた。視界を奪われているため、熱をより感じやすくなっている。
もし、自分の家だったらもう少し落ち着いていられたかもしれない。なんてったって、ここは大学であり、人目のつく場所だ。
「ちょっ…!!」
抵抗もできないような力の抜けた手で何とかしがみつく。 なんだか今までよりずっと長い時間を過ごした気がした。