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「今日の打合せですよね、弟さんがいらっしゃるのって!お会いできるのが楽しみですーー!!」


「ふふっ、そんな楽しみにしてもらうような弟じゃないけどね」


百合さんは私のテンション爆上げな様子を見て可笑しそうに小さく笑う。


そんな姿も可憐で美しい。




今日は例のスマホゲームの打合せの日だ。


コラボをするにあたって、スマホゲームを開発・運営しているベンチャー系のIT企業Actionの担当者がうちの会社にやって来るのだ。


先方からは、営業担当と開発担当、広報担当の3人が来るらしい。


うちの会社からも、営業担当の男性2名、広報から百合さんと私の合計4名が出席する。



アポイントの時間の数分前になると、百合さんのデスクの電話がなった。


窓口になっている営業担当から先方が到着したので会議室に来て欲しい旨の連絡だ。


「じゃあ、私は先方にお出しするコーヒーを淹れてから会議室に行きますね」


「由美ちゃん、ありがとうね。先に会議室に行ってるね」


営業担当からの電話を受け、百合さんは会議室へ、私は給湯室へと向かう。


来客用のコーヒーを人数分用意すると、お盆に乗せて私も会議室へ向かった。


(百合さんの弟さんはどんな人だろうなぁ。やっぱり百合さんに似てて、女神のような美しいい男性なのかな?楽しみーー!)


頭の中は、百合さんの弟のことでいっぱいだ。


とはいえ、取引先との打合せなのだから、気を引き締めないといけない。


百合さんはこういう時、仕事であれば私情は挟まずにクールなのだ。


結婚した後も、旦那様である亮祐常務と仕事で関わることがあっても常に冷静な百合さんだ。


2人が夫婦だということをふと忘れてしまうくらいの落ち着きようには毎回驚く。


でも、こういうふうに仕事に真摯な百合さんだからこそ推せるのだ。


私も推しを見習って、いくら楽しみでもクールでいなきゃなと思った。


そう思った矢先、会議室のドアを開けて取引先の人を見た瞬間、その決意がひっくり返りそうになる。


(ええっ!うそでしょ!?)


なんと、そこには先日一緒に飲んで、介抱させたあげくにラブホに置いてきた蒼太くんがいたのだーー。



会議室のドアを開けた瞬間、取引先の人たちの視線もこちらを向いた。


そして蒼太くんとバチっと目が合う。


蒼太くんも一瞬驚いた顔をして目を見開いたけど、取り繕うかのようにすぐ何でもない顔に戻った。


(あ、でもあの表情からすると、蒼太くんも私を認識したっぽいなぁ~。ちょっと気まずいなぁ)


私はお盆に乗せたコーヒーを蒼太くんを含めた取引先の方々にお出しした後、自分も席に着いた。


私が席に着いたのを見届け、うちの会社の営業担当の1人である三島《みしま》さんが話を始めた。


「今日はわざわざご来社頂きありがとうございます。改めて紹介させて頂きますね。弊社からは、営業担当の私、三島と佐藤、広報担当の並木と高岸が出席させて頂きます」


三島さんに紹介され、それぞれが簡単に挨拶をする。


「営業の佐藤です」


「広報の並木です。よろしくお願いします」


「同じく広報の高岸です。この休日にモンエクめっちゃやりまくりました!ハマりました!よろしくお願いします」


私は自己紹介とともに、モンエク楽しんでますアピールもしておいた。


ちなみに百合さんは、結婚したから本名は大塚さんなのだが、仕事の時はそのまま旧姓の並木のままで働いている。


百合さんが話すと先方の男性陣の目が引き寄せられたのが分かった。


(まぁ、こんな女神を見ちゃうとそうなるよね~。分かるわよー!‥‥というか、蒼太くんの衝撃ですっかり吹っ飛んでたけどこの中に百合さんの弟がいるんだよね!?全員男性だけど‥‥一体どの人!?)


3人ともスタイリッシュな感じの人たちだ。


さすがIT企業の人っていう雰囲気がある。


百合さんの弟が誰かという私の知りたかったことは、先方が挨拶を始めたらすぐに解決されることとなった。


「こちらこそ本日はお時間ありがとうございます。弊社も紹介させて頂きますと、私が営業の並木です。そしてこちらが開発担当の植木、広報担当の平井です」



並木と名乗りながら口を開いたのは、まさかの蒼太くんだった。


(ええっ!ということは、蒼太くんが百合さんの弟ってこと!?)


私はその衝撃に思わず口をあんぐりと開いてしまいそうになるのを必死で耐える。


先方の開発担当と広報担当の自己紹介は全く頭に入ってこなかった。


私の意識は完全に先日のダイニングバーでの出来事に向いていて、蒼太くんと話した内容を思い出していた。


(あの時の話からすると、蒼太くんはシスコンで彼女にいつも振られるって言ってたよね。それってつまり百合さんのこと!?そしてそして、蒼太くんが私の推しの弟ってこと!?)


なんていう偶然なのだろうか。


でもよくよく考えれば、あのダイニングバーは百合さんが教えてくれた場所だった。


もしかしたら蒼太くんも百合さんに聞いたのかもしれないし、逆に蒼太くんが百合さんに教えたのかもしれない。


そう思うとストンと落ちる部分もあった。


「並木さんが2人もいるんですね~。お2人はもしかしてご親戚とかだったり?」


うちの営業の三島さんが不思議そうに、百合さんと蒼太くんを交互に見ながら尋ねた。


その言葉で私も意識を現実に引き戻される。


「そうなんです。弟です」


百合さんがサラッとそう答えた。


「たまたまなんですけどね。先日姉が打合せに出席することを聞いて驚きました」


それに蒼太くんが加えるように補足をする。


なんとなく蒼太くんはいつもこんなふうに言葉を補足したり百合さんのサポートをしたりしていそうだなぁと感じた。


なんていうか相手の言わんとすることを察するのが上手そうだ。



そのあとは普通に打合せが進み、コラボの細かい内容の確認や、対外発表の方法、タイミングなどをすり合わせる。


基本的に先方が主導し、うちの会社はそれを確認する感じで進めることになった。


私は打合せ中も蒼太くんが気になったけど、気を引き締めて私情は挟まず、冷静さを装いながらやり過ごした。


1時間の打合せが終わり、先方をお見送りするため私たちは会議室を出てエレベーターホールへ向かう。


蒼太くんと少し話せないかなと思ったけど、うちの営業担当と並んで歩いていて話すチャンスはなかった。


「では、今日はありがとうございました。引き続きよろしくお願いします」


双方が挨拶を交わしながらお辞儀をし、エレベーターが閉まる。


結局、蒼太くんとは一言も話せなかった。


(こうやって偶然にも再会してしまったのなら、この前の醜態は謝っておきたかったんだけどなぁ。まぁ会社だし、百合さんもいるし無理かぁ)


エレベーターが閉まり、先方がいなくなると、営業の三島さんが私たちを振り返る。


「皆さんお疲れでした。引き続き、営業と広報で連携していきましょう」


「「よろしくお願いします」」


私たちはエレベーターホールから会議室へ引き返しながら、うちの会社側での対応事項について簡単にすり合わせた。


会議室まで戻ると、各々がパソコンや筆記用具などを手に取り、これで解散だった。


「じゃあ私は先方にお出ししたコーヒーを片付けて会議室閉めておきますね。皆さんお疲れ様でしたー!」


「高岸さん助かります。よろしく」


一番年下の私が片付けを申し出ると、営業の2人はお礼を言って、一足先に会議室を出て行く。


「由美ちゃん、私も手伝おうか?」


「百合さん、これくらいなら私1人で全然大丈夫ですよ!」


「いつもありがとね」


百合さんは手伝いを申し出てくれたが、私はそれを断る。


百合さんの退室を見届けた後、私はお盆にコーヒーカップを乗せ、会議室の机も拭いて簡単に清掃をしておいた。


そこで、床に何かが落ちていることにふと気づく。


(あれ?万年筆?先方が座っていた側に落ちてるからあちらの人の忘れ物かな?)


そこそこ高級そうな万年筆だ。


忘れた人は困ってるかもしれないと思い、私は急いでエレベーターで下に降り、会社のエントランスへと向かう。


(今ならまだ間に合うかも‥‥!?)


その勘は正しかったようで、慌てた様子で外からエントランスへと戻ってくる人影があった。


それは蒼太くんだった。


蒼太くんは私に気付くと歩みを止める。


「あの、もしかしてこれ忘れました!?」


私は蒼太くんに歩み寄り、万年筆を掲げて見せる。


「ちょうど気付いて取りに戻るとこでした。助かりました。ありがとうございます」


取引先ということもあり、蒼太くんは先程の打合せの延長なのか丁寧な話し方だ。


万年筆を受け取ると、私たちは少し気まずくなり、しばし無言で見つめ合う。



「‥‥ていうか、この前の由美ちゃんだよね?」


その沈黙を破ったのは蒼太くんだった。


蒼太くんは、こんなところで会うとは思わなかったというバツの悪そうな表情だ。


「そうだよー!蒼太くんだよね?本当にビックリだね!」


蒼太くんが敬語じゃなくなったので、私もあの日のようにいつも通りのテンションで答えた。


「今日の仕事終わりって予定空いてる?」


「今日?別に予定はないけど」


思わぬことを急に言われ、ちょっと面食らう。


そんな私をよそに蒼太くんはちょっと口角を上げると、さらに思わぬことを口走った。


「じゃあ20時にこの前の店で」


それだけ言い残すと、何事もなかったようにさっさと去って行ってしまったのだ。


(ええっ?この前の店!?また飲みに行くってこと!?)


仕事以外で「また」があるとは思わず、驚きを隠せない私は、去って行った蒼太くんの後ろ姿をただただ凝視してしまったーー。

初恋〜推しの弟を好きになったみたいです〜

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