テラーノベル
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異変が起きたのは、エルダンを発ってから数時間が経った頃だった。
とうに駅周辺の賑わいは遠ざかり、ノルディア街道の両脇に人家を見ることもなくなっている。
窓の外に広がるのは、ところどころに雪を残した岩肌と、針葉樹の濃い緑。
遠くにはモビ山脈が連なり、その頂には夏を過ぎた今もなお白い雪が残っていた。
もうじき新たな雪が、その上に降り積もり始めるだろう。
道は山裾へ近づくにつれて緩やかな起伏を繰り返すようになり、時折吹き抜ける風が儀礼馬車の窓を小さく鳴らす。
ダフネは窓の外を眺めながら、僅かに眉を寄せた。
王都へ向かった時とは、まるで違う。
華やかな街並みも、美しく整えられた庭園もない。
見えるのは岩と木と、まだらに残った雪ばかり。
鬱蒼と生い茂る木々のせいか、辺りはとにかく薄暗く鈍色に沈んでいた。
(こんなところ、早く通り過ぎてしまいたいわ)
マーロケリー国へ着けば、こんな殺風景な景色ともお別れだ。
自分を待っているのは王宮であり、そこで王太子妃として迎えられるのだから。
そう思っていた、矢先の出来事だった。
馬が、甲高く嘶いた。
「……何?」
ダフネが窓の外へ目を向ける。
向かいに座っていた侍女も、不安そうに顔を上げた。
続いて、何かを叫ぶ男の声。
馬車が大きく揺れる。
「きゃっ!」
身体が座席の上で跳ね、ダフネは慌てて窓枠へ手をついた。
「何なのよ!」
苛立ち紛れに声を上げる。
けれど返事はない。
代わりに――。
ガキンッ!
硬いもの同士が激しくぶつかり合う音がした。
「……え?」
聞いたことのない音だった。
次いで、怒号が上がる。
「襲撃だ!」
「荷馬車を守れ!」
「前方にもいるぞ!」
いくつもの声が重なった。
ダフネの顔から、すっと血の気が引く。
「しゅう……げき……?」
その言葉の意味を理解するより早く、馬車が再び激しく揺れた。
「きゃあっ!」
「ダフネ様!」
侍女が座席へしがみつきながら声を上げる。
今度は先ほどとは比べものにならない。
何かにぶつかったのか、車体そのものが大きく傾いた。
「な、何してるのよ! 護衛は!?」
窓へ縋りつき、外を見る。
そこには、エルダン駅を出た時とはまるで違う光景が広がっていた。
馬上から剣を振り下ろす男。
それを受け止める護衛。
別の場所では、荷馬車へ向かおうとする男たちを数人の護衛が食い止めている。
誰かが仲間の名を叫び、別の誰かがそちらへ駆けていく。
ダフネの馬車の傍を固めようとする者もいた。
けれど――。
「何よ……これ……」
誰もが、ばらばらだった。
襲ってくる者を迎え撃つ者。
荷馬車を守ろうとする者。
ダフネの乗る儀礼馬車を守ろうとする者。
窮地に陥った仲間を助けようと、その場を離れる者。
護衛は大勢いる。
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一人ひとりが剣を手に戦っている。
それなのに、まるでひとつの隊には見えなかった。
「どうして……」
これだけの人数がいれば安全だと思っていた。
自分を守るために集められた者たちなのだから、何が起きてもどうにかしてくれるはずだった。
「早く追い払いなさいよ……!」
窓枠を握る指に力がこもる。
「護衛でしょう!? 何とかしなさいよ!」
「ダフネ様、窓から離れてください!」
侍女が必死に訴える。
「うるさいわね! そんなことより――」
コメント
2件
やはり思った通り危険な目に遭ってるー!
まっじでやばかった…!!😭💦 最初の「こんなところ、早く通り過ぎてしまいたいわ」ってダフネの気持ち、わかる〜って思ってたのに、まさかあんな急に襲撃来るとは思わなくて心臓飛び出た!!「ガキンッ!」って金属音だけで映像が浮かぶ描写力、マジで神だよ… 護衛が統率取れてなくてバラバラなのも、ダフネが「何よこれ…」って茫然とするのもリアルで切ない。王太子妃っていう立場が一瞬で脆くなる感じがゾクゾクした…続き気になりすぎる!!✨