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自分が何であるのかそれは僕にとって永遠の命題なのかもしれない。
とは言っても真も偽もないわけだが。いや、「偽」ではあるのかもしれない。
「蕪木くん。」 「はい」
もはや反射と言ってもいい反応速度だ。
「私の授業は君が今見つめていた曇天よりも優先順位が低いって事かな。」
「そんなことはありません。」 「それじゃあこの円の方程式導いてくれるかな。」
「はい」 僕は難なくそれを解いた。
こんな感じで僕の命題も解けたらいいのだけれど。けれど世界は座標平面ほど単純じゃないのだ。こう言うとまるで座標平面が単純なように聞こえるが決してそんなことはない。少なくとも僕にっとては、複雑さで言えば
世界>座標平面 なだけである。
その後授業は終わった。
「それに終わりはないと思うわ。」と僕の唯一の話し相手である升沢ねりは僕の悩みを一蹴した。升沢はきっと頭が良いのだろう。成績は勿論の事、言うことがいちいち核心めいている。
「終わりがない、か。」
「私の一個人としての意見だけれど、自分が何であるのかっていうのは、若いうちは特に、考える度に変わってると思うよ。」
「そうか」
「だからこそ、いやだからといって自分を持っていないっていうのはあまり良い事ではないよね。自分を持っていないと言う事は常に自分を演じることになる。そうなると疲れちゃうよ。」 気のせいかな、升沢は顔を引き攣らせているように見える。
「升沢さん」 「どうしたの」
「今日この後バイトなの」 「うん、わかった日直の仕事は私がやっておくよ」
「いつもありがとう」 そう、いつもなんだ。
升沢はよく今みたいな感じで頼み事をされる。
それを断った所を僕は見たことがない。
「升沢さん」そんな言葉を何度も聞いてきた。 僕がやってあげられることはその度に手伝うくらいしかなかった。升沢に、聞けなかった。本当はどうしたいのか。
気のせいなんかじゃないんだ。
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