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カジカガエルが鳴いている。
升沢の手伝いをした帰りだった。
「ありがとう」 「うん」幾度となくこんなやり取りをしてきた。そして升沢は決まってこう言った。「ジュース奢るよ」
そして僕は「お気持ちだけ」もはや流れみたいなものになっていた。升沢は夕日で赤くなった顔を少し緩めた。この流れがやりたいから手伝っているわけではない。
「何を笑っているの蕪木くん」
「笑ってないよ」 と言った瞬間に目に飛び込んできたのは土手の下の川で服を洗っている少年だった。思わず「洗っている」と言った。
「駄洒落なの」
「違うよ本当に洗っているんだ」
「何を」
「服を」
「蕪木君が」
「僕じゃない、少年だ」
「少年、?」
「ほらあそこ、ってあれ」
誰もいなかった。
「誰もいないよ」
「いたんだ、確かに」
「怖い事言わないでよ」
「いたんだって」
僕は少し必死になっていたんだろう、周りから見れば今のこの光景が痴話喧嘩のように映ったのだろう。 土手の下で野球をしていた少年達がこちらを見つめている。その日は恥ずかしくなって先に帰った。
「幽霊って信じる」
唐突に告げた。フランス人の恋人に対するキスのように。とは言ってもフレンチキスのように濃厚でもなければ恋人でもなく告げたのは父親だった。
父親は口に含んだビールで咽せた。
「急にどうした」
「いや、なんとなく」
「もしかして、見たのか」
「見てないよただ、気になっただけだよ」
「そうだなー、信じてはないがいても良いんじゃないか」
「何それ」
頭を掻きながら、
「いや、だからな否定はできないだろと言う話だ」
「なるほどね、てっきりスピリチュアルなことを言われるのかと思ったよ」
父は理路整然としたタイプではあった。
「仮にいたとして、問題は理由だ。」
「理由」
「そう、存在理由、レゾンデートルだ」
「理由がなきゃいちゃいけないの」
「そこまでは言ってない、ただ意味は必要なんじゃないか。」
「意味、、」
「とはいえ、意味や理由なんざ結局見つけんのは自分だ。自分で決めるんだ」
じゃああれはなんだったんだ。
洗ってたのは服かな。 黒い学生服みたいだった。そういえば、升沢は無事家に帰れたかな。 僕は2つの事を慮っていた。
テレビでのニュースで、話題になっている
「正方形」と自称する詐欺師についてまた取り上げられていた。今度の被害者は大手企業の取締役らしい。これまでに容疑者は何人も上がってきていたが、そのどれもが的外れであった。
風呂にはいり歯を磨いて僕はとこに着いた。
なんだか水の音が聞こえる。泣いている、聞いたことがある。 川、川の音だ。
ああそうか。
僕は瞼をこじ開けた。 そして思った。
幽霊はいる