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私は、なんて良い人たちと出逢えたんだろう。
二人に感謝しながら元自宅へ向かっている。
最初、一人で行くとは言ったが本当は怖かった。
もしかしたら殺されるかもしれない、そんな大袈裟かもしれない想像までしてしまった。
遥さんは昔から優しいのは知っていたけど、蒼さんも遥さんに似て優しいんだな。椿さんの時は綺麗で私の憧れだけど……。男性としてもかっこ良い。
ん?男性として?
蒼さんは仕事で「オネエさん」を演じているのかな?
気持ち的には女性なのかな、男性なのかな。どっちなんだろう。
優人と会わなきゃならないのに、二人が一緒だという安心からか、今は関係ないことを考えてしまった。
もっと仲良くなれたら蒼さんに聞いてもいいのかな……。
「大丈夫、桜?私がいるからね」
遥さんが優しく声をかけてくれた。
「はい。大丈夫です!」
いけない、今は目の前のことに集中しないと、もうすぐ家に着くし……。
二階までの階段を上る。
やっぱり緊張してきちゃった。ドキドキする。
悪い意味で心臓が飛び出しそうだ。
「とりあえず、私と桜で家の中に行ってくるから。危なそうだったら、頼むわね?」
遥さんが蒼さんに肘打ちをしている。
「了解」
蒼さんは一番落ち着いているように見えた。
家の前に立ち、深呼吸をしながらインターホンを押した。
カギは持っているけど、昨日あんなことを言って出てきてしまったから、普段通り帰るわけにはいかないよね。
しばらく経っても優人は出て来なかった。
もう一度インターホンを押す。
<ピンポーン>という音だけが響く。
「彼、居ないのかしら?」
遥さんが呟く。
私にとっては居ない方が都合が良い。
「開けちゃいます」
カギをカバンから取り出し、家の中に入ろうとした。ドアが開く。
がーー。
「ガチャンッ」という音がし、数センチしかドアが開かなかった。
「中からカギが掛かってますね」
ってことは、家の中に優人はいるはずなのに。
居留守を使っているのだろうか?
アパートは古い造りのため、インターホンは来客が映らないボタン式だ。
勧誘か何かだと思って出ないのかな。
「声、かけてみます」
私が彼の名前を呼ぼうとした時だった。
「ちょっと待って?」
遥さんがしーっと声を潜めてという合図を出した。
「誰かの声が聞こえてくる……」
「えっ……」
私も耳を澄まそうとした時――。
「桜は聞かない方がいい」
蒼さんに両耳を手で塞がれた。
「へっ……?」
何が起こっているのかわからない。
なんで私は聞いちゃいけないの?
「なんで私は聞いちゃいけないんですか?」
蒼さんに問いかける。
蒼さんは厳しい表情をしていた。
しかし遥さんが蒼さんに何か伝えたかと思った瞬間、蒼さんが私の耳から手を離した。
「桜、これが事実だから。辛いかもしれないけど……」
遥さんが手招きをして、数センチほど空いているドアの隙間を一緒に覗き込んでくれた。
廊下しか見えなかったが、中から声が聞こえてくる。
「あっ……!あっあ、あっん……。激しっ……」
えっ?アンアンって言っている女の人の声?
玄関を見ると、私の物ではない女の人の靴があった。
これって……。
「最低」
遥さんが呟く。
「ああ」
蒼さんも頷いている。
えっと……。これって……。
「あの、これって浮気の最中ってことですか?」
思わず二人に訊いてしまった。コクっと二人は頷く。
やっぱり優人、浮気してたんだ。
しかも私が出て行って次の日に女の人を呼べる余裕があるの?
昨日まで二人で住んでたんだよ?
なんだろう、でもどうしてだろう。
不思議と悲しいって感情はなくて、苛立ちと悔しいって感情の方が強い。
「大丈夫か?」
蒼さんが心配そうに声をかけてくれた。
「私は……。大丈夫です。ここまで来たら、帰りたくないし。引き下がりたくもないので……」
私は深呼吸をして
「ちょっと!優人!荷物を取りに来ました!開けてください!」
数センチの隙間から家の中に向かって大声で呼びかけた。
すると女の人の声が止まった。
しばらくすると優人が廊下に見えた。
「今日は、帰れ。都合が悪い」
そう言って扉を閉めようとしたが
「はぁ?何が都合が悪いよ!ふざけんじゃないわよ!女の喘ぎ声、外まで聞こえてんだよ!とりあえず、この子の荷物とお金、返しなさいよ!じゃないと、暴力のことで訴えるわよ!」
遥さんの怒涛が響く。
ひえー。味方で良かった。