テラーノベル
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嗚呼、身体が火照った後すぐそれ以上に血の気ごと冷え込むような考える上でも特に最悪な状態になっている。
痛みが走る手足は冬の寒さで悴んでいるのではなく国が終わるためのヒビが入り、そこから崩れていっているためだろう。
覚悟はしていたが国の死に方というのはこんなにも簡単で、それでいてあっけないものなのか。
どうせ死ぬならと、最期の力を振り絞り半ば床を這う形になりながらもう使われない電話機を手繰り寄せ、震える手で受話器を持ち
「…… 、 。」
かつて想っていた相手宛に伝わるはずもない無茶苦茶なメッセージを贈りつけた。
馬鹿なことをするために崩壊間近の身体を動かしたからだろうか。ただでさえ先の大戦で片方が不自由な視界ごと霞む。そして段々と揺らぐ。頭がぐらぐらと回り、直に目を開いていられなくなった……
12月のおめでたい日に世界初の社会主義国であるワタシは崩壊した。
神を信じている訳でもないがワタシのような国が行く所は地獄しかないのだろうと無意識に確信していた。もしいつか死んだら自分自身が思いつく以上の苦痛を永遠に誰かの気まぐれで与え続けられるのだろうと。そう思って疑わなかった。
だが不思議なことに今ワタシが感じているのは耐え難いほどの苦しみなどとは遠く似つかない穏やかな温もりと頭上から聞き覚えのある優しい鼻歌、心地良い揺れだけ。
視界は機能していないというより自ら光を拒否しているらしかった。
どうやらワタシは久方ぶりに睡魔に負け、眠り、夢を見ているらしかった。
自分自身の状況をある程度把握できると夢の中とはいえ、ある程度の思考が働く。
恐らくこの状況、誰かがワタシを運んで何処かに連れて行っているようだ。
問題はどこへ連れていくか、よりもワタシとしては鼻歌を歌いながらまるで愛しい人を抱き抱えるように運ぶ変わり者の正体を飛び起きて確かめてみたくなった。
実の父にもこのように優しく運ばれたことはない。致したかないことだが。
そんなワタシをモスクワよりも遠くの何処かに連れて行く何者かの輪郭に触れて確かめてみたくて、手を挙げ指を伸ばそうとした。
此処で意識は途切れてしまった。瞬間、唇に感触を感じたのは気の所為だろうか。
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