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表記忘れですが、6話完結です
一王都、月明かりの庭園
暗闇の中、誰もいない庭を歩くきりやんの足音だけが響く
風に揺れる花々
冷たい石畳
そこは誰にも見せられない本音をこぼす場所だった
(また来やがった…)
今日もアイツと戦場で顔を合わせた
きんときの笑顔と甘い言葉が胸をざわつかせる
「王子様。その仮面の下、そろそろ見せてくれない?」
その声が耳にこびりついて離れない
「うざい……」
呟くように言ったその言葉すら、どこか熱を帯びていた
ーー「きりやん。笑いなさい。王子は民の希望でなければいけないの」ーー
幼い頃に、母に言われた言葉
泣きたい時も、悔しい時も、ずっと「王子」として振る舞うことを求められてきた
いつの間にか、感情を殺すのが当たり前になっていた
心を見せるのが怖かった
それが、「弱さ」だと信じてきから。
騎馬に乗り、前線へと出るきりやんの視界にまたあの顔が映る
「やっほ~♡また会えたね♡」
爽やかな声と共に、きんときが手を振ってくる
普通ならば戦いの緊張に飲まれるはずの場所で、アイツだけが軽やかに空気を裂いていた
「お前はもっと緊張と言うものをーー」
「きりやんってさ、なんでそんなにキリッとしてんの?ずっと眉間にシワ寄せてたら、もっと年上に見えちゃうよ?」
「黙れっ!」
きりやんが斬りかかる
鋭い一撃
だがーー
「っとと~…キレてるの?あ、もしかして俺のこと意識してるんだ?」
「!?意識なんてするかっ!」
バチンッ
火花と共に剣が交差し、跳ね返る力にお互いに数歩ずつ下がる
視線が交差していた時、不意にきんときの瞳がふっと真剣な色へと変わる
「俺は……王子の仮面より、きりやん自身が見たいんだよ」
「……っ…」
その言葉に、きりやんの足は一瞬止まり、鼓動がまたしても跳ねた
(違う……これは…違う)
そう思っていても心の奥底では否定しきれていなかった
彼の声がどこか優しくてずるくて
暖かかった
「それに、ほら」
そう言うときんときは懐に入り込み、きりやんの腰へと手を回す
「隙があったら触っていいって君の身体が言ってる♡」
「おまえっ!!し、死にたいのかッ!!!///」
ビンタ寸前で止めたきりやんの手をきんときが軽く取ってそっと
手の甲へと
キスを落とすーー
「……っ//」
「ほんと可愛いね。君が王子で良かった。こんなに面白い相手、滅多にいないもん」
「俺は…お前の遊び相手じゃ……ない…っ」
きんときが目と鼻の先ーー
心臓の音がうるさい
仮面がずれていく
(やめろ……これ以上…近づくなよ……)
それを願ってるというのになぜか、その腕を振り払えなかった
部屋に戻ったきりやんは椅子に沈み込んだまま、ぼんやりと天井を見つめていた
「……”きりやん”なんて誰にも必要とされていない」
それが、本音だった
みんなが欲しがるのは”王子”という偶像
けれどきんときは違う目で見てくる
煩わしい
うざい
強引で図々しい
ーーでも。
(ほんとうにうっとおしい男だ)
その時窓の外に気配が走る
(……誰かいる?……きんときじゃない…)
すぐに剣を取り、静かに近づく
だが、それは思いもよらぬ出来事の始まりだった