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ルーチェと名付けた青い鳥は、みんなの間を可愛く飛びながら、最後はエミリアさんの肩にとまった。
「わぁ、可愛い♪」
「気に入られたのかな? 良かったですね!」
「はい!」
「ふぅむ……。
エミリア殿とルーチェは、何だか|様《さま》になる絵だなぁ」
「そうですね、私にはなかなか真似ができなさそうです」
私が控えめに発した台詞は、誰も否定してくれなかった。……くそぅ。
「――あれ? そういえばポチ、何だか強そうになってません?」
ふと、ポチの足に金属製の爪が付けられているのが見えた。
私の言葉に、グレーゴルさんの表情がぱぁっと明るくなる。
「おお、気付いてくれたか! 実はこれ、アイーシャ殿からもらったんだよ。
この前の戦いの報酬ってことでな!」
「へぇ……。グレーゴルさん、大活躍でしたもんね」
「まぁ、単騎で突っ込んでいったのは怒られてしまったけどな……」
そう言うと、グレーゴルさんは少し沈痛な表情を浮かばせた。
誰に怒られたかは分からないけど、あまり触れないようにしておこう。
「……この爪、何だか不思議な感じがしますね」
「ああ、これはポチ用の特別製でな。
魔獣の魔力に反応して、強い攻撃力を発揮するらしいぞ」
「凄い! 魔力に反応する武器ですか!」
「この街の鍛冶屋で作ったそうだぞ? 興味があれば訪れてみてはどうだろう」
……ふむ、クレントスにも鍛冶屋はあるのか。
いや、この世界の街であれば、どこにでもあるか。
「そうですね。鍛冶屋さんの技術って、私の錬金術にも応用できそうなのがあるんですよ。
時間があったら行ってみようかな……」
「アイナ様、それでは翌日の午後はいかがでしょう。
私も興味がありますので、見学に行きたいです」
ルークにしては珍しく、積極的に提案をしてきた。
神器使いのルークとしては、何となく親近感というか、興味が湧いたのだろう。
「アゼルラディアだって、言ってみれば魔法剣だもんね。
うん、それじゃ明日行ってみようか」
「それなら俺も一緒に行って良いか?
アイーシャ殿が結構無理を言って作らせたらしいから、お礼を言っておきたいんだ」
「分かりました、ご一緒しましょう。
時間が空くのは工房の仕事が終わったあとだから……昼食後、14時頃はいかがですか?」
「了解した、その工房で待ち合わせをしよう。
それじゃ俺たちはこの辺で失礼するぞ。……ルーチェ!」
グレーゴルさんが呼び掛けると、青い鳥のルーチェはすぐに彼の元に飛んで行った。
「わぁ、賢いですね」
「……まったくだ。物理寄りじゃなくて完全に魔法寄りだから、知能も高いんだろう。
ポチとは逆のタイプだし、育成にも熱が入るな!」
「楽しみですね!」
私の言葉にグレーゴルさんは満足そうに頷くと、ルーチェと共に、ポチに乗って大空へ飛んで行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――翌日、いつも通り工房での作業を終えて、昼食を取ってからグレーゴルさんと合流する。
「アイナ殿、待たせたな!
……何だ? そこにのびている連中は」
「あはは。賞金稼ぎに、また襲われちゃって」
「はぁ……。アイナ殿たちには高額な懸賞金が懸けられているからなぁ……。
もう少し護衛を増やしてはどうだ?」
「少し前までは、襲われること自体が少なかったんですよね。
だから増やすのは考えていなかったんですけど、この頻度じゃルークとエミリアさんにも負荷が掛かるからなぁ……」
「いっそアイーシャ殿のお屋敷で作業をするのはどうだろう。
アイナ殿の錬金術なら、それもできるんだろう?」
「それも一手なんですけどね。
でも正直、私も外くらいは歩きたいので……」
ワガママと言えばワガママだけど、引き籠っていたら気が滅入ってしまう。
戦闘力でどうにかできる問題であれば、私は遠慮なく外に出たかった。
「これでもアイナさんには我慢してもらっているんですよ。
本当は、明け方にジョギングしたいんですって」
「ほう、健康のためかな?」
「どちらかと言うと、体力作りのためです。
身を護るために、少しでも身体を動かせるようにしないと……って」
新しい魔法を覚えるのも良い。新しいアイテムを作り出すのも良い。
しかし戦いに臨むなら、基本的なところで『体力』が必要――というのが、最近出した結論だった。
「アイナ殿の変な錬金術は、攻撃力だけはあるからな……。
なるほと、次は防御力、総合力か」
「変な錬金術って……」
……まぁ、変だけど。
そんな雑談をしながら、グレーゴルさんが先導をして案内してくれた。
詳しい場所は、昨日アイーシャさんに聞いておいたらしい。
「ちなみにルークにとっては地元だけど、その鍛冶屋さんのことは知ってるの?」
「この辺りの鍛冶屋といえば……はい、知っている場所だと思います。
しかし普通の武器や防具を作るところなので、魔獣の爪を作るなんて……?」
……場所に心当たりはあるが、仕事に心辺りは無い。そんな感じか。
「武器のジャンルをがらっと変えるのも、さすがにハードルが高いからね。
技術職だから新しい仕事に挑戦――っていうのは、あり得るかもしれないけど」
錬金術て例えれば、アーティファクト錬金の専門家がバイオロジー錬金に鞍替えするようなものだ。
ゼロからのスタートではないけど、違う分野に進むのであれば、また山の麓から始めなければいけない。
「――っと、そろそろ見えてきたぞ。
あの道の向こうに見える建物だ」
グレーゴルさんがそう言うと、ルークが思い出したように続けた。
「ああ、あの鍛冶屋です。
私が初任給で剣を買ったところなんですよ」
「へぇ、思い出のお店だね!」
「ええ。……とすると、やはり魔獣の爪を作るなんて……?」
知っているからこそ、さらに不思議に思ってしまう状態だ。
「……やっぱり鞍替えしたのかな?
まぁ、そこら辺は聞いてみようか」
「いえ、特に主人と仲が良いわけでもありませんから。
そこは気にせず、いろいろと見せて頂くことにしましょう」
「そう? ……まぁ、そっか」
思い出の店とは言え、必ずしもお店の人と面識があるわけでもない。
無理に思い出を語ったところで、向こうとしても『はぁ……』という感じで、きっと困ってしまうだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「――よし、それじゃ入るか。
すまん、誰かいるかー!?」
グレーゴルさんのあとに続いて、私たちも鍛冶屋に入って行く。
鍛冶屋とは言っても、鍛冶場の隣に併設されているお店のようだった。
しかし残念なことに、お店の中には人影は無かった。
「……あれ? 誰もいませんね。お店の人もいない……」
奥にいるのかな?
「おーい! すまん、誰かいるかー!?」
奥の様子を窺いながら、グレーゴルさんが改めて呼び掛ける。
しばらくすると、ようやく奥から気配が感じられた。……ああ、良かった。誰かしらはいたんだ。
「……でもこれ、防犯的には大丈夫なんですかね?
誰もいないなんて、商品を盗み放題なのでは……」
クレントスの治安は悪くないとは言え、お店に誰もいなければ、きっと盗みを働く人間だっているだろう。
そんなことを考えていると、奥から一人の男性が現れた。
「――すまん、すまん。
最近あまり眠れていなくてな、ちょっと奥で居眠りを……」
「「「え?」」」
「お?」
私とルークとエミリアさん、そして奥から現れた男性の言葉が被さった。
目の前に現れたのは、私たち三人がよく知る人物。
神剣アゼルラディアの元、『なんちゃって神器』の剣を作った鍛冶師――
「アドルフさんっ!?」
「おお、アイナさんたちか!? こいつぁ奇遇だな!!」
鉱山都市ミラエルツで鍛冶屋を営んでいたアドルフさん。
……ええ!?
アドルフさんが、何でこんなところに……!?