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私たちを見て、アドルフさんは驚きながらも満面の笑みを浮かべた。
「いやぁ、本当に久し振りだ。
最後に会ったのは、アイナさんたちがミラエルツを発ったときだからな」
「はい! それにしても、何でクレントスに?」
「まぁ……、いろいろあるんだが」
頭を掻きながら少し勿体ぶっているところに、グレーゴルさんが割って入ってきた。
「アイナ殿? こちらの御仁とは知り合いなのか?」
「以前お世話になった鍛冶師さんです。私たちの仲間なんですよ」
「っ!! おお、アイナさん。俺のことを仲間だと思っていてくれてたんだな……!」
私の言葉に、アドルフさんは感動していた。
「え? そういう話でしたよね?
属性ナイフも、5人で分けたわけですし」
「まぁ、そうなんだが……。
あのときは俺も少し強引だったし、渋々だったんじゃないか……とか、な?」
「ああ、確かに」
「そこは否定してくれよっ!」
アドルフさんのツッコミが私に飛ぶと、和らいだ空気が辺りを満たした。
そもそもあまり畏まった関係ではないのだから、私としてはこっちの方が気楽で良い。
「アイナ殿。話が長くなりそうだから、俺の方を先に済まさせてもらうぞ。
アドルフ殿、俺はグレーゴルと言う者だ。アイーシャ殿が貴殿に魔獣の爪を作らせたと聞いている。
なかなかの業物をありがとう」
「おお、あんたがグレーゴルさんか!
アイーシャ様には無理を言われたが、結構な出来に仕上がっているだろう?
調整が必要だったら、また声を掛けてくれな」
「うむ、大切に使わせてもらうぞ。
ではアイナ殿、あとは任せた」
「え? ああ、はい」
何を任されたかは分からないけど、お言葉に甘えて私のペースで進めさせてもらおう。
「――それで、アドルフさんは何でクレントスに?」
「えーっとな。実は引っ越してきたんだ」
「え? ミラエルツのお店はどうしたんですか?」
「ああ、店じまいしてきた」
何ということも無し、あっさりと言うアドルフさん。
「それは、何ともまぁ……」
「息子夫婦と孫には悪いが、俺はまだまだ職人でありたかったからな」
……んん?
それなら、鍛冶屋を店じまいするのは少し違うような……?
でもこの話、どこまで踏み込んで良いものだろう。
「ふーむ……?」
「ところでアイナさん。俺もあの『世界の声』を聞いたんだが――
……その、神器……神剣アゼルラディアっていうのは、今はあるのかい?」
「はい、ルークが持ってますよ」
私がちらっとルークを見ると、彼は鞘から神剣アゼルラディアを抜いて、アドルフさんに見せた。
「おぉ……っ!! これは……、こいつは……。
……うん、うん。そうか、そうだったのか……」
「ちょっ!? 大丈夫ですか!?」
アドルフさんは神剣アゼルラディアを眺めながら、ぼろぼろと涙を流し始めた。
私はそれを見て、思わず声を掛けてしまう。
「ああ、大丈夫。大丈夫だ……。
……いや、すまん。俺が打った剣が、やはり神器の礎になっていたんだな……。いや、年甲斐もなく、申し訳ない……」
それを聞いて、私は納得した。
神器というのは、言ってみれば剣や魔法剣の最高峰だ。
作った時点では違ったが、結果として自身の作ったものがその最高峰に上り詰めた――
……職人としては、やはり思うところがあるのだろう。
「すいません、作ってもらったときは素材集めの途中でして……」
「いや、アイナさんが謝ることでもない。
仮にあのとき言われても、俺には信じられなかっただろうからな」
「あはは……。
ルークとエミリアさんにも、内緒にしていましたからね」
「アイナさん、剣も使えないのにずいぶん高い買い物をするんだな――って。
ねぇ、ルークさん」
「私に振らないでくださいよ……」
……なるほど。ルークもやはり、そう思っていたか……。
「いや、元が無くても機能的には作れたはずなんですよ。
でも、神器がそこらへんのロングソードと同じデザインじゃダサいじゃないですか。
……私の錬金術って、デザインまではしてくれないから」
「ははは、確かにな。
この剣には、俺も力を入れたから……。それに素材も、今はオリハルコンやミスリルなんだろう?
以前には無かった風格が、この剣からはびしびしと感じるぞ」
「アドルフさんにそう言われると、ようやく安心できた気がします」
アドルフさんは神剣デルトフィングを間近に見たことがあるから、どこかで比較をしているはずだ。
その上で好意的な評価であるなら、神剣アゼルラディアは品質としても、きっと問題は無いだろう。
「――しかしこの剣、凄いよなぁ……。
試しに付けた魔石スロットがしっかり残っているし……」
「何だか上手く残ってくれました!」
「どういう理屈でこうなったのか、アイナさんとは語り明かしたいところだが……」
「うーん。ここはスキル頼みでやったから、ちょっと分からないんですよね」
こと魔石スロットに関しては、ユニークスキル『理想補正<錬金術>』のおかげなんじゃないかな。
神器作成の途中で鑑定したらF+級だったけど、最後に鑑定したらS+級になってくれたわけだし……。
「ふむ、そうか……。
まぁそれはそれとして、ようやく再会できたんだ。俺と別れてからの話を聞かせてくれよ」
「分かりました、是非! 夕方から夜の間は、大体空いていますので」
「それじゃ今日はどうかな。今は店番を頼まれているんだが、夕方には店主も戻ってくるだろう」
「アドルフさんって、ここで働いているんですか?」
私の言葉に、アドルフさんはニヤリと笑った。
「実はな、アイーシャ様の出資で、俺も鍛冶場を持つ予定なんだ!」
「おお、そうなんですか!?
……って、何でクレントスなんですか? 鍛冶屋なら、ミラエルツの方が良さそうですけど」
ミラエルツは鉱山都市と呼ばれるだけあって、鉱石が安くて手に入りやすい。それに、種類もたくさんある。
それを考えると、わざわざクレントスに来るというのもおかしな話に聞こえる。
「それは――本人の前で言うのも照れくさいんだが、アイナさんがいるから……だな」
「え? 私?」
思わぬ言葉に、私は聞き返してしまった。
「まぁ……何と言うか、アイナさんは錬金術の最高峰にいるだろう?
アイナさんと一緒なら、俺ももっと鍛冶の高みを目指せると思ったんだ」
「それは、ありがとうございます……?
でも、私も鍛冶の技術は錬金術に使えると思っているので、お互い様ですね!」
「ああ、話が早くて助かる。
そんなわけで、俺はこれからずっとアイナさんに付いていくからな!」
「え、そこまでですか!? 引っ越しとか、私も簡単にできなくなりますね」
今のところは引っ越すつもりはないけど、これからどうなるかは分からない。
最近は賞金稼ぎに襲われることも多くなったし、これが悪化するのであれば、もしかしたらクレントスから出ていかなければいけない。
「はははっ。なぁに、俺の腕があればどこでも問題ないさ。
ただ、金は掛かるから……。回数は少ない方が嬉しいかな……」
そう言いながら、アドルフさんは私をちらっと見た。
その仕草が、何だかとても可愛らしかった。
「いざとなれば私もお金を出しますよ。王都ではそれなりに稼ぐことができましたので」
「おお、さすがだ……。それじゃ、お金が無いときは頼らせてもらおう。
その代わり、俺にできることは何でも任せてくれな!」
「お」
「……お? 早速、何かあるのか?」
私の発した一言に、アドルフさんは興味深そうに食い付いてきた。
アドルフさんにお願いしたかったこと。それはたくさんあるんだけど、まずは――
……私はアドルフさんを連れて、お店の片隅に向かった。
もちろん、内緒話をするためだ。
「アドルフさん、実は杖が欲しいんです」
「杖? 杖はちょっと、俺の専門ではないぞ?」
「ええ、ただの杖にするつもりはないんですよ」
「うん?
……それって、もしかして?」
「もしかします!」
私が力強く頷くと、アドルフさんの表情が明るくなった。
どうやらすぐに察してくれたようだ。
――その杖は、次の神器候補の礎。
現存する神器がすべて『神剣』のところに、新たなる神器の『神杖』が追加される。
想像しただけでも、胸がときめいてしまうというものだ。
「よし、分かった。それじゃ、まずはデザインから入るとするか!
ちなみに、要望は何かあるのか?」
「えっとですね、魔法使いっぽいデザインでお願いします。
……要望としてはそれくらいかな?」
「すると、これはアイナさんが使うのか? エミリアさんは司祭だから――」
「そこはまだ決めていないんですよー」
……もしかしたら、それまでにエミリアさんが魔法使いにジョブチェンジするかもしれないし!
神剣を振るう『竜王殺し』に、神杖を振るう『暴食の賢者』。
できればそんな構図で攻めてみたいところだけど、さてさてどうなることやら……!