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あの日の朝ごはんから、僕たちの生活は少しずつ穏やかになっていった。
涼ちゃんは相変わらず天然全開で、毎日何かしらの「事件」を起こしては、二人を笑わせてくれた。
若井はそんな涼ちゃんを優しくたしなめつつ、僕の体調を気にかけてくれていた。
「元貴、今日は無理しないでな」と声をかけてくれるその言葉が、何よりも心強かった。
でも僕は、まだ完全には自由になれていなかった。
薬は時々、僕の心を落ち着かせるための道具として必要だった。
そのせいで体調を崩すこともあった。
時には夜中に吐き気で目を覚まし、トイレに駆け込むこともあった。
そんな時、若井が必ずそばにいてくれた。
「大丈夫か?」と優しく背中をさすってくれるその手に、何度も助けられた。
涼ちゃんはそんな僕を見て、明るく励ます。
「ねぇねぇ、元貴、また無理しないでね!僕たちがいるんだから!」
僕はそんな二人の優しさに救われながらも、薬の力に頼る自分に苦しみ、葛藤していた。
それでも、日々の中に少しずつ光を見つけていく。
窓の外に咲く花の色。
二人の笑い声。
温かい食事の味。
ゆっくりと、だけど確かに、僕は生きている。
若井はいつも通り、笑顔を絶やさなかった。
でも、その笑顔の裏に隠れた疲労は、隠しきれなかった。
僕は気づいていていた
あの目の奥にある影。
朝、リビングに現れた若井は…ほぼゾンビだった。
「……おは…」
声はかすれ、歩くたびにフラフラ。
「ちょ、ちょっと待て!」僕が駆け寄ると、額が信じられないほど熱い。
「やば…この熱、カップ麺なら3分でできる温度だぞ」
涼ちゃんの余計な比喩に僕は睨みを飛ばす。
ソファに寝かせ、濡れタオルを額に乗せる。
若井は「平気…」と言いかけたが、その直後ゴホゴホと咳き込み、
涼ちゃんが「平気の定義変えたほうがいいね!」と叫ぶ。
「スポドリ取ってくる!」と涼ちゃんが台所へ走った。
…が、5秒後、
「やば!フタ開かない!」
「包丁でやるな!!」僕は急いで止めに入る。
何とか飲ませると、今度はスープを作り始めた涼ちゃん。
「安心して、今度はこぼさないから!」
宣言したその瞬間、鍋の中から「ボフッ」と盛大な吹きこぼし音。
「…今の音、なに?」若井がかすれ声で呟くと
涼ちゃんは真顔で「愛情が爆発した音です」と返した。
それでも交代で看病を続ける。
僕は熱を測っては「まだ高いな」と眉を寄せ、
涼ちゃんは「ほら、ポカリにストロー挿したよ!飲みやすくてかわいいでしょ!」
と意味不明なテンション。
若井は弱々しく笑ったり、咳き込んだりを繰り返していた。
深夜、ようやく熱が少しだけ下がり、彼が眠りについた。
涼ちゃんは「ふぅ…ぼくも熱出そう」とソファに倒れ込み、僕はその寝顔を見ながら心の中で思った。
(次に倒れるのは涼ちゃんだな…)
そして僕は、若井の手をそっと握りながら誓った。
「もう、無理させない…でも涼ちゃんには少し無理してもらうか」
汗だくの若井は少し笑った。