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王様の朝は早い。
まだ薄暗い、と言うか、真っ暗な早朝から起き出して、日々の日課をこなすのが常である。
別に王様、ナッキが真面目だとか、責任感に追われてだとか、そう言う訳ではない。
では何故、王様たるナッキの朝は早いのだろう?
理由は単純、誰よりも早起きして作業に取り掛からなければ、その日の内に仕事が片付かない、それだけの事に圧迫感を感じて起きざるを得ない、それだけだったのである。
毎日の日課の中でも、朝一番に済ませて置かなければならない任務としては、やはり、この池全体の哨戒(しょうかい)任務、所謂(いわゆる)見回り、それを上げなければならないだろう。
これは池の状況に特段の変化やその兆しが見られないかどうか、確認するだけではなく、外部からの侵入者の有無、またその痕跡が見受けられないかどうか? それらの治安維持全体に及ぶ警護任務の要(かなめ)と呼んで差し障り無い重要なお仕事、メダカによればそう言う類の仕事らしい。
こう言った地道な監視作業は非常に大切な事らしい。
大切なら、そう言われてしまっては、素直で真面目なナッキが手を抜くなんて事は出来ない、当たり前である。
池とその周囲を見回り終わる頃、メダカ達が目を覚ましてチラホラ泳ぎ始め、この池にもある上流から水が注いでくるエリアに集まり始めた頃、餌を食べ始めるメダカたちを尻目にナッキは次の仕事へと向かうのであった。
朝食をとる間もなく向かわざる得ない場所は、所謂(いわゆる)工事現場である。
メダカの長老達が考え図面を引いた、池の改善点、それを成し遂げるためには、彼らより力が強く、大きな石や流木を運べる王様、ナッキの存在が不可欠であったのだ。
「ふぅ~、これで流木は運び終わったぞ、やれやれ、くたびれちゃったな」
少し離れた石運びの現場から、ナッキに向けて揃った声が掛けられる。
『おい! 何サボっているんだよ、王様っ! そっちが終わったんならサッサとこっちの石を運ばなくちゃ駄目だろうがぁっ! ちゃっちゃとしろよっ! 王様なんだよなぁ? だったら働かないとぉ! 全くぅっ!』
「は、はいはい、ただいまぁ~!」
休む間もなく働き続けるナッキであった。
その後も二箇所の土木造成の主力として働いた後、お昼寝の母親に代わって子供たちの面倒を見るベビーシッター業務、夕方には民であるメダカの様々な陳情を耳にしながらの慌しくこの日最初の食事の時間を楽しむ暇も無く、只、腹中に餌を流し込んだ後は、夜の見回り、そして明日の造成工事の準備を終えると、いつも通り日付が変わって大分過ぎた時間なのである。
「うぁあぁー! きょ、今日もくたびれたぁ…… 王様って、大変だなぁ~! ふぁぁー!」
そんな一言だけを残して、日課のように意識を失うナッキであったが、日々の激務に追われる中、いつの間にか、あの嵐の日にごっそりこそぎ落とされた左半身の鱗が完全に、いいや、より強く再生していた事にも気が付いていなかったのである。