テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
翌朝も僅(わず)か二時間ばかりの睡眠を取ったきりで、文句も言わず働き始めたナッキの姿を、物陰から見つめていた複数の影は声を揃える。
『あれでは王様ではなく下働き、いいやまるで労働奴隷ではないか、良いのかメダカ?』
全員綺麗に声を合わせていたのは、メダカの群れの中では比較的大きな個体、年長だろう十数匹であった。
『良い訳が無いだろう、王様にはもっとこう、どっしりと構えていて貰わねばならん! しかし、王様自身がな……』
全員の問い掛けに全員が声を揃えて答える、中々シュールだ。
『うむ、毎日齎(もたら)されるメダカの陳情を受けて、どんどん仕事を請け負ってしまうのだから、困ったな』
『困っていても仕方が無い、若い者達にはもっと王様を敬うように指導するとして、王様にも安請け合いは慎むよう頼んでみるしかなかろう』
『そうだな、そうしてみるとしよう』
『ああ、ふぅー』
複数では有るが自分で言って自分で返事をしているのだ。
客観的には馬鹿みたいだが、メダカは集団で話をするのだから、別に老いが原因とかそう言う事ではないだろう。
メダカの長老たちの心配を他所(よそ)に、今日も王様のナッキは汚れ仕事や力仕事に精を出すのであった。
この日の日中、年長のメダカ達は、朝話し合った通りに若いメダカの集団、具体的に言えば口だけで体を動かさなくなった土木担当の数グループと、ナッキが来て以来ややネグレクト化していた若いママ友メダカのグループに対して、大目玉を食らわせたのだ、メダカだけに……
|僅《わず》かとは言え体の大きな長老達である、大きく口を広げて怒り続けられた若者達は、喰われる! そんな風に感じておびえ捲り、今後一切王様であるナッキに関わらない、と声を揃えて約束したのである。
『関わらない? ああぁっ!? それはそれで不敬じゃないかっ! 全くっっ! お前等は何も判っちゃ居らんじゃないかぁっ! 大体だな――――』
「どうしたの皆? 何か揉めているのかい?」
『っ!』
『こ、これは、お、王様、お見苦しい所をお見せしました……』
「喧嘩、なの? 駄目だよ、仲良くしないと」
『いえいえそうでは有りません…… えっとぉ、実はですね――――』
年長のメダカ達が事情を説明する間、頷きながら話を聞いていたナッキは、俯いて震えている若いメダカ達に向かって言ったのである。
「なるほど、傍目(はため)にはそんな風に見えちゃっていたんだね…… ゴメンよ君たち、僕の説明が足りなかったせいで怒られちゃったんだね? それに君たちにも心配をさせてしまっていただなんて、君たちにもごめんなさいだよ、トホホ」
『っ?』
『お、王様? それは一体、どう言う事でしょうか?』
ナッキは少しバツが悪そうにしながらも、問い掛けに答える。
「実は皆の話を聞いてね、僕自身がやってみたい事があって皆に協力してもらって居たんだよ、土木工事や清掃作業を中止して貰ったり、子供たちの面倒を見させて貰ってみたり、朝と夜の見回りを代わって貰ったりしていたんだよね」
年長のメダカ達は、傾げた首の動きと同様に例の如く声を揃える。
『何の為です?』
ナッキは照れ臭そうに微笑みながらも、力強い口調で答えた。
「この池の改善さっ! この間みたいな嵐や大雨が来ても安全な池に作り直そうと思ってね! んでどうせだったら子供たちにとってより安全にしようと思ったんだよ! それにメダカ全体の安全、食料の安定供給、それらも何とか出来たら良いなって思って色々試行錯誤していたんだけどね…… 考えてみたら君達がずっと暮らしてきた場所なのに、勝手に変えようとしていたなんていけない事だったよ…… ごめんなさい、王様になって少し、ううん、かなり浮かれてしまっていたみたいだよ、乱暴に事を進めてしまったみたいだよ、許してね」
『お、王様、ううぅぅ……』