テラーノベル
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ものすごい規模の記念ライブの準備が整い、僕たちはとうとうDAY1を迎えた。
僕の髪も、これまで存分に青髪をみんなに印象付けた後に、思い切りピンクと赤のバイカラーに変えた。同カラーのエクステも付けて、派手髪の真髄を魅せるつもりだ。そして、より『赤』を、全身で表現出来るようにしてもらった。
逆に、今回は全員メイクは薄め。敢えてギラギラと飾り過ぎず、10年前の僕らとの繋がりを感じさせられると思う。
オープニング映像が始まり、僕たちが登場すると、大歓声で迎えてくれた。
僕を指差して「赤?!」と隣の人と驚いているファンが見えた。狙い通りの反応に、僕は笑みが溢れる。
無事にDAY1の全てを演り終えて、舞台裏の楽屋テントへと戻る。
汗と涙と水とシャボン玉とスモークで、身体はベタベタだ。取り敢えずは汗でも拭こうと、アンコールで着替えた黄色いシャツを脱ぐ。僕の身体を見て、若井が驚きの声を上げる。
「うわ、涼ちゃん真っ赤っかじゃん!」
鏡を見ると、最初の素肌に赤衣装を直で着ていたのがやはり響いたのか、身体が全体的に赤くなっていた。
「痛そう、大丈夫?」
元貴が冷やしタオルを当ててくれる。
「んーん。そんなに痛くないよ。まあ汗もかくし、しょーがないよね。」
「早くシャワー行っといでよ。」
若井に言われて、僕はまたシャツに頭を通して、着替えとバスタオルを持ってシャワーブースへ急いだ。テント内の仕切り布を潜り抜けると、隣にシャワーブースがある。
全身を綺麗に洗って、さっぱりして控え室に戻ると、次若井どうぞ、と元貴が言った。若井は元貴の目を見て、へいへい、と言って出て行く。
若井が向こうへ行った後、元貴が自分の荷物から、軟膏チューブを取り出した。
「はい、涼ちゃん、これ皮膚科の薬。炎症抑えるやつだから、使って。」
「え、僕?」
「…これ涼ちゃんに持ってきたやつ。絶対こーなると思って。」
「えー、すごい、お母さんみたい。」
僕が笑うと、元貴が呆れたようにため息を吐いた。
「こっち来て、塗ったげる。」
元貴が、鏡台の前に立ち、僕を呼んだ。
「ありがとう。」
そう言いながら、僕はシャワー終わりに着た新しいTシャツを脱ごうとした。
「脱がなくていい。」
元貴が制止したので、そう?と言いながら、元に戻す。
「…やっぱり、シャツ下に着たら?明日。」
背中をたくし上げて、元貴が言う。
「んー、大丈夫だよ、シャワーでだいぶマシになってるでしょわ!」
何も言わずに冷たい軟膏を塗られたので、語尾が上擦った。
「そーだけど…。」
ボソリと言って、元貴はそのまま黙って軟膏を塗り広げる。あー、冷たくて気持ちい。
「…はい。前は?」
背中を塗り終えたのだろう、元貴が振り向くよう促した。
「え、前は自分で出来るからいいよ、ありがとう。」
僕が笑顔でそう言うと、元貴は少し考えて、そーだね、と薬を手渡した。
良かった、なんとなく向かい合って身体の前の方を塗られるのは、ちょっと、いやかなり、恥ずかしいところだった。
鏡を見ながら、前をたくし上げて、自分で塗り広げる。うん、やっぱりもうそんなに赤くないし、明日も大丈夫そうだな。
塗り終えて、シャツを元に戻すと、後ろから元貴が抱きついてきた。最近忙しかったから、あまりこういう、なんというか、甘い感じの時間が無かったので、僕はすごくドギマギとした。しかもまだライブの控え室なのに。それも、テントという曖昧な個室で、外界との隔たりの弱さも気になった。
「…どうしたの?」
「…別に…。」
背中に隠れて、鏡でも元貴の顔は見えない。振り向いても、背中に顔を埋めているので、やはり見えない。
十周年の本当に特別なライブだったんだ、色々と元貴の中で爆発が起きていたのかもしれない。僕は、お腹に回されている元貴の手を、ポンポンと優しく叩いた。
「…キスだけしていい?」
後ろから、元貴のくぐもった声がする。ドキン!と心臓が鳴って、一瞬生唾を飲んでしまった。
「…誰も来ないうちに、ちょっとだけ。」
元貴が追い打ちをかける。僕がそっと振り向くと、少し僕より可愛らしい背丈の元貴が、上目遣いで見てきた。これは、反則だ。
「…うん…。」
僕がそう答えると、元貴が目を細めて笑った。向かい合った僕の肩にそっと手を置いて、力を込める。
「…座って?」
僕が動こうとしないので、元貴が促す。後ろを見ると、椅子が置いてあって、ああ座って欲しかったのか、と僕はそれに腰掛けた。
僕の肩に手を置いたまま、元貴が上から見下ろす。
「なんで?」
「…この方がいいから。」
「…身長?」
「うるさい。」
上方からゆっくりと元貴の綺麗な顔が降りてきて、僕はそっと目を閉じた。唇が重なって、そこだけが暖かい。空調の音や、外のガヤガヤとした声が、やたらと耳についた。
長いキスの後、ゆっくり唇が離れて、あ、もう終わりか…と少し寂しく思っていたら、至近距離で元貴の顔が止まった。ん?と思い、薄く目を開けると、元貴の両の眼が開かれたまま、眼前1センチほどに顔が見える。いや、近すぎて逆に見えない。
「…もとき?」
ゆっくり名前を呼んで反応を促しても、元貴は黙ったまま動かない。
「…だめだ。」
そう呟いたかと思うと、元貴に顔を両手で挟まれて、僕の唇へと舌を捩じ込んできた。突然の事に、身体が少し跳ね、椅子がガタ、と鳴った。
「ん…はぁ…っ…ぁ…。」
くちゅ、ぴちゃ、と音が鳴って、淫靡な空気に耳を侵される。僕の手は、元貴の腰あたりのシャツをぎゅっと握ってしまってから、慌てて手を離す。まだ明日もあるのに、衣装の形を崩しちゃうところだった。
「んぁ…ふ…ぁ、ま、って…だ…め…。」
何とか椅子の座面の両脇を握りしめて、ゾクゾクと背中を駆け巡る快感に身を委ねるのを防ぐ。だめだ、ここで、これ以上は、だめ。
少しの理性を保って、何とか元貴の胸元をトントンと叩く。
「…んむ…も、…ろ、きっ…!」
間仕切の向こうで、シャワーブースのドアが開いた音がした。若井が、戻って来ちゃう…!
「…ゃ…ん…!」
尚も口内を蹂躙し続ける元貴の肩を、思い切り押しのける。やっとの事で顔を離してくれて、僕は肩で息を整えながらホッとした。
「…若井!ちょっと待って!」
元貴が僕の顔を見ながら、間仕切の向こうへ声を掛ける。
『…ナニしてんだよ!』
「なんもしてない!」
『ウソつけ!』
元貴が、冷やしタオルで僕の顔を覆う。
「んぶ!」
暫くされるがままにじっとしていたが、なかなか息を吸いにくくて、元貴のタオルを押さえている手をタップする。
「っはぁー!…死ぬから!」
ようやくタオルを退けてくれて、思いきり息を吸う。
『涼ちゃん、大丈夫?』
「うるせー大丈夫だよ。」
『はよしろ!』
元貴は若井に応えながら、僕のほっぺを何度かタオルでポンポンと冷やした後、うん、と頷いた。
「…あの顔は若井に見せらんないからね。」
元貴はそう耳打ちすると、タオルと着替えを持ってスタスタとシャワーブースへ向かう。
「若井何してんの、早く退いて。」
「お前なぁ!」
ケタケタと笑いながら、若井と入れ違いに間仕切の向こうへと消えていった。
「…ったく、涼ちゃん大丈夫?」
「ん!?ざいじょうぶ!」
「…ざいじょうぶならいいけど。」
若井が呆れた顔で笑うので、僕は恥ずかしくなった。まだ心臓はドキドキしていて、僕は自分で冷やしタオルを持って、顔に当てて火照りを収めた。
コメント
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💙のへいへいと💛ちゃんのざいじょうぶがツボでした~🤭💕可愛いです🫶 でも、本当にフィヨルドの💛ちゃんの衣装が好きです!あの長めのアクセもお似合いで🤤
更新ありがとうございます。ほんと可愛い😍 我慢できなくなっちゃう❤️君…✨ でも、💛ちゃん可愛いし、自分のメンカラ地肌に来てくれてるし、そりゎ我慢出来なくなりますよね💦 また次のお話も楽しみにしています🥰
今回も最高です(,,>᎑<,,) 続きを楽しみに待っています( ´›ω‹`)