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「私、須藤さんと本当に合わない」
私は、チーズトーストを食べながらイライラと愚痴を吐いた。
「どうしたの? いきなり」
沙希が定番となったサラダランチをつつきながら答える。
「なんか仕事の姿勢って言うか、対応って言うか何もかもが合わないの」
そう言うとスープランチを優雅に食していた美野里がスプーンを動かす手を止めて私を見た。
「もしかして朝話した件で何か有ったの?」
私は直ぐに頷いて、須藤さんの反応について報告した。
「それ大丈夫なの?」
沙希が眉間にシワを寄せて言う。
「須藤さん宛てのメールに注文したって書いて有ったんでしょ? トラブルにならないといいけど」
美野里も須藤さんのやり方が納得いかないみたい。
「私も心配なんだけど、須藤さんが打ち合わせの時に話せばいいって言うから」
心配でも気にいらなくても会社での役職は須藤さんが上だから、あまり食い下がる事はできないんだよね。
「打ち合わせって結局いつになったの?」
「クリスマスイブの日」
「ええっ?」
二人は驚きの声を上げる。
「何でそんな日に?」
うん、本当に私もそう思う。
「あいつわざとクリスマスイブに合わせたんじゃないの? 嫌がらせで」
沙希はうんざりした様に言う。
そんな事無いだろうと思いたいけど、須藤さんの嫌味な態度を思い出すと絶対違うとは言い切れない。
「でも須藤さんだってイブは予定が有るんじゃないかな?」
美野里がもっともな疑問を口にする。
須藤さん、性格は難有りだけど外面は完璧だしイケメンだから、イブに一緒に過ごす相手がいないなんて思えない。
でも沙希は馬鹿にした様な悪女みたいな笑い顔になった。
「彼女なんていないよ。あの性格じゃ女が逃げて行くって。自分が暇だから他人に嫌がらせしてるんだよ」
「ええ……そうだとしたら私かなり嫌味言われるんじゃない?」
行き帰りの電車とかかなり憂鬱。
「そうだよ。打ち合わせが終ったら花乃は出来るだけ上手く須藤さんを巻いて現地解散の勢いで逃げるんだよ。帰り道は仕事じゃないんだし」
「うん、そうする」
イブは十時に大樹が来るし、出きるだけ早く家に帰って準備したい。
あまり時間は無いけどプレゼントも渡したいし、ケーキも一緒に食べたい。
須藤さんのおかげでイブの楽しみが半減してしまったけど、初めての恋人同士のクリスマスイブはとっても楽しみなんだから。
一時間程残業をして、オフィスを出る。
スマホを確認したけれど大樹からの着信は全く無い。
昨日電話をくれたからもしかして今日もってちょっと期待してしまっていた私はがっかりしながら一人駅に向かう。
時間通りに来た電車に乗り、ドアにもたれかかり外の景色をぼんやり眺める。
大樹……明日の朝も早く行くのかな?
きっと行くよね。しばらく早く出るって言ってたんだから。
朝会わなかっただけなのにもう随分顔を見てない気がしてしまう。
今まで当たり前に私を待っていてくれたから、急に居なくなると喪失感でいっぱいになる。
別に大樹がどこかへ行ってしまう訳じゃないのにね。家だって隣だし、それにこの前お互い告白したんだし。
私、何時の間にこんなに寂しがりやになったんだろう。たった一日顔をみないだけなのに凹んでるなんて変だよね。
そうは思いながらも直ぐに大樹の事が気になってしまう。まさに恋わずらいって感じだ。
夜遅く大樹から電話が来たけれど、やっぱり明日も朝は早く出るって報告だった。
週末も休日出勤で会えないみたいだし、クリスマスイブまで会えないかもしれないって。
毎日電話はするって言ってたけど、かなり寂しいし、悲しい。
仕事じゃ仕方無いけど元気になれない。
翌日、土曜日は大学時代の友達との約束が有ったからそれ程寂しさは感じなかった。
日曜日は何の予定も無かったからどうしても大樹が気になってしまう。
暇で近所のコンビニに行く途中、大樹が借りてる駐車場の近くを通る。
大樹の車は無いから仕事に乗って行ったのかもしれない。
大手町に車で行くのって逆に大変じゃないのかな?
運転が苦手な私はそう思うけど、大樹は何でも上手くこなしそうだもんね。
自由に動ける車の方が楽なのかもしれない。
仕事中じゃ気軽に電話も出来ないしつまらない。
憂鬱になりながら取り溜めていたドラマを見たり、お母さんに煩く言われて掃除をしたり、それなりに何かをして過ごしていたけれど、なんだか満たされない日曜日だった。
それから月曜日も火曜日も大樹は朝早く出て行ってしまって、信じられない事にもう一週間くらい、大樹の顔を見ていない。
こんなの、この一年で初めてだと思う。
いつも私が望まなくても大樹は私の側に居て、それがいつの間にか当たり前になっていて。
仕事が忙しいんだから仕方無い。頭ではそう思ってるのに、私は寂しくて仕方なくて、暗い気持ちになってしまう。
それに大樹を酷いと思う。
あの日……頑張って好きだって伝えて大樹も好きだって言ってくれたから、私はこれからもっと大樹と仲良くなれるんだって思ってた。
今まで以上に一緒に居るんだって勝手に期待しちゃってた。
クリスマスイブだって会社帰りに待ち合わせして出かけられるって……。
それなのに告白したらまるで今までと逆転してしまったみたいに大樹は私を放ってばっかりだし、電話はくれるけど顔を見る事は出来ないし。
私は会えなくて寂しいのに、大樹は全然平気そう。
前と違って今は私の方が今度は大樹を追いかける様になっている。
付き合うってこんなに寂しいものなのかな?
もっと幸せになれると思ってたのに、こんなに満たされないものなのかな……普通の恋人同士ってどんな感じなんだろう。
沙希達は井口君と一緒に住んで毎日ふたりで過ごしているけど、美野里は実家暮らしで長い付き合いの彼とも頻繁には会ってないみたいでそれぞれ形は全然違う。
でも沙希も美野里も幸せそうなのは共通している。私みたいにグダグダ悩んだりはしている様に見えない。
ふたりは私より付き合ってから長いから?
恋愛の経験が多いから?
分からない。ただ分かるのは私はどんどん大樹が好きになってるって事。
大樹と一緒に幸せなクリスマスイブを迎えて、これからもずっと一緒に居たい。
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