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「……ハンス。東方の『シノノメ』から買い付けた、高密度魔導鋼の入荷予定日はどうなってる?」通信端末のスピーカーから、闇商人の慌てふためいた声が響き渡った。
『魔王様! それどころじゃありませんよ! 東方の和風魔族国家『シノノメ』の領主、将軍・カゲミツの率いる遠征軍が大挙して押し寄せてきてます! 辺境の第二防衛境界線を強行突破しましたッ!』
「……あ?」
俺はパイプ椅子に深く腰掛け、手元の書類から顔を上げた。
シノノメ。魔界の最東端に位置する、東洋の武士や忍びの文化を色濃く残した孤立主義的な魔族の国家だ。刀や槍を携え、洗練された『気』と結界術を操る集団だと聞いている。
『主戦派の残党と通じてたらしいですぜ! 異端のハーフが玉座に就いたのを「魔界の面汚し」として、自慢の【鬼神鉄騎隊】で一気に魔王城まで攻め落とす気です!』
「……はぁ。どいつもこいつも、新政権発足のたびに挨拶代わりに攻め込んでくるのは何の病気だ?」
俺は盛大に本日何度目かわからない欠伸を噛み殺すと、冷えた缶コーヒーを飲み干して空き缶をゴミ箱へ投げ入れた。
部屋の暗がりから、二つの影が静かに滑り込んでくる。
風のシエルと、先日仲間(取引相手)になったばかりのくノ一、ミサキ・クロサキだ。
「……クロード。シノノメの軍勢、約三千。先鋒は『鬼神鉄騎隊』と呼ばれる重装甲の騎兵集団。……結界を切り裂く特殊な太刀を持ってる」
シエルが冷静に戦況を報告する。
「フン、東方の武士道気取りどもね」
ミサキが忍装束の胸元で腕を組み、不敵に鼻で笑った。
「あいつらの戦法は知ってるわ。正面突破の突撃力は凄まじいけど……集団戦の陣形に頼り切ってる。裏をかけば一発よ」
「……なるほどな」
俺は愛用の消音拳銃を引き抜き、スライドを引いて薬室の弾丸を確かめた。重厚な金属音が静かな室内に響く。
「刃物振り回して『正義』だの『武士道』だの叫びながら正面突撃してくる脳筋どもか。ジャン=リュックやシャーロットの時と同じだな」
「どうするの、クロード? 全軍を出撃させて迎撃する?」
ミサキが尋ねてくる。
「出撃? 弾薬と兵士の無駄だろ。俺たちがやるのは『適切な防衛線の処理』だ」
俺は不敵に口角を上げ、ハンス経由で配置を完了させていた【広域光学迷彩結界】と【高圧液体窒素・指向性C4連携地雷帯】の起動スイッチを端末上で展開した。
「東方の武士どもに教えてやるさ。どれほど強力な太刀や気合いがあろうが……姿の見えない地雷と、酸素を奪う科学兵器の前に、武士道なんてものがどれほど無力かをな」
「……了解。シエルの風で、敵の視界と通信、全部遮断する」
「私は暗殺術で、敵将カゲミツの首元に偽の情報を流し込んで誘い込むわ。……任せて、魔王サマ」
頼もしい二人の相棒が、影へと溶けていく。
「さて……」
俺は外套を羽織り、180倍のオッズで手に入れた最新鋭の兵器を手に、辺境の戦場へと静かに足を進めた。
新米魔王の安眠を脅かす不法侵入者どもを、冷徹に駆除する時間の始まりだ。
「……は? 今度はテラノピアだと?」
シノノメの『鬼神鉄騎隊』を、光学迷彩で遮蔽した液体窒素地雷原へ誘い込み、一歩も進ませずに足止めしていた最中のことだ。ハンスからの暗号通信が、再び不快な警報音を鳴らした。
『魔王様ぁッ! 大変です! 西方の重装甲機械化魔族国家『テラノピア』まで便乗して攻め込んできましたッ! 巨大魔導ゴーレムと魔導砲兵大隊率いる重装甲師団、総勢五千! 西側の第三境界線を強行突破されそうです!』
「……チッ。東の脳筋武士どもに続いて、今度は西の重装甲オタク共か」
俺は盛大に本日何度目かわからない欠伸を噛み殺し、冷えた缶コーヒーの最後のひとくちを苦い顔で飲み干した。
テラノピア。魔界西方の広大な鉱山地帯を支配する魔族国家だ。肉体美や気合いを尊ぶシノノメとは正反対に、古代魔導技術と巨大魔導ゴーレム、分厚い魔導装甲に身を包んだ「絶対的防御と圧倒的火力」を信条とする重装甲国家である。
『テラノピアの総統、ガルド将軍が声明を出してます! 「ハーフの軟弱な新魔王に魔界の重鎮は務まらん! 我らの魔導要塞兵器で魔王城を平らげ、我らが魔界の秩序を再構築する!」だそうです!』
「東と西で挟み撃ちにして、俺を圧殺する気か。……よくもまあ、示し合わせたみたいに面倒なマネをしてくれる」
俺の傍らで、シエルが風の刃を静かに走らせ、ミサキが呆れたように肩をすくめた。
「西のゴーレム部隊ね……。あの装甲、生半可な魔法や刀術じゃかすり傷一つつけられないわよ。どうするの、クロード?」
「……装甲が分厚い? 結構じゃないか」
俺は懐から最新型の【高圧超音波・分子共振振動弾】と【高濃度磁性流体ガス缶】を取り出し、指先で弄んだ。ハンスから仕入れたばかりの、対・機械化兵器用の特注品だ。
どれほど分厚い魔導装甲だろうと、それを駆動させているのは内部の魔導回路と関節構造だ。
物理的な衝撃を跳ね返す頑丈な鉄塊であればあるほど、高圧の超音波による共振現象と、駆動部に絡みつく磁性流体の前には、ただの「逃げ場のない鉄の棺桶」と化す。
「シエル、ミサキ」
「……ん」
「なにかしら?」
「シノノメの武士どもは、予定通り窒素地雷とミサキの偽情報で自滅させろ。西のテラノピアの重装甲どもは……俺が直接『適切な解体作業』をしてやる」
俺は消音拳銃のスライドを引いて薬室に特殊弾を装填すると、不敵に口角を上げた。
「東の刀術も、西の巨大ゴーレムも……人間の作った冷徹な物理法則と科学兵器の前じゃ、ただの重い粗大ゴミだってことを、身をもって教えてやるよ」
180倍のオッズを叩き潰した暗殺者にして、新魔王クロード。
東西から挟み撃ちにしてきた二大国家を相手に、俺の冷酷で合理的な「防衛演習」が幕を開けた。
コメント
1件
第36話、読み終えました…! 東西から挟み撃ちにされる魔王クロード、めちゃくちゃカッコよかったです🥀 「科学兵器の前じゃただの重い粗大ゴミ」って台詞に痺れました…! シエルとミサキの連携も、地雷と超音波弾で敵を無力化する戦術も、クロードの合理主義が滲んでて好きです。 新米魔王の安眠を守る戦い、続きが気になります!