テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
驚いて口を開いた平民の子を遮るように、目を輝かせた延信が「そ、それで唐には無事に渡れたのでしょうか?」と聞いてきたので、苦笑いを浮かべた僧侶は、「何とかな…」と呟いてから、再び口を開く。
「到着するには到着したのじゃが…
漂流が長く、皆、食うや食わずの状態で襤褸(ぼろ)を纏っておったから、海賊だと疑われ、捕らえられてしまったのじゃ。
無理もない。
そんな汚い形(なり)をした遣唐使などおる訳がないでな。
まあ、今となっては笑い話じゃが…」
「そ、それで、どうやってそこから逃れたのですか?」
今度は、健岑も目を輝かせている。
これくらいの男の子は、誰でも冒険譚が大好きなのだ。
「簡単じゃ。文字を書いて見せたのだ。
いくら汚い形をしておっても、海賊は文字など書けぬからな」
「なるほど…」と、健岑も真剣な顔で頷いている。
「しかし、それからが長かった。
文字を書いたことで、海賊の嫌疑は晴れたものの、倭国からの遣唐使だとは信じてもらえず、長安入京を許してもらう為に、何枚もの啓(けい・嘆願書)を書かされたわ。
そこから、何度も長安との遣り取りを繰り返して、ようやく解放されたと言う訳じゃ」
そこに、またもや延信が割り込んでくる。
「そこから、長安に上って修行を始め、青龍寺に莫大な寄進をしたことで、二十年は掛かるといわれていた修行を、二年で終わらせることが出来たのですね?」
すると僧侶は、「ふふふっ」と楽しそうな笑い声を漏らしながら呟いた。
「ワシも、そうやって簡単に事が運ぶと考えておったのじゃが、事は、そう簡単な話ではなかった」
「どう簡単ではなかったのですか?」
そこに、冒険の匂いを嗅ぎ付けたのか、健岑までもが身を乗り出してくる。
「遣唐使の目的とは、世界の王たる唐の帝に拝謁し、唐の先進的な文化を学びながら、仏典などの収集を行うことじゃが、目的は、それだけではなかったのじゃ…」
その言葉に、生徒達が驚きの声をあげる。
それはそうだろう。
遣唐使といえば国を挙げた一大事業だ。
その遣唐使に、別の目的が有ったという告白は、ある意味、国にとっては極秘事項のはず。
言い方を間違えれば命さえ危うくする。
しかし、僧侶はざわめく生徒達を眺めながら、悪戯をする童のように、嬉しそうに手招きをした。
「大きな声では言えぬから、皆、もそっと近う寄れ。
その目的というのはな、何と、不老不死の法を手に入れろというものだった」
#すとぷり
るぃ@BL好き 🎀♡
26,658
井野匠
2,645
312
コメント
5件

遣唐使の目的が不老不死! なるほど、密命ですね。
井野匠さん、第4話読ませていただきました! 遣唐使の目的が「不老不死の法」だったという展開、すごく胸がときめきました……! 僧侶の語り口が軽妙で、海賊に間違われたエピソードも思わずクスッとしてしまいます。健岑くんと延信くんが目を輝かせて身を乗り出す様子が目に浮かんで、こちらまでワクワクしました。次が気になる終わり方で、続きが待ち遠しいです🌷