この作品はいかがでしたか?
0
この作品はいかがでしたか?
0
第3話:「距離」
その日は朝から雲行きが怪しかったけれど、傘を持たずに家を出てしまった。授業が終わるころには、予想通り大粒の雨が窓を叩いている。傘を持っていないことに気づいた私は、帰りの準備をしながらため息をついた。
「奈子、傘ないの?」隣にいた小夏が聞いてくる。
「うん、家に忘れちゃった。」
「そっか、じゃあ涼に頼んでみたら?一緒に帰ればいいじゃん。」
「な、なんで涼なのよ!小夏と帰るっ!」
慌てて否定する私を見て、小夏は訳知り顔だ。
「涼、傘持ってるの見たもんねー。この目で!!はい、頑張って!ファーイト!」
小夏は私の反論を無視してさっさと教室を出て行ってしまった。最後に一つ言って
「いい幼馴染じゃん。大切にしなよ」
…。小夏の顔が引っかかる。寂しそうな、顔。
タイミングよく涼が教室に入ってきた。
「奈子、まだ帰らないのか?」
「いや、ね…。ちょっと…傘忘れちゃって。」
「天気予報見た?一緒に帰るか?」
涼はいつもの自然な態度でそう言い、カバンから青い傘を取り出した。
「えっ、でも…」
「いいって。お前、濡れたら風邪ひくだろ?」
そう言って軽く肩を叩かれ、私は小さく頷いた。顔が熱くなるのを隠しながら、二人で下駄箱を出る。…神様…。こんな出血大サービス、お願いしてませええええん!!
「そいや、ココナッツはどうしたんだ?」
小夏のことかな?
「なんか、用事あるーとか言って帰って…アハハ…ね…?」
隠しきれてません。バレバレです。
「ココナッツの用事てなんだろ。食べられるとか?」
…。笑っちゃうじゃん。思考!!すごいねえ。
傘の下、涼と肩が触れるくらいの距離で歩くなんでよりによって…。折りたたみ傘なわけ!?風邪ひくよー。あと…とにかく距離が近い。涼は特に気にしていない様子で、学校の話やサッカーの話をしていたけれど、私は全然集中できない。…こいつ大丈夫かな?
「奈子、聞いてるか?」
「えっ、うん!聞いてる!」
慌てて答えると、涼が笑った。
「お前、ぼーっとしすぎ。ちゃんと前見ろよ。」
彼の指摘にまた恥ずかしくなり、下を向いてしまう。涼はそんな私に気づいたのか、「ま、俺がちゃんと傘持ってるから大丈夫だろ」と軽く言った。
家に着くころには雨は少し弱まっていて、涼は「じゃあな」と言ってまた笑った。その笑顔を見て、私は思わず声をかけた。
「ありがと、涼。」
顔は見れなかったけど。ちゃんとお礼は、言えた。顔見たら…バレるから。顔が赤いのが。
玄関を開けて家に入ったあとも今日のことが忘れられなかった。小夏に急いでメールを送る
『今日、涼と相合傘した』
ソッコーで返事がくる
『良かったね!!やっぱそっちのほうがいいでしょ』
このメッセージと、謎のイイネのスタンプ。
ブサカワな、猫のスタンプだ。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!