「と、いうわけで同居は解消になっちゃったよ」
「けど意識してくれてこれからって感じ?」
風が冷たい屋上で元貴に先生とのことを報告した。週末には引っ越しを手伝う予定だということも。
「まぁね、どこまで先生が俺のことを好きになってくれるか、わかんないけど頑張るよ」
「うん···きっと上手くいく、いっぱい好きって言ってたら、絶対に届く」
元貴にそういってもらえるとなんだか本当にそうなる気がして、俺は嬉しかった。
「あと受験勉強も、ね」
元貴の吐き出す息が白くなって消える。俺は家から近い大学を希望していた、これも先生のおかげだ。
勉強に集中する為にもまた1人になるのも悪いことばっかりじゃないかもしれない、と思い直してけど居なくなった部屋で寂しくなるのは間違いないとも思った。
「頑張るよ···そう思えたのも、先生のおかげだから。先生の為にも」
冬の空は青く澄んでいて冷たい空気が気持ちよかった。
引っ越しの日も今日みたいに晴れたらいいなと願った。
「先生、今日も隣で寝る」
「はーい、どうぞ」
「一緒の布団でも···」
「だめです」
残念、と呟いて昨日から置いてあった布団を広げる。
土曜日、日曜日と荷物を運んで日曜日の夜から先生はもういない。
それまで俺は一緒に寝ようって毎日お願いするつもりでいた。
一緒の布団に、は絶対に断られると分かっていながらも俺はそうしたい、と伝える為にも一応言ってみる。
でも今日もその次も···先生は、うんって言わなくて残念、と言う俺に困ったように笑ってみせるだけだった。
土曜日には先生が車を借りて新しいアパートに荷物を運んだ。
確かに新しい場所も歩いてすぐ、と言ったところで少し安心した。
「今日はありがとうね、引っ越し手伝ってくれて助かったよ」
荷物は少なめで新しい部屋にあれこれ片付けを手伝えるのはなんだか楽しくもあり、先生が居なくなる実感が寂しくもあった。
「ううん、引っ越し先が近くてそれに部屋に入れてもらえて嬉しかった。···最後だから隣で寝よっと、いい?」
「ふふ、最近毎日一緒に寝てたのに」
「だって好きな人と一緒にいたいって普通でしょ···本当は一緒の布団で寝たいんだけど?」
そう言いながらも俺はいつも通り隣に布団を広げる。
「···いいよ」
「え?え?!もう一回言って!」
「だから、いいよって···けど狭くても蹴られても知らないからね?」
うそ、いいの?
自分からそう言ったのに本当に先生と一緒の布団なんて、寝られるか心配になるくらいドキドキしている。
「いい、狭くても蹴られても!」
「ふふっ、若井くんってば···蹴らないよ、大丈夫」
先生の隣は暖かくていい匂いがしてドキドキして、とにかく幸せだった。
ずっとこうしていたい、やっぱり先生が好きだ···そうぬくぬくとしていると先生が俺を見つめているのに気づいた。
「若井くんは、こんな僕のどこがいいの?」
「え···と、最初は···正直、どうせ心配してるなんて嘘だと思ってうざったくも感じてた。けど先生は本当に俺のこと思ってくれててそれが嬉しくて、気づいたら好きになってて···無理しないで俺の前では泣いてほしいし、頼られたいし、抱きしめてあげたいと思って···笑顔も、泣いてる顔も、先生として皆に慕われてるところも全部好き」
「ありがとう···嬉しい、そんな風に思ってくれてるなんて。聞いて良かった···」
先生の声は震えていて、泣いているようで目を擦っているのが暗闇でもわかった。
「だから俺は本当に先生のことが好きなんだ。可愛いし、たまにカッコいいし、綺麗でそばにいると触れたくなる」
そっと腕を伸ばして背中に手を回して抱き寄せた。
先生は静かに抱きしめられたまま、気付けば腕の中からすぅすぅといつもの寝息が聞こえてきて俺も溶けるように穏やかに眠りについた。
ドキドキするのも安心出来るのも先生の側だけ···だから俺のものになってほしい。
幸せな同居生活最後の夜だった。
コメント
9件
最後の夜までとことん切ない⋯⋯。教師と生徒って関係じゃなければなあ。
最後一緒に寝れてよかったー!こっからどうなるんだほー?
涼ちゃん先生のちょっとほわほわしてるとこがまたいいんだよね〜!! 同居終わった後もどんな展開になるのかきになる!!