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ホスト🈂️×社畜客🐥
「しょうちゃんは俺が1番だよね!?」
思わず声を荒げてしまった。驚いたのか彼の肩がピクっと反応する。そのまましばしの沈黙…この状況…非常に気まずい。
いやはやどうしてこのようなことになってしまったのか。簡単に事の成り行きを説明するならば、疲れた心身を癒すために行きつけのホストクラブにふらっと立ち寄った俺。最初は直ぐに帰ろうと思ってはいた…のだが。とある理由からやけ酒を始め、酷く酔いが回ってしまった俺は情緒が荒れに荒れてしまい…そして今に至る、という訳だ。絶対に彼の前では口にしたくなかったこの自分勝手な1文すらも、アルコールの過剰摂取により思考能力が低下した頭、それによりゆるっゆるの口、そして内に眠っていたとある感情が制御を聞いていない無防備にも程があるそんな状態で彼が目の前に現れたが最後。…それはもう見事なまでに溢れ出てしまったのである。今はこんなザマだが俺は本当は演技が得意で、高校時代は演劇部に入っていたくらいだ。その当時の俺を知るものからしたら実に無様な姿だろう。だけど、どうにも彼の前では平静を装って仮面をつけたまま話すのが容易ではない。俺がこうなってしまった原因は先程も軽く触れた俺の穢れた感情にある。優しくて、誰からも好かれる彼に少しでも…他の誰でもない自分のことを見て欲しくて。でもそれは決して叶うことではなくて。
…そんなことを考えていたらやたらと整った顔面がこちらに向いた。大きくて透き通った瞳が、俺のことを見始める。少し見つめてから微笑んで、綺麗に整った白く細長い指で軽く俺の頬に触れながら
「ははwそんなに大声ださなくても…俺にはかもめんが1番やで?」
といつものように返された。
手は少しひんやりとしているのに、触れた所から徐々に熱を帯びていき、だんだんと頬に赤みが増してゆく。それを見られるのが恥ずかしくて顔を少し背けた。
勿論これはホストクラブで働いている彼の常套句。嘘だということは重々承知の上で、それでも俺は彼のハニートラップにまんまとかかかってしまっていた。そう、俺は…叶わない相手に本気で恋をしてしまったわけである。
「やっっ…ぱ…しょうちゃん好きぃ…」
「ん、ありがとな」
明らかなアルコールの摂りすぎで火照った頬は果たして自分のこの溢れ出る気持ちを少しでも隠してくれているのだろうか。いや…もうバレているのだろう。彼はまるで全てを見透かしているとでもいうように未だにじっと自分のことを見つめている。距離がグッと近づいたと思ったらいきなり立ち上がり、 その拍子に俺から酒が入ったグラスを取り上げた。
「んしょっ…かもめん〜もうこれ以上酒はあかんからな〜」
「あぁあぁぁ…!ぽしゃけぇ…」
「流石に飲みすぎや!こんなに…もうっ!体悪くしたらどうすんのよっ!!」
まるで俺のオカンかとでもようにでそう言い放ちカウンターに酒を持っていく。んん…じゃあもうそろそろ帰るか。明日も仕事だしな。重い腰を上げてフラフラとレジに向かう。支払いをしていると横目に彼が接客をしているところが見えた。女性客の綺麗な長髪に触れて、じっと瞳を見つめながらまた軽口を叩いている。「かわいい」だとか「好き」だとか。彼の性格上、歯の浮くようなキラキラとしたセリフは言えないが、その真正面からの素直な言葉は口説き文句としては十分であって、そういう所が好き…なんだけれども結局は自分もあそこの、顔を真っ赤に染めて照れている彼女らと同じ立場だということを浮き彫りにしているようで癪に障る。
いきなり客と彼の顔が近づく。こちらからは何をしているかはよく分からないが、まるでキスでもしているような距離。彼は客との距離感を上手く掴んでいるし、そんな間違いが起きることはないとは分かっている。…分かっているけれど。心臓が締め付けられるように痛い。見ているのが嫌になって急いで店の外に出る。
…やっぱり”1番”はくちだけなんでちゅね〜ハイハイわかってまちたよ〜。あ〜俺だっせ。ホストに本気で恋なんて、今どきそんな分かりやすく引っかかるやついねぇよ…
それでも脳裏に焼き付いてしまっている彼の笑顔。思い出してはにやけてしまう自分がひどく情けない。
「はぁ…」
こうして今日も煮え切らない気持ちのままで帰路に着いたのである。
これはホストに本気で恋をしてしまった男が1番を手に入れるまでのお話。