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ky「は? 中止って…」
私は言葉を失った
伴奏者になりたくて、必死で練習して、オーディションに合格した
その努力はもう十分踏み躙られたのに、中止だなんて
担任「はい。仮にも自殺未遂があった後ですから、お祭りごとのような行事は中止しなければならないと判断しました」
なんで?
どうして?
私の努力が、全部無駄だったって言うの……?
ky「先生、俺さっきの謝罪撤回します」
kyは決然として言った
ky「先生はやっぱり何も分かっていない。もしここねや俺が本当に死んだなら中止も妥当ですけど、どちらも今こうして生きている」
担任「それはそうですが」
ky「言い訳しないでください。ここねはたった一度のミスタッチでいじめられて、ピアノをまともに弾けなくなった」
担任「何ですかそれ、聞いたこともないです」
ky「じゃあ今聞きましたね」
担任「……」
ky「それだけでもここねは十分すぎるほど頑張りを否定された。その上でその頑張りが行きつく場所を奪うなんて酷いことはありません」
kyの深い呼吸音が聞こえる
ky「いち高校生が偉そうに語るのも何ですが……教師としてどうかと思いますよ?」
教師としてどうかと思う。
その言葉に担任のプライドは深く傷けられたようだった
担任「分かりましたよ……中止を取り下げればいいんですね」
ky「そんなことは誰でもできます。その前に言うべきことがあるんじゃないですか?」
担任「すみません、でした」
ky「何が?」
担任「月宮、ここねさん、努力を冒涜してしまい、申し訳ありませんでした」
担任がそこまで謝ったところでkyは追及を止めた
あの、私たちって集会の時どうすればいいですか
担任「私と一緒に体育館の舞台袖にいてください。目の届かないところで何かあったら困りますので」
ky「困る、ねぇ……じゃあ先生、もうすぐ時間ですし行きましょうか」
kyは捨て台詞のようにその言葉を吐き棄て、立ち上がった
ky「ここね、行こう」
う、うん
全校集会の最中も、その後も、
本当の意味でそばにいてくれたのはkyたちだけだった
いじめはなくなったかもしれないけど、私はどこか距離を置かれていた
私のクラスは、学校は、
そんな状況のまま合唱コンクールの日を迎えた
学校行事として市民会館に来るのは一年ぶりだった
長い旅から帰ってきたような、そんな感じがした
???「あの、先輩」
ホールの外でひっそりしていると後輩に声をかけられた
なんでも身体が弱いらしく、学校にはあまり来られていない
だから部活に来る頻度は全部員の中で一番低いというほどだが、
同時に一番私のことを慕ってくれている
今日は来られたんだね。おはよう
後輩「おはようございますっ。その、失礼なことをお聞きしますが……」
彼女は気まずそうにその雪のように白い髪をいじった
後輩「えっと、この間全校集会で言われていた女子生徒って、」
先輩じゃないですか?
その場に冷たい風が吹き抜けた
え……なんで?
後輩「先輩、私が最近行った部活で元気ないなって思って。その前には合唱コンクールの伴奏者になったとか言ってましたし、それ関連で何かあったのかもしれないと考えたんです」
この後輩はよく気づく。
部集会での発言も的確なものばかりな上、テストでは上の中ほどの成績を取ることも珍しくないと言う
それだけ賢くて、鋭い。
少し考えれば、気づかれないなんて結論には辿りつかない
そうだよ、あの日に飛び降りたのは私だよ
後輩「何があったのか、詳しく教えていただけませんか? 嫌だったらそれで構わないので……」
まあ、練習の時ミスっちゃって、それ口実に色々やられてね。例の日カッター騒ぎあったでしょ?
後輩「は、はい。なんだかみんな落ち着かないなとは思っていましたが」
それで限界が来たってわけ
後輩「そうだったんですね……」
後輩はそれっきりしばらく黙ってしまった
私は指揮者・伴奏者リハーサルに向かうため、最後の一言を口にして去った
あんたも無理しなくていいんだよ。何かあったらきっとうちの指揮者が助けてくれる
それはただの出まかせで無責任な言葉だった
でも、嘘じゃない気がした
後輩「無理って、そんな」
あんたくらいとまでは行かないけど、私もそこそこ勘鋭いよ。じゃあね
もっと深いところに言及しておけばよかったと、後になっても少しだけ思う
……とにかく、生きていて
逃げてもいいから、まだ手の届くところにいて
だけどそう願うことしか私にはきっとできなかった
司会「それでは、二年生の部最後の一曲です。二年三組、指揮者ky、伴奏者月宮ここね」
一年生の座席で僅かに跳ねた人影があった
私はそちらに少しだけ視線を投げかけ、再び前に向き直る
あれからまた弾けるようになるまでただひたすらに頑張って、頑張って、練習して、練習した
それが実を結べる最初で最後のチャンスはもうすぐやってくる
kyが優しく演奏開始の合図をした
その動きに合わせるように、私は穏やかな旋律を奏で始めた
一つでも間違えないように、こぼさないように、落とさないように。
慎重に一音一音、魂を込めて弾いた
何小節も後、曲の雰囲気はだんだんと盛り上がっていく
kyの指揮も少しずつ激しさを増していった
そして頂点、あの日、あの半音だけ違った和音。
不協和音は聞こえなかった
代わりに演奏していても鳥肌が立ってしまうような、強く美しい音が響いた
そこからはソプラノが主旋律を壮大に歌い、アルトとテノールが音を丁寧に重ねる
余計なものが頬を伝っていかないよう、私はとにかく必死に演奏した
グリッサンド__
心地いい和音とともに、曲は終わりを迎えた
kyが始まった時と同じように優しく終了の合図をした時には、堪えるので精一杯だった
終わった。
終わったんだ。
私は、やりきった。
概念的なはずの事実が実体を持って迫ってくるようだった
私はkyの後に続いて降壇した
なかなか終わらない拍手の中にいるのは、少しだけ恥ずかしかった
司会「それでは全ての学級の演奏が終わりましたので、審査結果の公表に移りたいと思います。先生方、お願いします」
ステージ上に冒頭でも紹介された審査員の先生が姿を現した
審査員「みなさん、改めてお疲れ様でした。きっとみなさん結果を気にしているかと思いますので、前置きは無しにしてすぐに行きましょう」
全方向から歓声と拍手が聞こえる
審査員「まず賞についてですが、各学年一クラスずつ学年賞。そして一人ずつ指揮者賞と伴奏者賞、最後に全校の最優秀賞と指揮者賞と伴奏者賞があります」
もう音は止んでいた
ただ静かに結果を待ち受けるだけの光景がそこにはあった
審査員「一年生の学年賞、三組。指揮者賞は二組の犬飼莉央さん、伴奏者賞は同一クラスの根岸眞昼さん」
名前を呼ばれたそれぞれのクラスから喜びの叫びが聞こえる
私たちの時間が来るのはそう遅くなかった
審査員「続いて二年生ですね」
学年賞三組、指揮者賞一組の青葉大翔さん、伴奏者賞三組の月宮ここねさん。
おめでとうございます。
コメント
1件
うわあ、第10話読み終えたよ…! kyの担任への啖呵、めっちゃ気持ちよかった。「教師としてどうかと思う」って、あそこまで真っ向勝負してくれるの、めっちゃ熱い。ここねが最後まで弾き切った演奏シーン、グリッサンドで鳥肌立ったわ。伴奏者賞おめでとう、って心から言いたい。連載中なら続きも楽しみにしてる🔥