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――夜。
お屋敷に戻った私とエミリアさんは、とりあえず食堂に向かった。
「あ! お帰り~♪」
最初に聞こえてきたのは、ジェラードのやたらと明るい挨拶。
それに続いて、ルークとセミラミスさんも挨拶をしてくる。
「ただいま戻りました。
リリーは戻ってます?」
「もう寝てると思うよ。ずいぶん眠そうにしていたから」
「あ、そうですか。それは一安心」
「帰ってきたあと、ルーシーちゃんに演奏会の感想を伝えていたよ。
アイナちゃんも、明日にでも聞いてあげれば?」
「興奮冷めやらぬ……って感じですね。
それでは明日の楽しみに取っておくことにしましょう」
「ところでアイナ様、ご帰宅が遅かったようですが、何かありましたか?」
「うん、行くつもりはなかったんだけど、最後に『水の迷宮』まで行ってきたの。
やっぱりミラのことを|労《ねぎら》いたくて」
「でも、行って良かったですよね!
アイナさんが来てくれて、本当に嬉しそうにしていましたもん」
「ですねー。
それで、そっちにもリリーが行っていたそうなんですよ。
すれ違いみたいになったので、ちょっと心配で」
「なるほど、そうだったんですね」
そこまで話して席に着くと、キャスリーンさんがお茶を入れて持ってきてくれた。
彼女とは今日の昼に別れて以来だけど、その後は上手くいったのかな?
「キャスリーンさん、昼は怒られなかった?」
「はい、セミラミス様が説明をしてくださったので。
それどころかクラリスさんには心配を掛けてしまいまして……。
もちろん、アイナ様のことも心配していました」
「あはは、私は大丈夫だよ。
うん、怒られなかったなら良かったかな」
ナンパの三人組は遅刻の言い訳にさせてもらっただけだから、本当に大した問題では無かったんだよね。
キャスリーンさんが怒られなかったなら、それだけでもういいや。
……そういえば三人組の処遇はどうしよう。ここまで来たら、少し面倒くさくなっていたりして。
「――それにしても、アイナ様に言いよるとは失礼千万ですね」
話の隙を突いて、ルークが不満を漏らしてきた。
えぇっと……ルークはどこまで知っているんだろう。
「ルークって、昼のことは何か聞いているの?」
「もちろんです。
キャスリーンさんからも伺いましたが、詰め所で本人たちとも会っていますから」
……あ、そうか。
ルークは自警団の実質責任者だもんね。そっちから話が行ってしまうか。
「いかにもな感じだったでしょ?
ルーシーさんもナンパされたみたいだし、ナンパが流行っているのかなぁ」
「流行っているというか……人の集まるところには、ナンパは生まれるものだよ」
「さすがジェラードさん。言葉に重みがありますね」
「……それ、喜んで良いところ?」
「どうでしょう……?」
ナンパあってのジェラード。
私はナンパなんてされたくないけど、ナンパされたい人にならナンパはしても良いんじゃないかな?
私は正直、御免|被《こうむ》るところだけど。
「さすがに、男性が女性に声を掛けるだけでは、捕まえることなんて出来ませんからね……」
「んー、そうだねぇ……。
まぁ、困ってる人がいたら都度対応……しかないかな?
厳密なルールを作っても、そういう人はどうせ悪用するだろうし」
「ルールは裏をかくためにあるからね♪」
私の言葉に、ジェラードが不穏な返事をした。
ルールは守るためにあると思うが、それも結局、それぞれの価値観なのだろう。
|小狡《こずる》く生きる人は、少しでも利益を得るために裏をかいてくるものだし――
「……っと、ちょっと真面目な話になっちゃいましたね。
それはそれで良いのですが、今日は一旦置いておきましょう」
「楽しい収穫祭の最中だからね♪
ところでアイナちゃん、今日はどうだった?」
「え? 午前中はキャスリーンさんとセミラミスさんと一緒にまわって、午後はエミリアさんと一緒にまわりました。
とっても楽しかったですよ!」
「ん……? ……ああ、うん」
……おや?
ジェラードの口ぶりからして、期待された答えでは無かったようだ。
「えっと……何かあったんですか?
セミラミスさん、私たちの話はもうしました?」
「いえ……。特に、聞かれなかったものですから……」
「ふーむ?」
私とセミラミスさんが話していると、ジェラードが慌てて割り込んできた。
「え? ちょっと待って?
アイナちゃんとセミラミス様、『創星剛鍛祭』には行ったんだよね!?
ねぇ、ルーク君!」
「ええ、会場でちらっとお見掛けしましたよ」
「あ、ルークは気付いていたの? 私、全然分からなかったよ」
「警備中だったのと、あとは少し距離がありましたので。
もちろん話し掛けたくはあったのですが」
「仕事中は無理しないでも大丈夫だよ。
むしろ集中してやってくれている方が良いと思うし」
知り合いがいても職務に集中している人は、私は好きだ。
その場で話し掛けられるよりも、あとになって『そういえば……』っていう感じで振り返ってくれる方が嬉しいかな。
「それじゃもちろん、僕の雄姿も観てくれたよね♪」
「……え?
えーっと、『創星剛鍛祭』は混んでいたから、すぐ帰っちゃったんですよ。
セミラミスさんとキャスリーンさんもいたので、ちょっと場違いかなって」
「えええええぇええ!?
……ほ、本当に?」
私の言葉に、ジェラードは絶望的な顔をした。
とっさにルークの顔を見るも、ルークはルークで切なそうな顔をしている。
「え? あれ?
……えっと、何かあったんですか?」
「そ、そんなぁ……。僕、頑張ったのに……」
絶望からなお落胆して、ジェラードはテーブルの上に身体を投げ出した。
うぅん? 話が全然見えないんだけど……。
「――アイナ様、『創星剛鍛祭』は鍛冶師と冒険者がペアになって戦い合うイベントじゃないですか」
「うん? そうだね?」
「ジェラードさんは冒険者枠で出場していて、最終的に優勝したんですよ」
「えっ! 本当に!?
ジェラードさん、凄い!!」
「ううぅ……。
その姿をちゃんと見て欲しかった……」
「ちなみにアイナ様、一試合も観なかったのですか?
トーナメント表なども……」
「うん、混んでたから……。
それにトーナメント表も、当日発表だったでしょ?」
「はわわ……。な、何だかすいません……」
そこで何故か謝り始めるセミラミスさん。
まぁ一緒にいたのがエミリアさんとかグリゼルダだったら、一試合くらいは絶対に観ていたけどね。
でもそこら辺を気に病む必要なんて、まったく無いところだ。
「いえいえ、セミラミスさんのせいではありませんよ。
うーん、それではみんなでジェラードさんのお祝いをしましょう。おめでとうございまーす!」
「もう言いましたが、おめでとうございます」
「おめでとうございます!」
「おめでとう……ございます……!」
そんな祝福を受けて、ジェラードはようやく身体を起こした。
表情は――……何て言えば良いんだろう。絶妙な、微妙な、やっぱりそんな顔をしている。
「それじゃ、試合の様子を聞かせてもらえますか?
ジェラードさんの活躍、聞きたいなぁ~♪」
ここでセミラミスさんをチラリ。
「はわっ。……そ、そうですね……!
あんなところで戦えて……ジェラードさん、凄い……です!」
「……ふふ。それじゃせめて、僕の口から僕の活躍を伝えてあげるね……。
それはもう凄かったんだから――」
――その後、ジェラードは『創星剛鍛祭』の話をし続けた。
……時間にしておよそ4時間。
あまりに長かったので、途中で気分転換にガチャの話を振ってみた。
ジェラードは一日目に、『ガチャの殿堂』に行っていたからね。
結果を聞いてみたところ、見事に外しまくったらしい。
回数は100回ほど。金額にすると――……まぁまぁ、ジェラードもそれなりにお金持ちだから、大丈夫だろう。
そしてまたジェラードが落ち込んでしまったので、その流れのままようやく解散。
時間は深夜2時――
――眠い。
三日目、最後まで体力は持つかなぁ……。
コメント
1件
ジェラードの優勝報告シーン、めっちゃ笑ったww せっかくの雄姿をアイナが観てなくて絶望するところ、そのあと4時間も語るとか完全にジェラードらしい(笑)。でもその後にアイナが「おめでとう」ってお祝いしてあげる優しさも好きだな。キャスリーン無事で良かったし、ルークが仕事中に気づいてたのに集中してるってのもプロだわ。次回三日目、体力持つんかアイナ…!