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#極道
鷹槻れん

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その日の夕方、私は仕事から帰宅するなり即行でお風呂へ入った。
いつもならテレビを見たり読書をしたりして少しくつろいでから入浴するのを、今日だけはお母様に「仕事で汗をかいてしまったので」と嘘をついて先にお湯を頂く算段をした。
(……お母様、嘘をついてしまってごめんなさい)
心の中で謝りながら、それでもさすがに本当のことは絶対に言えない、とも思って……。
脱衣所で服を脱ぎながら、ふと会議室でのことを思い出した私は、恥ずかしさに動きを止める。
あの後、修太郎さんに許して頂いてショーツは身につけることが出来たものの……クロッチのところが冷たく濡れていて、トイレで拭ってもやはり心地悪くて、結局、生理でもないのに生理用品のお世話になってしまった。
それがなんだかとても恥ずかしくてたまらなくて……。
修太郎さんに思いっきり恨み節を言いたかったけれど、いざ修太郎さんのお顔を見ると恥ずかしいのとドキドキするのとの相乗効果で、何ひとつ言いたいことが言えずに一日を終えてしまった。
(すっごくすっごく悔しいのですっ)
家でナプキンを捨てて、察しのよい母に変に勘ぐられるのは嫌だったので、帰る間際に市役所のお手洗いで処理して帰った。
そういうことをする自分が何だか不良娘みたいに思えてしんどくて、都市計画課の皆さんへの挨拶もそこそこに、私は帰途についた。
修太郎さんには恥ずかしさから皆さんにしたのよりももっと素っ気ない挨拶だけでお別れしてしまった。
そんな私に、修太郎さんが何か言いたそうなお顔をしていらしたのには気づいていたけれど、どう接したらいいのか分からなかった私は、気付かないふりをして足早に庁舎を後にした。
服を全て脱ぎ終わって、最後にショーツをおろすと、クロッチ部分が何となくゴワゴワとした手触りで、それが下着が濡れていた証拠みたいに思えて、恥ずかしくてたまらなくなる。
お風呂に持ち込んで下着をもみ洗いすると、ぬるりとした感触がして、そのことに驚いて思わず動きが止まる。
(私、修太郎さんの前で何てはしたなく乱れてしまったのでしょうっ)
止まったままの手に気がついて、恥ずかしさも一緒にこそぎ落とすみたいにショーツをもみ洗いしながら、今まで自分がいかに子供っぽい毎日を送ってきたのかを思い知らされたような気持ちになった。
今日私が体験したことは、もしかしたら同年代の女性ならばすでに経験していても不思議ではない事なのかもしれない。
でも、私には刺激が強すぎて……。
結婚するまでは、夫になる方に操立てをするものだと、幼いころから言われてきたのに、こんなことになってしまうなんて……。私は両親も裏切ったことになるのでしょうか。
(私、健二さんとはやっぱり結婚できないのですっ)
修太郎さんに心奪われた時にもそう思ったけれど、心の片隅にまだほんの少し残っていた躊躇いのようなもの。それが、今日のことですっかり消除されてしまった。
結婚前なのに、異性に恥ずかしいところを見られてしまった私は、もはや修太郎さんと共に歩む以外の道は残されていないとすら思ってしまって……我ながら、その思い込みの激しさに溜め息がもれる。
(でも……ややっぱり私、一緒にいるのは修太郎さん以外には考えられないのですっ)
だとしたら――。
先の歓迎会の日にタクシーの中で修太郎さんに念押しされたことをちゃんと果たさなければ、修太郎さんの横に並ぶ資格すらないと思った。
***
「お父様。私、健二さんとお話をしたいのですが……連絡先を教えていただけますか?」
お風呂で身体をさっぱり清め終えると、私はその足でお父様のところへ行って、そう切り出した。
今までこういうことを言わずにきたこと自体、おかしいのだと、どうして気付けなかったんだろう。
私はいつも健二さんからの連絡待ちで……その連絡にしたっていつもお父様任せ。じかにお話させていただいたのは、先日のお電話が初めてだなんて……。
そんな状態を、どうして何の疑問も覚えずに、甘んじて受け入れてこられたんだろう?
私は健二さんを許婚と称しながら、その実、彼自身のことを見ようとはしてこなかったんだと思う。
「やぶから棒にどうしたんだい?」
なんの前置きもせずにそんなことを切り出したものだから、お父様を驚かせてしまったみたい。
「私、市役所の皆さんからお尻を叩かれてしまいました。もう大人なのに……何でもかんでもお父様に頼りすぎてるって。言われるまで気付けなかったのも恥ずかしかったですし、気付かせて頂いたからにはいい加減、自分のことは自分でやらなきゃって反省したのです。だから……健二さんにも私自身が行動して、ちゃんと向き合いたいなって思ったんです」
たくさんたくさん理由を並べたけれど……その根元となった理由の、好きな人が出来たことは言えなかった。
コメント
2件
お風呂場のシーン、すごいリアル٩(ˊᗜˋ*)و
ああ、なるほど。この話、主人公の「恥ずかしさ」と「自分を変えたい」っていう気持ちの交錯が本当に繊細に描かれてますね。特に、風呂場で下着を洗うシーンの生々しさと、そこから「自分は子供っぽかった」って内省する流れがすごくリアル。そしてラスト、ついに父親に自分から許婚の連絡先を聞く覚悟を決めたところで、物語としての一歩を踏み出した感じがして、その成長がじんわり来ました。修太郎さんへの気持ちと、自分のあり方を変えようとする彼女の決意、この二つがどう絡んでいくのか、続きがすごく気になります。