テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
678
今回ハー呪術廻戦 平和な日常でぇーす
西の空が、じっとりと溶けたような琥珀色に染まり始めていた。夏の終わりの風は、昼間の熱を孕んだまま、高専の生い茂る木々をざわつかせている。「おい、脹相。火、強すぎるぞ。肉が炭になる」伏黒恵が、うちわをパタパタと動かしながら眉をひそめた。その視線の先では、網の上の肉から爆発的な炎が上がっている。「いや、違うんだ伏黒。これは肉の脂が滴り落ちて……待て、悠仁の分のカルビが!」脹相は焦燥に駆られていた。弟に最高の焼き加減で肉を食べさせたいという一心から、炭の配置を「赤血操術」の理論で計算しようとして、逆に火力を暴走させてしまったのだ。「あはは! 兄ちゃん、それじゃ火葬だよ。貸しな」トングをひったくるようにして笑ったのは、釘崎野薔薇だった。彼女は手際よく肉を網の端へと避難させ、代わりに大きな野菜を並べていく。「肉ばっかりじゃなくて野菜も食べなさいよね。特に虎杖、あんたさっきからタレの匂いだけで白米3杯目突入してんじゃないわよ」「だって、外で食う飯ってなんでこんなに美味いんだろ!」縁側に腰掛けた虎杖悠仁が、どんぶりを片手に顔を輝かせる。口の周りに茶色いタレをべったりとつけたその姿は、かつて世界を背負って戦った呪術師のそれではなく、ただの食欲旺盛な高校生の少年だった。「ほら、お前ら。肉が焼けたぞ。早い者勝ちだ」少し離れた日陰から声をかけたのは、真希だった。すでに自分の皿に山盛りのタン塩を確保している。その横では、パンダが器用に箸を使って焼きトウモロコシを回し、狗巻棘が「しゃけ、しゃけ」と嬉しそうに頷きながらタレの皿を差し出していた。平和になった、この世界。かつては血の匂いと呪詛の気配しか満ちていなかった高専の庭に、今は香ばしい炭火の煙と、肉の焼ける音、そして他愛のない笑い声が満ちている。「みんな、楽しそうだねえ」ふらりと現れたのは、白いTシャツにサングラスという、信じられないほどラフな格闘家のような格好をした五条悟だった。手には、どこかの有名店で買ってきたとおぼしき高級なデザートの箱が握られている。「あ、五条先生。それ、もしかして……」乙骨憂太が冷たい麦茶の入ったピッチャーを抱えながら、苦笑いを浮かべた。「そう! 渋谷の限定マンゴープリン! これ、冷やす前にちょっと味見しちゃおうかなって」「おい五条、それは食後のデザートだろ。先に肉を食え、肉を」真希がトングを向けて威嚇するが、五条は「えー、だって僕、甘いもので満たされたい気分だし」と、子供のように唇を尖らせる。「五条悟」それまで炎と格闘していた脹相が、ふっと真面目な顔で行く手を阻んだ。「なんだい、お兄ちゃん。僕にもお肉焼いてくれるの?」「……これを受け取れ」脹相が差し出したのは、表面が完全に黒焦げになり、もはや元の形状を留めていない「元・シイタケ」だった。「悠仁のために最高の焼き加減を目指した結果だ。これを、お前に譲る」「いや、それただの炭じゃん! 僕、最強の術師だけど炭は消化できないよ!?」「何だと? 炭は体内の毒素を排出すると聞いたが……」「兄ちゃん、それはアクティブ炭素の話ね。ただの焦げはガンになるから!」釘崎の鋭いツッコミが炸裂し、一同からどっと笑いが起きる。虎杖はそれを見て、げらげらと笑いながら脹相の肩を叩いた。「いいって脹相! ほら、この伏黒が焼いてくれたピーマン食おうぜ! 苦くて美味いから!」「悠仁……お前がそういうなら、俺はこの緑の野菜を噛み締めよう」脹相は弟から手渡されたピーマンを、まるで儀式の供物のように厳かに口に運んだ。太陽が完全に山の向こうへ隠れ、庭に設置された古い外灯が、ぽつり、ぽつりとオレンジ色の光を灯し始める。虫の声が、昼間の蝉から秋を予感させる鈴虫の音へと変わっていく。かつて誰もが、明日生きているかどうかすら分からなかった。守りたかったものは、大層な正義などではなく、ただこの、煙の向こうにある騒がしくて愛おしい特等席だったのだと、誰もが言葉にせずとも感じていた。「おかわり、まだあるか?」伏黒が静かに皿を差し出す。「おう、まだまだあるぞ! 今日は夜通し食うからな!」虎杖の声が、夏の夜空へ吸い込まれていく。それを見つめる脹相の胸には、もう二度と消えることのない、温かい灯火が宿っていた。
こんな平和な日常あったらいいなーって感じで書いた⭐︎
コメント
1件
ああ、めっちゃ良かった…🥺💘 平和になったからこそ見えるみんなの日常が、柔らかくて泣きそうになったよ。 特に脹相が「悠仁のために」って真剣に計算して炭にしちゃうところ、優しさで溢れてるのに絶妙に不器用で愛しすぎる…。 五条先生が「炭は消化できない!」って焦ってるのもツボったし、虎杖がそんな脹相の肩叩いてピーマン分けてあげるの、兄弟すぎて尊い…。 もう二度と血の匂いがしない庭で、煙と笑い声が混ざる光景、ほんとに「こんな日常が見たかった」そのものだったよ。 狂人⭐︎さんの優しい眼差しが詰まった作品、ありがとうございます🌙🤍