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「じゃあさ、本題に入るけど君、誰?」
太宰が落ち着いてきたのを見計らってもう1人の、この世界での太宰が聞いてきた。
「私は………太宰、治……です…………。」
頼りない、弱々しい声だった。蛍光灯だけがこの場の空気を読まず元気よくチカチカと光を放っている。
「「「え…?」」」
3人から困惑の声が漏れた。当たり前だ。太宰治とよく似た外見だけでなく、名前まで一緒だと自称しているのだから。
「太宰が……2人…………??」
国木田は支えを失ってしまった人形のように重力に従って倒れた。おそらく常日頃から受けているストレスのせいだろう。そして、奇しくも其の倒れる姿は先程の自分と似ているような気がした。
「国木田さん!?!?大丈夫ですか!?」
「ありゃま」
「と、とりあえずベッドに運ばないと……! 」
敦がうんしょ、うんしょと健気に頑張って、運んでいる姿を2人の太宰は手伝おうかとも頑張れとも言わず、何を考えているのかよく分からない瞳でただただ見つめている。
「ふぅ……。とりあえずこれで大丈夫かな……?」
「まぁ及第点じゃないかなー」
「太宰さんは何もしていなかったでしょう!?」
「酷いなぁ、私だって応援していたのだよ?心の中で。」
目の前で敦と本編の太宰がコントを繰り広げている様子を、太宰はまるでテレビを見ている視聴者のような疎外感を感じながらコントの終わりを待っている。すると本編の太宰が自分に質問してきた。
「じゃあ、そろそろ本題に戻るけど君は太宰治なんだよね?」
「はい……。」
「君と私って同姓同名の別人なの?それとも同一人物?」
「…………。」
言葉につまる。
確かに自分と本編太宰は選択や、役職が違うだけで同一人物だ。
しかしそうなってくると、何故同一人物がここにいるのか、何故そんなにも見た目が違うのかという疑問が生まれてしまう。
自分がなぜここにいるのか、その原因は大方予想がつく。おそらく敦と芥川に本について話したあと、太宰が自殺してしまったことにより、なにかバグのようなものが起こったのだろう。
しかし、説明するのが難しい。
この場にいるのは自分と、本編の太宰と本編の敦。国木田は、まぁ気を失っているからカウントしないでおこう。
本について知っている人間が3人以上居ると世界は崩壊してしまう。そして、この世界の住人は彼ら二人のみ。
だが、住人ではない自分もこの場に居るということで3人のうちにカウントされるなら、この世界は崩壊してしまう。
もし、そうじゃなかったとしてもこの世界で本について知っている人間が1人も存在しない可能性は少ないだろう。
電池の切れたロボットのように俯いて質問に答えない自称太宰に痺れを切らしたのか本編太宰は、重苦しくなった空気を払うように言った。
「まぁ、いいよ。川に流れてたくらいだし、なにか人には言えない事情があるんでしょ。」
「川に?」
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして思わず聞いてしまった。
「はい。僕がいつも通り入水しに行った太宰さん…あ、こっちの方の太宰さんを職場に連れ戻すために川へ行ったらあなたが浮かんでいて……。」
「で、でも、私とそっちの太宰治とは包帯の位置も、服も違うじゃないですか……。」
「よく分からない人だからイメチェンしたのかなと思いまして……」
「よく分からない人なんて酷いよ敦くん!」
やはり私は、これだけ多くの人間に迷惑をかけておいて能天気に笑って生きていられるコイツが嫌いだ。