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下を向いて歩くようになったのはいつ頃からだろう
そんなことをぼんやり考えて私は昼間の寂れた街を歩いた
そもそもなんで私は下を向いて歩くようになったのだろう
シンプルに下を向いて歩くことの利点があるからだろう
例えば
ゲロを踏まない
居酒屋の近くにに居座っている誰のかも分からないような吐瀉物
まあ普通に踏みたくはない
と言っても2年程履き潰している靴なので踏んでも玄関に入れなければ問題は無い
もうひとつ、
近くを歩いているキラキラした人たちを見なくて済むから
隣を歩くサラリーマン、子供連れの主婦、楽しそうに喋っている兄弟
全て私には無かったもの
そんなものを直視しないで済む
ただ私の身勝手でしかないのだが
ああ駄目だこんなこと考えていると気が滅入る
そこでふと気が付く
ここ、どこだ?
どうやら私は目的地を通り過ぎていたらしい
もう二度と考えないようにしよう
目的地である店に入りお目当てのものをレジに置く
レジのお兄さんが気だるげに対応する
恐らく17くらいか…私と同じだ
「お会計1251円でーす」
え…微妙だなぁ…税金とか減らないかな
1500円でいいかな
あれ…この前買ったときってもっと安くなかったっけ
量も減ったんじゃない?
やっぱり最近不景気だよな
給料も減ってきたしな…
「…チッ」
「あっ…すみません……」
店員のお兄さんに舌打ちをされて我に返る
慌てて会計を済ませると逃げるよう店を出る
どうやら物思いに耽るのが私の短所らしい
暫く歩いていると見慣れたアパートが見えてくる
ボロいアパートなので僅かに灰色にくすんでいる
それは自分の心を表しているようで笑えてくる
隅に溜まったホコリや虫の死骸を見ながら階段を登る
どうやら下を向いて歩くことのデメリットもあるようだ
少し息切れしつつも家の玄関まで着く
ここは5階だから意外と体力が要るのだ
肉体労働はしてきたはずだがこれだけは慣れない
その代わり台所のアイツを見なくて済むのだからマシな方か
鍵を開ける為にポケットをまさぐる
あれ?これ…はメモか
スマホ邪魔だな
あれ左の方に入れてたっけ
全部出した方が早いかな
「あっ」
カラン
と音を立てて鍵が落ちる
「あーっ…!!」
ため息を吐いて渋々鍵を取る
ようやくドアを開けて部屋に入る
「うげ」
部屋の汚さに思わず吐く
あ〜駄目だな
掃除しなきゃ……
しなきゃ…か………
そのまま洗面台に行き手を洗う
数年前から…祖母が死ぬ前からやっているルーティンだ
祖母が死んだ後もそのままなんとなくで続けている
他人に知られたら笑われるだろう
でも意外とそれが効果的なのだ
お陰でここ2年は風邪と無縁で過ごせている
台所へ行きコップに水を入れ、そのまテーブルへ…………
ぐら、と視界が揺れる
交通費すらもケチって少し遠出したからかそれとも単なるストレスからかはわからないが眩暈がした
幸い転けはしなかった
だがその際にコップが落ち、水が零れてしまったようだ
足元に水溜まりができる
その様子を暫く無心で見つめる
拭かないと。そう思ったのは靴下に充分なシミを作ってからだった
手頃な雑巾が無かったので仕方なく洗面台のタオルで拭く
まだ拭きは甘い気がするがどうせ誰も見ないのでよしとしよう
本当に祖母が死んでからというものロクなことが起きていない
祖母は充分な財産を私に遺してくれていたはずだが銀行に行く気も勇気も起きず財産は受け取れていない
「はああ…」
またため息を吐く
本当に疲れた
そう、本当に
また水を汲み今度こそテーブルに置く
締め切ったカーテンからは僅かに光が差していた
「…………」
手にはさっき買ってきた睡眠薬
それも片手を覆う程
ああやっとこれで…
私はそれを一気に飲み込んだ
苦しい
息ができない
身体がそれを拒絶するように吐き出そうとする
それを手のひらで抑え無理やり胃液ごと飲み込む
不味い
気持ち悪い
床に膝をつく
視界が霞む
両眼から熱が溢れる
「ゔっ……おえっ…」
苦しい
くるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしいくるしい
苦しい?そんなの自業自得じゃないか
夢を見た
幸せな家族の
自分が描いた理想像
私には無かったもの
そこをどけ
そこは私が居るべきところなのだ
何度思ったことか
結局私には何も残っていない
最期まで駄目な人間だった
誰かの声が聞こえた気がして目が覚める
見知らぬ天井
恐らくは…
「あ、染谷さん起きました」
消毒の匂い
白い服を着た人たち
やっぱり
「…病院…か……」
どうやら自殺は失敗したらしい
ここまでくるともう笑えてくる
やっぱり私は駄目な人間なんだな…
自嘲して起き上がる
まだ気持ち悪い
退院してまたいつものボロアパートに戻る
入院費は祖母の口座から引き抜かれたそうだ
こんなところで役に立つとは…
玄関を開け洗面台に向かう
だがその前に嫌でも目に入る睡眠薬の箱とコップ
駄目だ、あれを見てはまた吐いてしまう
目を逸らすように下を向いて洗面台へ向かった
コメント
10件
oh......…、辛い…辛いよぉ…、
救い無しの物語大好け
バッドエンドっぽいというか救われてないエンドも好き