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俺は夜が好きだ。
特に理由はないが、そう思い始めたのは最近のことではない。
でも、朝焼けの美しさや昼の日差しの暖かさを知ったのはきっと、あの頃の彼女がいたからこそじゃないかとは最近思う。
そうだ、俺にも大切な人くらいいる。いくら容姿や口調が胡散臭くたって、俺はそこまで知的生命体としての威厳を捨ててはいない。
こんな事、こんな薄暗い山道で思い出すべき事では一切ないと思うが、記憶というものはなんでも、全く関連性のないようなところから何かを引っ張り出してくるのが得意らしい。
まるで連想ゲームのように、ただしかくまでも魔導電波より突発的に。
…魔導電波で思い出したが、俺の通信機材のバグ、
機構部はいつ直してくれるのだろうか。
もう七回ほど申請書を出しているのだが、一向にあちらさんの部隊員は手を付ける気配がない。
直接責任者を問い詰めようと日を新たに訪ねてみても、結局仕事が立て込んでるとか、先着順に処理しなければとか、もっともな理由を付けられてなあなあにされてしまう。
ただし、こういう場合はまだマシだ。最悪、その場でヒステリックに喚き散らされて、外聞的にも人間関係的にもまずい事になる。
こうなったら最終的に、機材修理については泣き寝入りしてトーニャかカルアンあたりに代用品を頼むかだ。
全く彼女らときたら、俺に戦場で、戦闘かヴァルハラかすら選ばせないつもりなのか。
いや、でも、行けども行けども泥と死体と鉄塊に塗れた死地で死ぬよりは、俺みたいな職位の奴は、後方指揮所で自害するか安寧の地で敵兵と相討ちになる方が本望に違いない。
そうそう、俺が今どこへ向かっているかという話だが、山中と言っても別に自殺志願とかそういうわけではない。
ただ花を見に来ただけだ。俺の命の次に大事な向日葵畑の、その奥の、森のもう一つの一面を。
夜の山林というのは世間一般の感覚では「恐ろしい」と形容するに十分値するのだろうが、彼らと長いこと付き合っていると恐ろしさなんてなくなって、後には奇妙な親しみと居心地良さだけが残る。
それが自らの故郷と瓜二つの環境だとしたら、尚更。
だから、彼らの変化は文字通り火を見るより明らかだ。今だって暗闇の奥に、見知った同僚の背中が見える。
あれは多分、レイレイだろう。こんな時間に、こんな所にわざわざ足を運ぶとは考えにくいが、あの慣れない歩き方を見ればどこぞの観光客ではないのは一目瞭然だ。
ちょっと驚かせてやろうかと、後ろから早足で近づく。
―成功!
夜の静寂を切り裂くように響き渡るレイレイの絶叫。
流石軍人、振り向くなりすぐさま迎撃態勢を取ったが、俺だよ、デルフィだよ、と声をかけると安心したように溜息を吐いた。
俺はすぐ、なんでこんな所にいるんだとか、君にしては珍しいけど女に振られたのかとか質問攻めにしたけど、彼は嫌な顔一つせず肩をすくめて話し出した。
なんでも、女性関係が上手くいかない時にたまにここに来ているんだそうだ。目的は同じらしく、夜に来たのも俺が管理する夜光花を見る為らしい。
彼は、お前も夜が好きなら俺と同じだと言うけれど、君の動機不純な「夜が好き」を、俺の感情と一緒くたにしないでくれと言ってやった。