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前田さんは力説した。
「榊社長さん、本当にすごい人なんですね」
「はい。すご過ぎて……大尊敬です。私なんかは人として足元にも及びません。誰よりも頭が切れて、あんなにイケメンで……それでも気取りがないというか、威張らない人ですね。社長は、自分のことを『厳しいだけの情がない人間』だって、前に私に言ったことがあります」
「厳しいだけの……情がない人間?」
「はい。そう言われた時、私は社長に言いました。あなたのおかげで私達家族は救われたんです。情がない人間なんかじゃない。私は、あなたのためなら何でもします……と」
前田さんの表情がキュッと引き締まって見えた。
「社長さんに救われたって……何かあったんですか?」
プライベートなことだとは思った。
これ以上聞いて、立ち入っていいのかわからなかったけど……
私は、祐誠さんのこと、もっと知りたいって思った。
「私達は、京都でそこそこ名前の通った茶葉の販売店を家族で営んでいました。老舗なんて言われて、父も経営に自信を持っていて。でもある時、父の親友がお金を貸してほしいと言ってきて。かなりの額でしたが、父は親友を信じて……そのお金を用立てました。お恥ずかしい話ですが、結局、その人にお金を持ち逃げされた形になってしまい。親友に裏切られたことで、あまりのショックに……父がうつ病になってしまったんです」
「そんな、ひどい……」
うつ病なんて……
「動けない程に憔悴しきった父の代わりに、母や私が必死で店を守ろうと、いろいろと頑張りましたが……やっぱり父がいないと上手くいかず、情けないですが限界を迎えてしまいました」
心痛な面持ちで話す前田さん。
そんなことがあったなんて、本当に苦労されたんだ。
お父様もお母様も、前田さんも、どれほどつらかったことだろう。
「どうやっても立ち行かない資金繰りに頭を悩ませ、私まで心を病んでいたと思います。そんな私のことを母もすごく心配していました。それで……とうとう……店を手放すことにしたんです」
「そんな……大切なお店を手放すなんて、お母様もつらかったでしょうね」
「はい。私に隠れて泣いていました。自分のせいだと責めて泣く母を見ているのは、死ぬほどつらかったです。なのに……私は家族と店のために何もできなくて。情けなくて、ダメな自分に心底腹が立ちました。そんな時です」
前田さんは、悲しい表情を一変させた。
「榊社長から、たまたま茶葉――今飲んでいるこのロイヤルミルクティーですが、この茶葉を注文したいと電話があったんです」
「直接、社長さんからですか?」
「そうなんです。以前から個人的に好きなのでと、いつも注文してくれてたんです。その時は母が電話に出て、店を辞める話をしました。そしたら……」
前田さんは、急に胸の辺りを押さえた。
「大丈夫ですか?」