カジノ(casino)
その歴史は古く語源はイタリア語からくる「小さな家」を意味する。もともとは王侯貴族が所有していた社交用、娯楽用の別荘を意味していた。
これが時代の変化とともに娯楽施設を備えた遊戯社交場の性格を強め、産業革命以降には一般大衆を対象とした集会場がヨーロッパ各地に誕生してカジノと呼ばれるようになった。
初期のカジノは「特権階級のサロン」と「賭博好きの庶民や無頼漢のたまり場」という二種類が分類されていたようである。
しかし、いくら豪奢に自身を着飾ったお貴族様も酒に溺れた貧民層の荒くれ者も等しくこの場では欲に塗れた『人間』でしかないという事だ
傲慢、強欲、嫉妬、怠惰、憤怒、色欲、暴食。
「七つの大罪全てが揃う場もなかなか珍しい」
腹の探り合いをすれば皆同じものが出てくる
ここは、そういう場所なのだ。
黒のスーツを身に纏い、腰に日本刀を差した年若い青年は闇夜に煌々と輝く施設を前に嘲笑う
「まぁ、僕もそんな世界の住人なわけだけど」
人好きのする笑顔を浮かべ、慣れた様子でドアマンに挨拶してから青年は綺羅びやかな扉をくぐっていった。
カジノ『クラブ=マジェスティ』
会員制であるこのカジノは品性はもちろん、ある程度の財力を持った紳士淑女にのみ開かれる
高級ホテルのような洗練された内装は、他と差別化を図る事で客の『傲慢』さを満たしてやる為とプライドが高いものの方が圧倒的にトラブルが減るという店側としての利点もあった
この店の用心棒であり従業員として働く青年、剣持刀也としては平和に過ごせる環境にとても満足している。
「やぁ、ザレンさん。」
バーのカウンターで客と談笑しているバーテンダーに話しかけた剣持は一瞬でゲッという表情をする彼に、より一層笑みを深める
「なんでいるんだよ、今日は休みじゃなかったか剣持ぃ」
「おい、それが休み返上で助っ人に来てやった人間に対する態度かよ」
「助っ人ぉ〜?」
「僕が呼んだんだよ」
耳心地の良いアルトが聞こえたかと思えば可愛いらしいエプロン姿で給仕をする従業員、鈴谷アキが剣持の隣に並ぶ
「アキくん〜♡」
「ごめんね刀也お兄ちゃん、お休みなのにお仕事頼んじゃって…」
「いえいえ、アキくんの頼みだもの何を置いても来ますよ」
「きっも!」
「あ”ぁ?ギルザレン喧嘩売ってんのか?買うぞ?」
中指立ててカウンター越しに睨み合う2人に、また始まったよと客も呆れた様子で酒を含んでいる
「ありがとね〜でも喧嘩しちゃだめだよ、まだ続ける気なら楓お姉ちゃん呼んじゃうぞ☆」
「「すみませんでしたぁ!」」
土下座する勢いの2人に冗談だよと笑いながらアキは剣持に今日の予定を話した
「実は、スタッフが一人体調崩して来れなくなっちゃってね。ゲーム内容は刀也お兄ちゃんに任せるからディーラーさんやってくれる?」
「うん、任せて」
頼りになるなぁ、と花開くように微笑むアキに剣持はこの笑顔を見られただけでも来た甲斐があったと嬉しくなってニコニコしてしまう
「うわぁ」
上機嫌に笑う彼らを横目にげんなりとしているヴァンパイアが視界の隅に映っても剣持は気にならなかった
一度バックヤードに行って準備をした後、もはや定位置になりつつある最奥の卓へ向かう
自分は助っ人に過ぎないのだからメインの卓は避け、のんびりと客の相手をするのが好ましい
「さて、働くか」
スーツの上着を脱ぎ腕まくりしながら今日は、どんなカモが来てくれるかなと舌なめずりした。
カラカラとルーレットが回る音、大金を手に公平を期す為ゲームを取り仕切るディーラーの声、最終結果に一喜一憂する客の喧騒
「……。」
そして、そんな世界の雰囲気に飲まれ少しだけ身を縮こませる客がここに一人
「こんばんは、お兄さん。こういう店は初めて?」
「え…」
なんとなく空気に気圧されて店の奥まで来てしまった男性は慣れていない事に気付かれた羞恥と突然話かけられた事に驚いて振り向く
見ると卓の前でトランプカードを手遊びのように切る青年が周りを囲む客には目もくれず、こちらを真っ直ぐに見ていた
「わ、私ですか?」
「ええ、あなたです」
ゆったり妖艶に微笑む青年にどきりと胸が高鳴り見惚れる。が、すぐに彼の取り巻きの客達から容赦ない視線を浴びせられ固まった
男の客はともかく、美女からも睨まれるのは正直辛い
「お客様方?新しい方をいじめるのはやめて下さいよ、じゃないと僕もう来なくなるかも…」
鶴の一声とはこの事か、青年の言葉で直ぐ様視線が四方に散る
この卓はディーラーが客より強いのだろうかと男性は少々困惑した
「ゲームがお決まりでないなら僕と一戦どうですか?」
「君と?」
「はい、一対一の勝負です。もちろんイカサマや複雑なゲームは無しですし初めてでしたらルール説明からさせて頂きますよ」
「そ、それなら…」
恐る恐る席に座る男性に青年はニッコリ笑いかけ思い出したように言葉を続ける
「そうそう、ここではお金の他にもう一つ賭けて頂くルールがございます」
「お金の他に?」
「はい」
台に身を乗り出し綺麗な青年の顔がこちらに近づく。キスでもされそうな距離に男性が顔を赤くしているとフイッとそのまま通りすぎて耳元に唇を寄せた
「私が勝った場合、あなたから大切なものを一つ頂きます。けれどもし…あなたが勝った場合は」
「私が勝った場合は…?」
『…僕を好きにして頂いて構いません』
ゴクリと生唾を飲む音がしてしまい、それが聞こえたのか青年がクスッとイタズラっ子のように微笑して何か果物の爽やかな香りと共に離れていく
「僕は、剣持と申します。1ゲームお付き合い願えますか?」
男性は青年の美しい瞳に囚われたまま気づけば首を縦に振っていた。
つづく
新しいシリーズ始まりです!
夜の世界、予想以上に書いてて楽しいですね…。
イメージ的に剣持は20代前半くらい
ガッくんは20代後半くらいの予定です✨まだ出番なかったけど
コメント
5件
顎が甘い誘惑をしているッ!? てぇてぇ( ´ཫ`)
最高すぎる👍😭続き楽しみに待ってます👍👍