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「自衛するしかないか」


避妊してくれないなら自分でどうにかするしかない。

産婦人科に言って低用量ピルをもらった。

優斗には悪いけど、こんな状態で子どもなんて考えられない。


男は何も変わらないから、平気でデキてもいいなんて言えるんだ。

女は人生が大きく変わるというのに。


「不公平」


ピルの副作用で体調不良が数日続いた。主に吐き気がすごかった。

数日で収まったけど、妊娠したらこれが数カ月も続くなんて世の女性ってめちゃくちゃ大変じゃない?

そもそも毎月繰り返す生理前からの体調不良に、始まってからの生理痛、そして出産という最大に痛いイベントとか。


昔の人たちは当たり前のように受け入れていたのだろうけど、今は共働きの時代。家事に育児に夫と同程度の仕事がプラスされ、まさに生き地獄。


「女の人生って苦労の連続……」


トマトサラダをもそもそ食べながらぼやくと、となりで美玲が乾いた笑いをらした。


「だから独身が一番いいのよ。誰にも干渉されずに過ごせるしね」


美玲は明るい声で話す。


「独り身だったら不貞されたって別れればいい話だけど、結婚していたらそう簡単にはいかないからね」


不貞の言葉にどきりとした。

あの夜の優斗の言葉を思い出す。


私はさりげなく、その話題を口にしてみた。

すると美玲は驚き、予想外に真剣になって話を聞いてくれた。


「それ、あやしいよ。調べてみたほうがいいんじゃない?」

「どうやって?」

「そうね……山内くんはSNSやってる?」


優斗はSNSを登録しているけど、ほとんど投稿はしていない。

いわゆる放置アカ。

フォロワーだけは100人いるが、学生時代の友だちか会社の同期、あとはそのつながりで会ったこともない人だ。


「ほら、最後の投稿は4年前だよ」

「そんなのはどうでもいいのよ」


美玲は私からスマホを奪ってスクロールする。

見ているのはフォロワーだ。


「この女たちの中で紗那の知ってる子いる?」

「あー、うん。同期の子とか……わりと」

「知り合いから潰していこうか」

「え?」


美玲はひとりずつ確認していく。

まずは私の知っているフォロワーの最近の投稿と誰かへの返信など。


「特に山内くんと接触している子はいないわね」

「同期と言っても、もうほとんど会わないもん。だけど、何かちょっと気が重いな……」


優斗のことを疑っているみたいで罪悪感を抱いてしまう。

すると美玲は強い口調で言った。


「結婚してわかったらもっと悲惨だよ。今ならまだ間に合うよ」

「間に合うって……」


それでクロだったら、私はどうしたらいいんだろう。

積み上げてきた5年間のことを思うと胸が苦しくなる。


結婚が決まってから考え方のすれ違いがあったりするけど、楽しいこともいっぱいあったし、これからも楽しくやっていきたいのに。


次々と現れる女の子を見ていたら、ふと目についた子がいた。

アカウント名はNoaだ。


【新作のネイルでーす♡】


その投稿は女の子の顔とネイルを見せている手。

顔ははっきり覚えていないが、そのネイルには見覚えがある。

エレベーターの前で転んでしまった子だ。


うちの会社は派手なネイルを禁止している。

特に正社員に対しては厳しい。

だが、派遣の人は別だ。


「派遣の子……?」

「え? 何、この子知ってるの?」

「ああ、この前エレベーターから出てきて転んだから手を貸してあげたんだけど」

「うわ、ネイル派手過ぎない? いくら派遣でもここまでやると何か言われそう」

「うん、どうだろ」


そんなことよりも、なぜこの子が優斗のSNSのフォロワーにいるのかということが気になる。


「あ、ねえねえ。彼氏っぽいよ。この写真」

「えっ……?」


美玲がスクロールして表示した画面には、レストランの料理が映っていた。

向かい側に座っている人物の姿が映っていないが、料理の皿に左手が添えてある。


「ねえ、それ拡大して!」


嫌な予感がした。


美玲が写真に写る男の手をスマホ画面ぎりぎりまで拡大する。

私はそこにあるわずかな違和感をじっくり見つめた。


男の指先、それも左手の人差し指の先だ。

爪の端が少し欠けてそのまま肉に切り傷がある。


「あー、これ。包丁で切ったんだろうね。料理とかするのかな?」


美玲がそう言って、ますますはっきりした。

だってこれは優斗の傷だから。

彼は怪我をしたと大袈裟に騒いで散々私に愚痴を言って、二度と料理しないとぶつぶつ言って。


私が手当てをした傷だから!!


「これ、優斗かもしれない」

「やっぱりか……でも、これだけじゃグレーかな。顔が見えないんじゃ」

「うん」


顔は見えない。

だけど、この手は優斗に間違いない。

傷がなくても5年一緒に過ごして間近で見てきた男の手を間違えるわけがない。


「大丈夫? 紗那。今日どっか泊まる? あたしも付き合うよ」

「いや……大丈夫。まだ、そうと決まったわけじゃないし」

「こう言っちゃなんだけど、別れるなら早いほうがいいよ。結婚しちゃったら取り返しがつかなくなるから」

「……わかってる」


わかっているけど、今は正直、頭の中が混乱してどうすればいいのかわからない。


今日は仕事をする気分ではなかったので定時に上がって帰宅した。

夕食の準備をしていても、ぼんやりすることが多かった。

突然思いついたようにスマホを手に取り、NoaのSNSを見てしまう。

スマホをスクロールして過去の投稿をさかのぼる。


一体、いつから、優斗らしき男と付き合っているのか。

膨大な投稿数を遡りながら、それっぽいものだけ頭の中でピックアップしてみる。



5月5日

【やっとカレに会えるう~】


4月12日

【レストランデート♡】


3月8日

【バースデープレゼントをもらったょ♡】


2月16日

【イケナイコトするのドキドキするよね♪】


1月23日

【早く会いたいょ~週1しか会えないなんてさみしぃ~】


12月26日

【クリスマスにカレにもらったイヤリング♡かわいいでしょ】



そこでスクロールする指を止める。

優斗は25日のクリスマスを大学の友だちとパーティだと言って深夜12時まわって帰ってきた。

イブを一緒に過ごす代わりに25日は自由にさせてくれと優斗が言ってきたから、私は美玲と一緒に映画観て食事して帰ったんだっけ。

疲れたから先に寝て、優斗が帰宅した音は聞こえたけど、眠気が勝ってそのまま朝まで起きなかった。


まさか、会っていたのは友だちじゃなかった……?


優斗のスマホに目をやった。

彼氏のスマホを見るなんて、いくらなんでもそれはダメだろう。

と思うけど、気になって仕方ない。

テーブルの上に堂々と置いているということは見られてもかまわないということだろう。


どくんどくんどくんと鼓動が高鳴る。

見てはいけないのに、手が勝手に伸びる。


優斗のスマホのロックの番号は誕生日だ。

指で数字を押したら簡単に解除できた。

やはり、見られても困るようなことはないのかもしれない。


メッセージアプリを起動して友だち欄を見てみる。

そこで目に留まった名前が田崎乃愛だった。


SNSのNoaと同じ名前。

トーク欄を見ても乃愛とやりとりしている様子はない。


でも、気になる。

優斗がまだシャワーを浴びているのを確認して、乃愛へスタンプを送ってみた。

勘繰られたら誤爆だとあとで謝ればいい。

そしてトーク画面を削除すればいい。


そうなることを願っていたけど、思わぬ返事があった。


【どーしたの?ゆーくん】


どくんっと激しく鼓動が鳴った。


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