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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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マンションのドアを開けると中は真っ暗で、湊がまだ帰って来ていないんだということがすぐに分かった。


送別会だって言っていたから仕方ないけれど、寂しい気持ちが込み上げるのを止められない。


湊が今の会社に入社してから、二人の時間が激減した。


保険会社は厳しいって聞いていたから今まで我慢して来たけれど、もう一年以上が経つ。


いつまでこんな生活が続くんだろう。


憂鬱な気持ちになりながらシャワーを浴びて、キッチンでお茶を入れて一息ついた。


時計を見ると深夜一時をまわっていた。


終電間に合うのかな?


そんな心配をしてると、玄関のドアが開く音が聞こえて来た。


……帰って来た!


「湊、お帰りなさい」


お茶をテーブルに置き、玄関まで迎えに出ると、湊は少し驚いた顔をした。


「起きてたのか?」


「え? あの、私も帰ってきたばかりで……会社の人と飲みに行ってたの」


「そうか、相変わらず仲良さそうだな」


湊は素っ気無く言いながら靴を脱ぐと、私を置いてリビングに向かう。


その素っ気無い後ろ姿に胸が痛くなった。


私を見てくれない。


話しかけてもつまらなそうにしていて、ろくな返事も返って来ない。


湊もいろいろ悩んでるんだろうと思って我慢していたけれど……もう耐えられない。


「湊、話が有るんだけど」


キッチンで水を飲んでいた湊に向かって言った。


今まで何も言えないままだったけど、今日こそちゃんと話し合いたい。


「話? こんな時間にか?」


湊はうんざりしたように言う。


「どうしても話したくて……私達もう何日もまともに会話してないんだよ?」


退かないという決意を込めて言うと、湊は諦めたように溜息を吐き椅子に座った。


私もその正面に座る。


「話って何?」


「湊……最近凄く冷たいけど私何かした?」


「別に。何もしてないし、冷たくもしてない」


「じゃあ仕事の事で悩んでるの?」


「別に……」


湊は面倒そうに髪をかきあげる。


早く解放されたいって気持ちが伝わって来たけれど、私は止められずに続けて言った。


「じゃあ何でそんな態度なの? いつも不機嫌そうで私の事まともに見ようとしない。休みの日も部屋に籠もるか一人で出かけるかで……こんなじゃ一緒にいる意味が無いよね?」


「……」


「私の事嫌いになった? 別れたいの?」


「……そんなんじゃない」


「じゃあどうして? 湊はこの先どうしたいと思ってるの?」


私達は結婚の約束もしていた。


湊が仕事に慣れたら結婚しようって。


でも今のままじゃそんな未来が来るとは思えない。


私は湊が好きだけど、今、幸せだって言い切れない。


私はいつも寂しくて……。


「もう一年以上も一緒に寝てないんだよ? こんなの恋人同士じゃないよね? ただの同居人だよ」


湊が出来なくなった事を責めちゃいけないって思ってた。


だからずっと我慢して……時々さり気無く誘っては相手にされなくてその度に傷付いていた。


「……ごめん」


しばらくの沈黙の後、湊がポツリと言った。


その瞬間、涙が溢れて止まらなくなった。


「美月……ごめん」


「……ごめんってどういう意味?」


拒否をして来た事を謝っているのか、それとも別れの言葉なのか。


分からないけど、今まで吐き出せずに溜めて来た気持ちが涙になって溢れて止まらない。


湊は困ったような顔をした後、ためらいながら言った。


「傷付けて泣かせてごめん……でも美月と別れたいと思ってた訳じゃないんだ」


「……じゃあなんで私を避けてるの?」


「避けてた訳じゃない。ただ俺もいろいろ悩んでて……仕事で疲れて一人で過ごしたかったんだ」


「一人でって……私が居たら安らげないって事?」


それはとてもショックなことだった。


一緒にいて疲れる相手と付き合っていけるとは思えない。


「美月に原因が有る訳じゃないよ。ただ……俺が美月に甘えてた、思いやる気持ちを忘れてた」


「……」


「美月が何も言わなかったから、悩んでいるのに気付かなかった……ごめん」


「気付かなかった?」


湊にはっきり言った事は無かったけれど……それでも私に関心が有ったら気付いていたと思う。


湊は本当に私を見ていなかったんだ。


辛かった一年間を思い出すと虚しくなる。


「美月?」


湊はそんな私の思いに気付かないようだった。


「……湊はこの先どうしたいの?」


「美月と一緒に居たいと思ってるよ。いつか結婚したいと思ってる」


まだ言いたいことはたくさん有る。


でも湊が歩み寄ってくれてるのは分かるからこれ以上は責められない。


「私も湊と別れたくない」


涙を拭きそう言うと、湊はホッとした様子で頷いた。

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