テラーノベル
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29
三日月さくら🎼🍵👑🌞
516
200
変われないまま 🐙🌟視点
=言えなかったことの行方=
バットエンド
喧嘩
BL要素なし
まじで報われない
初心者
下手
伏字なし
雨の日は、音が多い。
窓を叩く雨音。空調の低い唸り声。廊下を歩く誰かの足音。遠くで閉まるドアの音。
そういうものが全部、ひとつずつ耳に入ってくる。
だから、小柳くんが怒鳴った声も、必要以上にはっきり聞こえた。
「俺が何したんだよ。言えよ。俺が気に入らないなら、そう言えばいいだろ」
その言葉を聞いた時、俺は一瞬だけ、本当にわからなくなった。
俺が何をしたのか。
何が気に入らなかったのか。
どうして、こんなことになっているのか。
もちろん、まったく心当たりがなかったわけじゃない。
ここ最近、小柳くんとはうまく話せていなかった。
連絡を返すのが遅くなった。誘いを断ることも増えた。会っても、以前みたいにくだらない話を続けることができなくなっていた。
でも、それには理由があった。
俺は、小柳くんに嫌われたのだと思っていた。
最初にそう感じたのは、ほんの些細なことだった。
以前なら、俺が何か言えばすぐに反応してくれた。くだらない冗談にも呆れたような顔をしながら付き合ってくれたし、俺が少し黙っていれば、どうしたのかと聞いてくれた。
それが、いつからか変わった。
小柳くんは俺と話している途中で、別の誰かに声をかけるようになった。こちらを見ていても、どこか遠くを見ているみたいだった。
気のせいだと思おうとした。
忙しいだけかもしれない。疲れているだけかもしれない。
そう考えている間は、まだ平気だった。
けれど、ある日、俺が送ったメッセージに返事が来なかった。
内容は大したものではなかった。
『今度、時間あったらご飯行かない?』
それだけ。
返事がなくても、困るような内容ではない。急ぎでもない。小柳くんが返してくれなかったとしても、怒るようなことではなかった。だって絶対小柳くんがご飯行くはずがないから
それでも、送信した画面を何度も確認した。
既読がつくまで。
既読がついてから、返事が来るまで。
そして、返事が来ないまま一日が過ぎた。
俺は、余計なことを送らなかった。
どうして返事をくれないの、と聞くこともできた。でも、そんなことを聞いたら、本当に嫌がられる気がした。
だから、何も言わなかった。
何も言わないまま、少しずつ距離を取った。
小柳くんに嫌われているのなら、これ以上近づかない方がいい。
そうすれば、少なくともこれ以上嫌われることはない。
そんなふうに考えていた。
今思えば、それはただの逃げだった。
嫌われているかもしれないという不安を、確かめる勇気がなかっただけだ。
でも、その時の俺には、それが精いっぱいだった。
*
その日、収録が終わったあとも、俺は部屋を出なかった。
忘れ物があったからだ。
正確には、忘れ物を取りに戻ったというより、誰もいない場所で少しだけ時間を潰したかった。
小柳くんと同じ空間にいると、どうしても気を遣う。
話しかけたい。
でも、話しかけて嫌な顔をされたら怖い。
なら、最初から話しかけない方がいい。
そんなことを考えているうちに、他の人たちはみんな帰ってしまった。
静かな部屋に、雨の音だけが残る。
窓の外を見ながら、俺はスマホを取り出した。
ロウとのトーク画面を開く。
最後のやり取りは、数日前の短い連絡だった。
「了解」
僕が送ったメッセージに対する返事。
それだけだった。
たった2文字の言葉を、何度見ても意味は変わらない。
小柳くんは怒っているのかもしれない。
俺のことを面倒だと思っているのかもしれない。
それとも、本当に何も思っていないのかもしれない。
どれも嫌だった。
特に最後が嫌だった。
嫌われるよりも、何も思われていない方がずっと苦しい。
「……まだいたんだ」
背後から声がした。
振り向かなくても、誰なのかわかる。聞き慣れた声
小柳くんだった。
胸が小さく跳ねた。
話したいと思った。
今度こそ、ちゃんと聞こうと思った。
どうして俺を避けるのか。何か気に障ることをしたのか。俺たちはもう、以前みたいには戻れないのか。
でも、口から出たのは、いつものような軽い言葉だった。
『俺は忘れ物。小柳くんは?』
「忘れ物取りに来ただけ」
『何を?』
「……忘れた」
その答えを聞いて、少しだけ傷ついた。
たぶん、本当に忘れ物なんてなかったのだと思う。
俺と同じで、帰る理由を失って、ただここに残っていただけなのかもしれない。
それなのに、小柳くんは俺に何も言わない。
俺も、何も言えなかった。
だから、気づいてほしくて嫌味を言った。
『そういうの、最近多いね』
「何が」
『忘れたって言うやつ』
本当は、忘れ物の話をしたかったわけじゃない。
俺のことを忘れたみたいに扱う小柳くんに、気づいてほしかった。
でも、そんな言い方で伝わるはずがない。
小柳くんは当然のように苛立った。
「別にいいだろ」
『よくないよ』
そこから先は、坂道を転がるみたいだった。
一度動き出した言葉は止まらない。
小柳くんが怒っていることは、すぐにわかった。
俺が避けていると言われた時、胸の奥が冷たくなった。
避けていたのは俺だけではない。
小柳くんも俺を避けていた。
その事実に、少しだけ安心した自分がいた。
俺だけが一方的に距離を取っていたわけじゃない。俺だけが関係を壊したわけじゃない。
そんな、ひどく身勝手な安心だった。
『小柳くん、怒ってる?」
「怒ってない」
怒っている人の言い方だった。
けれど、俺も意地になっていた。
『怒ってる人の言い方だね、それ』
その一言で、ロウの表情が強張った。
俺はすぐに後悔した。
そんなふうに指摘したかったわけではない。
怒っていてもいいから、何を考えているのか教えてほしかっただけだ。
でも、うまく言えなかった。
『じゃあ、なんで最近ずっと俺を避けてるの?』
聞いてしまった。
本当は、聞くのが怖かった。
返事を聞けば、今まで曖昧だったものが、はっきりしてしまう。
それでも、もう曖昧なままではいられなかった。
小柳くんは、俺のことを避けている理由を知らないと言った。
そして、俺が何を考えているのかわからないと続けた。
それは、俺も同じだった。
小柳くんがが何を考えているのかわからない。
俺を必要としているのか。
それとも、もう必要としていないのか。
話しかけていいのか。
離れた方がいいのか。
何ひとつわからなかった。
「お前は最近、俺のことなんだと思ってんの?」
その質問に、すぐには答えられなかった。
俺にとっての小柳くん。
そんなの、決まっている。
大事な人だ。
そばにいると安心する。くだらない話をしているだけで楽しい。何も言わなくても、隣にいてくれるだけでいいと思える。
でも、それをそのまま口にすることはできなかった。
口にしてしまえば、俺の方が重いみたいだった。歪んでるって思われたくなかった。
だから、俺は黙った。
その沈黙が、小柳くんをさらに傷つけたことに気づけなかった。
小柳くんは、俺が何も答えないことを拒絶だと受け取った。
そして、俺もまた、小柳くんの苛立ちを拒絶だと受け取った。
お互いに、相手の沈黙を自分に都合の悪い形に解釈していた。
そうしているうちに、言葉はどんどん鋭くなっていった。
「お前が何考えてるのかわかんねぇんだよ」
その言葉に、俺は唇を噛んだ。
言いたいことなら、たくさんあった。
小柳くんに嫌われたと思っていた。
俺のことなんて、もうどうでもいいのだと思っていた。
だから、これ以上傷つかないように離れた。
でも、それを言うには、俺はまだ臆病すぎた。
代わりに、俺は言った。
『俺だって、好きで避けられてると思いたくなかったよ』
小柳くんの顔が歪む。
その表情を見た瞬間、俺は自分の言葉が間違っていたことに気づいた。
責めたいわけではなかった。
わかってほしかっただけだ。
俺だって怖かった。
俺だって、小柳くんに嫌われたくなかった。
でも、小柳くんはそれを責められていると受け取った。
「俺が何したんだよ」
俺は答えようとした。
小柳くんが悪いわけじゃない。
俺が勝手に不安になっただけだ。
そう伝えようとした。
けれど、口から出たのは、別の言葉だった。
『小柳くんが、俺のことを必要としてないみたいだったから』
言ってしまった。
ずっと言えなかったことだった。
俺は、小柳くんに必要とされたかった。
友達としてなのか、仲間としてなのか、それとももっと別の何かなのか、自分でもよくわからない。
ただ、小柳くんの中に俺の居場所があってほしかった。
けれど、小柳くんは何も言わなかった。
その沈黙を見て、俺は思った。
やっぱり、俺だけだったのだ。
俺だけが、この関係を大事にしていた。
俺だけが、失いたくないと思っていた。
そんなふうに、勝手に決めつけた。
『俺だけだったんだね』
声にした途端、胸の奥が痛くなった。
本当は、否定してほしかった。
違うと言ってほしかった。
俺も大事だったと、必要だったと、言ってほしかった。
小柳くんはすぐに否定した。
「違う」
その言葉を聞いて、少しだけ期待した。
何が違うのか、小柳くんが話してくれると思った。
けれど、小柳くんは続けなかった。
俺も、続きを待てなかった。
待っていることを知られたくなかった。
欲しがっていると思われたくなかった。
だから、俺は笑おうとした。
『いいよ。もう』
本当は、よくなかった。
全然よくなかった。
俺は、小柳くんに引き止めてほしかった。
ここで帰らないで、と言ってほしかった。
俺のことを見ていてほしかった。
でも、そんなふうに願う自分が、ひどく幼く思えた。
小柳くんは、そんな俺を見ていなかった。
少なくとも、俺にはそう見えた。
「お前が俺を必要としてないなら、俺もお前に合わせる理由はない」
その言葉を聞いた時、息が止まった。
必要としていないわけではない。
むしろ、必要としていた。
必要としすぎていたから、怖くなったのだ。
俺の方が大切に思っていると知られるのが怖かった。
俺の方が執着していると知られるのが怖かった。
だから、平気なふりをした。
余裕があるふりをした。
けれど、小柳くんには伝わらなかった。
「今までがたまたま仲良く見えてただけだろ。別に、俺たちが特別だったわけじゃねぇし」
その言葉を聞いた瞬間、何かが切れた。
俺の中にあった、最後の期待が。
特別ではなかった。
小柳くんにとって、俺たちは特別ではなかった。
そう言われた気がした。
たとえ小柳くんが本心から言ったわけではなかったとしても、俺の耳にはそう聞こえた。
俺は、笑った。
笑えていたかどうかはわからない。
『俺は、そうじゃないと思ってた』
それが精いっぱいだった。
そう信じたかった。
責めることもできなかった。
泣くこともできなかった。
ただ、俺だけが勘違いしていたのだと認めるしかなかった。
小柳くんは何か言おうとした。
「星導」
名前を呼ばれただけで、心が揺れた。
ここで振り返れば、きっとまた期待してしまう。
小柳くんが本当は違うと言ってくれるかもしれない。
俺が大切だったと、言ってくれるかもしれない。
けれど、その言葉は続かなかった。
代わりに小柳くんは、
「……じゃあな」
と言った。
俺は返事をしなかった。
返事をしたら、たぶん引き止めてしまう。
行かないで、と言ってしまう。
そんなことを言って、それでも置いていかれたら、今度こそ本当に立ち直れない気がした。
だから、黙っていた。
ドアが閉まる音を聞く。
小柳くんの足音が遠ざかる。
完全に聞こえなくなってから、僕はようやく息を吐いた。
『……俺の方が、馬鹿じゃん』
誰もいない部屋で呟く。
目の奥が熱くなった。
けれど、涙は出なかった。
泣けば楽になるのかもしれない。
でも、泣く資格があるのかもわからなかった。
自分から距離を取っておいて、勝手に傷ついて、勝手に期待して、勝手に失望した。
小柳くんを責めることなんて、できない。
俺はスマホを取り出した。
小柳くんに連絡しようと思った。
『ごめん』
そこまで打って、指が止まる。
何に対する謝罪なのか、自分でもわからなかった。
避けたこと。
聞かなかったこと。
言わなかったこと。
それとも、小柳くんのことを信じられなかったこと。
全部だった。
けれど、たった一言の「ごめん」で済ませられるほど、簡単な話でもなかった。
俺はメッセージを消した。
代わりに、何も送らなかった。
*
それから、俺たちは本当に必要最低限の会話しかしなくなった。
小柳くんは、以前よりさらに口数が減った。
俺が話しかけても、返事は返ってくる。
でも、それだけだった。
俺も同じように振る舞った。
笑って、冗談を言って、周囲に合わせる。
小柳くんがいても、いないものとして扱った。
そうすれば、少なくとも自分が傷ついていることを悟られずに済む。
そう思っていた。
でも、実際には、小柳くんの姿を目で追わないようにするだけで精いっぱいだった。
彼が誰と話しているのか。
何を見て笑っているのか。
俺以外の誰かには、以前のように接しているのか。
知りたくなかった。
知るのが怖かった。
それでも、気づけば見てしまう。
小柳くんが俺以外の人と楽しそうにしていると、胸の奥がひどく冷えた。
俺がいなくても、小柳くんは平気なのだ。
当たり前のことなのに、その事実が苦しかった。
ある日、久しぶりに同じ現場に入った。
俺は少しだけ期待していた。
あの日から時間が経った。
小柳くんも、少しは落ち着いているかもしれない。
俺も、今度なら話せるかもしれない。
たとえ以前のように戻れなくても、せめて喧嘩をしたままではいたくなかった。
小柳くんの姿を見つけた時、名前を呼びそうになった。
けれど、彼は誰かと話していた。
その表情が、以前俺に向けていたものと同じに見えた。
俺は足を止めた。
近づいてはいけない気がした。
あの日、小柳くんは言った。
俺たちは特別ではなかったと。
だったら、俺が今さら何を言っても意味がない。
俺は別の人に声をかけた。
いつも通りに笑った。
できるだけ楽しそうに振る舞った。
少し離れたところで、小柳くんがこちらを見ていることに気づいた。
目が合った。
俺は、すぐに視線を逸らした。
もし、そこで立ち止まっていたら。
もし、俺が名前を呼んでいたら。
もし、小柳くんがこちらに来てくれると信じられていたら。
何かが変わっていたのかもしれない。
でも、俺たちはどちらも動かなかった。
小柳くんはそのまま、俺の前からいなくなった。
追いかけることはできなかった。
追いかけて、また拒絶されたら。
俺がまだ小柳くんを大切に思っていることを知られたら。
それでも離れていかれたら。
怖かった。
だから、見送った。
また、見送ってしまった。
その夜、帰宅してからスマホを開いた。
小柳くんとのトーク画面には、何も新しい通知がなかった。
俺は画面を閉じようとして、指を止めた。
そして、短いメッセージを打った。
『話したい』
何度も書き直して、結局それだけになった。
送信ボタンを押す。
手が震えて
取り消したくなった。
けれど、もう遅かった。
画面には、送信済みの文字が表示されている。
俺はスマホを伏せて、ベッドの上に置いた。
返事が来るまで、見ないつもりだった。
でも、数分後にはまた手に取っていた。
通知はない。
あとになって気づいた
俺が送る前に「今度会える?」ってDiscordに来てた
さらに時間が経っても、何もない。
夜が明けても、既読はつかなかった。
小柳くんが見ていないのか。
見たうえで、返す気がないのか。
わからない。
わからないまま、朝になった。
俺は画面を見つめながら、やがてメッセージを削除した。
送ったこと自体をなかったことにしたかった。
けれど、削除したのは自分の画面からだけだ。
小柳くんのところには、きっとまだ残っている。
そう考えると、余計に苦しくなった。
その日から、俺は小柳くんに連絡をしなかった。
小柳くんからも来なかった。
何日か経って、俺はようやく理解した。
俺たちは、喧嘩をしたのではない。
喧嘩なら、仲直りする可能性がある。
怒鳴り合っても、泣いても、最後に相手のところへ戻ることができる。
でも、俺たちは何度も戻る機会を見送った。
言えるはずだった言葉を飲み込んだ。
伸ばせたはずの手を引っ込めた。
そして、相手が諦めるのを待った。
俺たちの関係は、誰かに壊されたわけではない。
大きな出来事があったわけでもない。
ただ、言わなかった。
信じなかった。
怖くて、逃げた。
その積み重ねで、静かに終わった。
*
季節が少しだけ変わった頃、俺は街で小柳くんを見かけた。
偶然だった。
遠くにいる彼を見つけた瞬間、足が止まる。
声をかけようと思った。
久しぶり、と言うだけならできる。
元気だった、と聞くだけなら許されるかもしれない。
でも、小柳くんは俺に気づかなかった。
誰かと歩いていた。
横に並んで、何かを話している。
その光景は、あまりにも自然だった。
俺がいなくても、日常は続いていく。
小柳くんの隣には、俺ではない誰かがいて。
小柳くんはその人に、俺にはもう向けてくれない顔で笑っている。
俺は、物陰に隠れるようにして、その場を離れた。
追いかけなかった。
声もかけなかった。
ただ、自分の中で最後に残っていた何かが、音もなく崩れていくのを感じていた。
帰り道、雨が降り始めた。
傘を持っていなかった。
服が濡れていく。
冷たい雨が髪や頬を伝って落ちていく。
それでも、俺は歩き続けた。
あの日の雨とは違う。
同じように降っているだけで、何もかも違う。
あの日、俺は小柳くんが振り返ることを期待していた。
今は、振り返らないでほしいと思っている。
もし振り返られたら、きっと俺はまた期待してしまうから。
また、戻れるかもしれないと思ってしまうから。
スマホが震えた。
画面を確認する。
仕事の通知だった。
俺はそれを閉じて、連絡先の一覧を開いた。
小柳くんの名前を見つめる。
削除することもできた。
それを選べば、もう迷わずに済む。
メッセージを送ることも、画面を確認することもなくなる。
俺は長い間、指を止めていた。
そして、連絡先を消した。
トーク画面も、写真も、残っていた記録も。
全部、消した。
消したところで、記憶までなくなるわけではない。
むしろ、なくならないからこそ、消す必要があった。
俺は、小柳くんのことを忘れられない。
忘れたくもない。
けれど、忘れられないまま、いつまでも同じ場所にいることもできなかった。
だから、終わらせるしかなかった。
雨は、しばらく降り続いた。
あの日と同じように。
俺は一人で歩いた。
小柳くんの隣ではなく。
小柳くんにもう名前を呼んでもらうこともなく。
もう二度と、俺たちが以前のように笑い合うことはない。
そんな確信だけが、雨よりも冷たく胸に残っていた。
俺は最後まで、小柳くんに伝えられなかった。
必要としていたこと。
特別だと思っていたこと。
本当は、ずっと隣にいたかったこと。
言えなかった言葉は、行き場をなくして、俺の中に沈んでいく。
いつか、それさえ忘れる日が来るのかもしれない。
でも、今はまだ忘れられない。
だから俺は、雨の中で何度も思う。
もし、あの日に戻れたなら。
もし、小柳くんが帰ろうとした時、ちゃんと名前を呼べていたなら。
もし、「行かないで」と言えていたなら。
きっと、何かが変わっていた。
けれど、そんなもしもは、どこにも存在しない。
小柳くんはもう、俺のところへ戻ってこない。
俺ももう、小柳くんを追いかけない。
そうして俺たちは、互いの中に残った最後の言葉さえ伝えられないまま、別々の道を歩いていく。
雨が止んだあとも。
俺の中だけに、あの日の雨は残り続けた。
『ずっといっしょに居たかったなぁ』
END
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そうだったでしょうか
二人とも言いたいことを言えないまま
まだ一緒に居たい気持ちを抱えたままのENDでした
コメント
3件
すっごい物語の作り方上手だぁ✨️
読了しました。……もう、胸がぎゅっとなりました。お互いに「言わなかったこと」「確かめなかったこと」が積み重なって、気づいたら戻れないところまで来てしまう——その切なさが、雨のイメージと重なってすごく沁みました。特に「連絡先を消した」場面、消すことで終わらせたのに、記憶は消えないっていうのが悲痛で。最後の「ずっといっしょに居たかったなぁ」が、やりきれないほどに響きました。素敵なお話をありがとうございます。