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「あー涼しー」
冷房がかかった涼しい部屋で、私_リオはポツリと呟いた。
水色がかった髪がそよそよと揺れる。
「それで、どうしたの急に呼び出して」
向かい側に座っている少女_レイがスマホ片手に尋ねる。
黒髪で肌は色白。髪は結っている。
そして、レイは寺生まれの妹だ。よく幽霊とやらを見かけるらしい。
ちなみに、兄の名前はアキラ。レイと同じ寺生まれで、シスコンだ。
「いやー確かレイちゃん車の免許持ってるよね?」
「……うん」
「良かったら…なんだけど。海辺をドライブとか…」
「却下」
「なぜだ!!」
リオは不服そうに机を軽く叩いた。
レイは相変わらずスマホを見ている。こいつ話を聞く気はあるのか。
「だいたい、なんでこんな暑い日にドライブなんて行かないといけないのさ」
「シノ」
「……はぁ」
レイはスマホからやっと目を話し、露骨に顔を歪めた。
シノ。こわい話や幽霊等が大好きな女子。よくアキラやレイにこわい話を聞きにいっている。
白髪で髪型はいつもハーフアップサイドテール。
性格はなんていうかすごいめんどくさいやつだ。
「うーんそうだな」
レイはスマホを置き、考えるように顎に手を当てた。
リオはドキドキしながらレイを見つめた。
もし断られたら、全部私のせいにされて心霊スポットに無理やり連れて行かれかねな
い。
「あ、あと海とかでも遊べるって!ね?」
レイは一呼吸置いたあとほんの少しだけにこっと笑った。
「…ありかもね」
「よっし!待ってね、シノにOKが出たって連絡するから」
「じゃー準備はしとくよ」
そう言ってレイは立ち上がった。
「お、レイちゃーんリオーこっちー!」
いつものハーフアップサイドテールの少女、シノが大きく手をふる。
肩にはハンドバッグ。背中にはリュックを背負っている。水着などが入っているのだろう。
「ほう、アキラはおらんの?」
シノは少し不満気に言った。多分、山や海に関する話を聞くつもりだったのだろう。レイに聞こうにも、レイはあまり怖い話は知らないのだ。
「あぁ、あいつは2日間オールでゲームしてたから、今は死んだように眠ってる」
「なーんでだよー!!頭おかしいんじゃないの!怖い話きけなくなったじゃんんん!」
シノが叫ぶ。よほど怖い話が聞きたかったのか、しばらくはアキラの悪口を言っていた。
「じゃあそろそろ行く?」
シノがちらりと時計を見て問いかける。
「そうだね、そろそろ行こうか!早く海で遊びたいっ!」
さっきの不満はどこえやら。シノは嬉しそうにスキップしながら、レイの車に向かう。
その後をレイと私が追いかけた。
1時間後。
山道を抜け、しばらく走ると海についた。遊泳は可能らしい。
車を駐車場に止めると、シノが真っ先に車から飛び出した。
その後からリオとレイも車から降りた。
「うおー!海だー!!!」
シノがはしゃいだ様子で言った。
リオとレイも海を見て「おぉ」と声が漏れる。
それから、リオ達はビーチボールをしたり、砂の城を作ったり、アイスを食べたり。結局泳がなかったが、楽しい数時間を過ごした。
午後6時15分 夕方。
「そろそろ暗くなってきたし、帰ろうか」
レイが夕日を見ながら言った。
「そうだねー」とシノも賛同する。リオも頷いた。
荷物をまとめて、レイの車に乗り込む。
レイが運転席に乗り、リオが助手席に、そして、シノが後部座席に乗った。
「レイちゃんなんかごめん。行きも帰りも運転させちゃって」
シノが申し訳無さそうにレイを見る。
「大丈夫だよ。私そこまで疲れてないし」
「ありがとねー」
リオがパタパタ手で顔を仰ぎながらレイにお礼を言った。
そうして、車は発進した。
三十分後
(……あれ?)
しばらく山中を走っていると、急にエンジンが止まった。
何度かエンジンをかけてみようと試みるが、一向にかからない。
アキラに迎えに来てもらおうかと思ったが、ここは山奥。当然携帯は繋がらない。
「……ねぇ、シノ、リオ」
途方に暮れたレイは、シノとリオに話しかけた。が、どうやら二人は眠ってしまったらしい。途中で話し声が聞こえなくなったので、なんとなくわかっていたが。
「起きて。リオ、シ…」
リオとシノを起こそうと声をかけた時。
といった声が、前方から聞こえてくる。
…嫌な予感がする。
レイの嫌な予感は大抵当たる。窓の外は見ないほうがいいだろう。
だが、やはり好奇心には勝てない。恐る恐る窓を見る。
窓の外の光景に目を疑った。白いのっぺりした何かが、手をめちゃくちゃに動かしながらこちらに向かってきていたのだ。
頭はなく、一本足。ケンケンをしながら両手をめちゃくちゃにして身体全体をぶれさせながらこちらに向かってくる。
レイはいくらか霊を見てきた。が、このような霊、もしくは妖怪を見たのは初めてのことだった。
叫び声はあげなかった。奴に気づかれたら何をされるかわからないから。いや、もう気づかれているのかもしれない。
そんなことを考えている間に、奴は着実に車に近づいてきていた。
だが、何をすることもなく、奴は車の脇を通り過ぎていった。通り過ぎる間も、「テン…ソウ…メツ…」という音が聞こえていた。
「……よかった。通り過ぎてった」
安堵してため息をつく。
「テン…ソウ…メツ…」という音がだんだん遠ざかっていく。
レイは後ろを振り向いてみた。奴がもういなくなったことをこの目で確かめたかったからだ。
_いない。
後部座席にはシノが座って寝ている。
だが、まだ嫌な予感がする。
恐る恐る、助手席の窓を覗いてみる。
「…………っ!!」
_いる。
頭がないと思っていたが、胸のあたりに顔がついていた。恐ろしい顔でニタニタと笑っている。
(なんだコイツ…とりあえず、追い払わないと。)
「おいっ!」
レイは力いっぱい叫んだ。そのとたん、奴はふっと消えた。
「んー…レイちゃんどしたの…」
シノが目を覚ます。さっきの大声で起きたのだろう。まだ眠たいのか、まぶたをごしごしとこすっている。
助手席から物音がする。リオを起きたのだろうか。
レイは安心してリオに声をかけた。
「リオ、大丈夫__」
「はいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれたはいれた」
「なっ!」
「え、な、何?リオ!?」
(……もしかして…)
「取り憑かれたか…」
レイはチッと舌打ちをし、ダメ元でエンジンをかけてみた。
さっきとはちがいエンジンはかかった。急いで来た道を戻る。
その間も、リオはブツブツとつぶやいていた。
「ね、ねぇ、どこにいくの?リオは!?」
「うちの寺。多分、祓ってくれると思う。」
ようやく街の明かりが見えだした。
いつのまにか、リオのつぶやきが「はいれたはいれた」から「テン…ソウ…メツ」になっている。
ヤバい。ヤバいヤバい。これは本格的にヤバい。
しばらく車を走らせ、寺につく。
レイは急いで車を止め、シノと一緒にリオを引きずり出す。
寺の隣__寺の住職、弥生という人が住んでいる家のチャイムをならす。
「……はい?あぁレイさんですか。どうしたんですか___」
めんどくさそうにしていた顔が、リオを見た途端険しい顔に変わった。
「……何をしたんです」
「白いのっぺりした妖怪に、多分…取り憑かれた」
「そうですか………なんとかなる…かもしれません。中に。」
弥生が手招きする。
レイも険しい顔をして中に上がりこむ。シノはペコリと頭を下げて中に入った。
弥生に事情を聞くと、リオはヤマノケに憑かれたらしい。
49日間このままなら、もうリオはもとに戻ることはない___弥生さんはそう言っていた。
_____それから5日後。
弥生から連絡がかかってきた。
「はい」
「レイさんですか?リオさん。もとに戻りましたよ」
「え、本当ですか?」
「ええ。守護霊のおかげです。今すぐお迎えに。」
「は、はい!」と返事してレイは急いで車に飛び乗った。
「おー!完全復活じゃん!」
シノが「おー」とか「すごーい!」とか言いながら机の周りを駆け回る。
嬉しいのだろう。
「いやー正直何が起こったのか全くわかんないんだよね…」
リオは水の入ったコップを持って「はは」と笑った。
レイが苦笑いする。
もう山は懲り懲りだ。リオはそう思った。