第12話 憎悪
あらすじ
若井は少しづつ自分の欲望に、気が付き始める。
大森も湯ノ内の手によって、少しづつ身体が解かれていく。
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大森は 自分の口を、両手で強く塞いだ。
今度こそ、絶対に声を上げない。
大森は、自分の心に固く誓う。
そんな大森の様子に、湯ノ内が微かに笑った。
馬鹿にされた気がして、大森は顔を顰める。
声を上げたのは、驚いたからだ。
機微を感じ取って 身構えれば、どうって事は無い。
大森は 湯ノ内の指先を注意深く、観察した。
指先が、大森の胸元を漂う。
また あれをされるのかと、大森は心の準備をした。
しかし その指が、 ふいに背中の方へ周った。
大森は つい振り返って、その指先を追う。
その時 湯ノ内が、首に顔を寄せた。
大森は後ろを見ていたが、湯ノ内の息遣いで それを察した。
まずい、やられた
大森は、息を飲む。
その瞬間、湯ノ内の舌が首筋を舐めた。
「ん、う゛」
大森は吐息に混ざったような、喘ぎ声を上げてしまう。
また、声を抑えられなかった。
羞恥で、心が折れそうになる。
大森の心と頭は今までに無いほど、混乱していた。
おかしい
だって、俺は不感症なはずで
なのに、なんでこんな
湯ノ内が、じろりと大森を見る。
大森は、目を逸らした。
泣きそうな程に、悔しさが込み上げる。
こんな奴より、もっと愛情を知っている人の手を知っているのに
不意打ちを、狙ってくるようなやり方
大森はその汚さに、苛立った。
どうしても、認められない
こんなのは、快感じゃない
湯ノ内の手が頬に近づく。
しかし 大森はやはり、指先を警戒してしまう。
触れるか触れないかの近さで、手のひらが通り過ぎる。
微かに撫でられた頬が、くすぐったい。
大森は、その不快感をどうにか耐える。
すると 頬を通りすぎた指先が、今度は大森の耳を撫でた。
「ん゛」
肩が、勝手に跳ね上がる。
大森は反射的に湯ノ内を手を払った。
空間にパンッという乾いた音が響く。
湯ノ内も大森も一瞬、呆気にとられた。
少しの間の後に大森は、自分がやってしまった失態に気がついた。
「ぁ…」
大森は、小さく呟く
大森は振り返ると 助けを求めるように、若井と藤澤を見つめた。
藤澤は、それでも決して大森の方を見なかった。
若井とは、すぐに視線がぶつかる。
大森は 若井の顔を見つめながら、心を整えた。
その間も 若井が穴が空くほど、見つめてくる。
大森は、少し見すぎじゃないかと思ってきた。
藤澤も同じことを思ったのか、足先で若井の靴を踏んだ。
若井が、はっとすると画面に視線を戻した。
藤澤がフォローを入れる。
「若井、今日ハードな一日だったんだよね?」
暗に 若井の挙動不審は、疲れから来るものだと言いたいらしい。
もし、そうだったら若干ホラーだ。
大森は 藤澤の独特な誤魔化し方に、首を傾げる。
湯ノ内の囁き声が前からする。
「そうか、忘れていたが君は歌手だったね
聴覚が敏感なのか」
大森は 振り返ると、むっとした顔をする。
小声で言い返した。
「はい、僕は芸術家なんで」
湯ノ内が微かに笑うと、嬉しそうな声色で話す。
「まだ根に持ってたのかい?
私は、とっくに忘れていたよ」
大森は負けるかと、右側だけ口角を上げて囁く。
「へーそんな事言われたら、湯ノ内さんお年だし心配になっちゃう
昨日の晩ご飯、覚えてます?」
湯ノ内の手が、大森の頭を撫でる。
「やけに、好戦的じゃないか
君は音楽の話になると、性格が変わるね」
大森は、冷静さを欠いていると指摘されたような気がした。
唇を固く結ぶと、不服そうに湯ノ内を睨む。
対して湯ノ内は、大森を見下ろすように眺めると言う。
「耳が敏感なんだね」
大森の肩が強ばる。
わざわざ、もう一度確認しなくても
湯ノ内が優位性を示しているのが、分かる。
しかし実際、大森にとって耳はあまり触られなくない所だ。
大森は負けじと、合わせていた視線をそろりと外した。
湯ノ内は頷くと、頭を撫でる。
「いい子だ、大人しくしていなさい」
そう言うと 湯ノ内の指先が耳に、そっと触れる。
そして 耳の形をなぞるように、撫でた。
大森は強い不快感と、くすぐったさに身体を震わせた。
指が、敏感な場所を探るように動く。
大森の呼吸が少しづつ上がって行った。
耳の表面を撫でていた指先が、今度は耳の裏を するっと撫でる。
「…っ、」
大森は耐えられず、反射的に顔を振った。
湯ノ内は苦手な場所が分かったので、重点的に責める。
三本の指を使って、耳の裏を優しく刺激した。
大森はその刺激から逃げようと、顔を傾ける。
しかし 湯ノ内は、反対側の耳に口を寄せると耳を軽く噛んだ。
「くっ…」
大森が身体を、ぎゅっと縮める。
息をつく間も与えずに、耳の中に舌を入れ込んだ。
「ん゛ぁ…」
大森が甘い声を上げる。
混乱した大森は、湯ノ内の服を掴んで引っ張った。
湯ノ内の湿った舌が、耳の中を舐める。
ぴちゃぴちゃとした音が、頭に響く。
歌手として、 大切な部分を舐められる嫌悪感に包まれる。
頭がくらくらとした。
汚い、気持ち悪い
そのはずなのに何故か、快感がぞわぞわと広がった。
息を吸う声が少しづつ、甘くなっていく。
大森はどうにか、自制しようと口を抑える。
しかし 湯ノ内の指が、残った方の耳も刺激する。
さわさわと耳を撫でた後、中に入ってきた。
両方の耳を、指と舌で塞がれる。
聞こえる音は、自分の呼吸と湯ノ内が与える音だけになった。
自分の声がどれくらい出ているか、分からない。
急速に、恐怖心が膨らんでいった。
今の声、大丈夫?
息、荒かったらどうしよう
大森は極力、音を立てないように息を吸う。
しかしそれが息苦しくて、頭がぐわりと歪む。
大森は、耐えられなくなって湯ノ内の肩に顔を埋めた。
抱きつくように、湯ノ内の服を掴む。
湯ノ内は、その様子を横目で観察した。
小さく喘ぎながら 縋り付いてくる姿は湯ノ内の心を、少し満足させる。
しかし、至高には程遠い。
湯ノ内は、さらに大森を追い詰める必要があった。
その頃、若井はカメラや藤澤を見ながら話をしていた。
しかし、ふっと気がつくと目線が大森に向いている。
はっとして、また集中をする。
いつの間にか、そのサイクルから抜け出せなくなっていた。
特に、大森が耳を舐められて甘い声を上げた時。
若井はどうしても、目を離せなかった。
若井の方向からは大森の背中しか見えない。
それでも 大森が快感を、耐えているのが分かった。
湯ノ内から与えられる刺激に 翻弄される姿はとても新鮮で心が踊る。
どんな顔をしているんだろう。
若井は見えない分、余計に気になった。
藤澤が再び、若井の足を踏んだ。
若井は、はっとなるとカメラに目線を戻す。
本当に集中出来ない。
若井は苛立った。
配信よりも、元貴を見たいのに
心の中で強く そう思った時、自分でその考えに慄いた。
いや、落ち着け
俺は配信に集中しないと
若井は自分に言い聞かせる。
今は元貴を守るために、気持ちを固めないといけない。
こんな、ゆらゆらでは守れるものも守れない。
若井は、そっと息を吐くと冷静を保った。
同じ頃、 大森は湯ノ内の胸の中で 速い呼吸を繰り返していた。
自分の吐く息が熱い。
じわじわと、身体が興奮してきているのが分かる。
湯ノ内は、指を耳から離すと首筋を撫でた。
それだけで大森の身体が、飛び上がる。
感度が高くなっている証拠だ。
再度、胸の中の大森を観察した。
瞳は潤んでいて、頬は赤く染まっている。
身体の体温も上がって、少し汗ばんでいた。
耳以外にも、いくつか弱点を見つけておいた方がこちらが優位に立ちやすい。
それか今、弱点を作ってしまうのも一つの手だ。
湯ノ内が、大森の胸元に手を伸ばす。
大森が指先を瞳で追うと、するりと服の中に入っていく。
「…ぅ、」
大森は、胸を触られないように湯ノ内に身体を寄せた。
ぎゅっと、抱きつく。
湯ノ内が耳元で呟いた。
「可愛らしいおねだりも出来るじゃないか」
大森は湯ノ内を睨みつける。
ねだってなんかない
湯ノ内も理解して言っているんだろう。
大森は腹が立った。
余裕そうな顔しやがって
大森は もう一度、湯ノ内の肩に顔を埋めると肩をぐっと噛んだ。
甘噛みじゃない、血が滲むほどしっかり噛んだ。
湯ノ内が、痛そうに声をあげる。
「っ、」
湯ノ内が勢いよく、大森の髪を掴むと引っ張った 。
大森は呻き声を上げる。
「う、」
湯ノ内は大森の顔を覗き込む。
「まだ、躾が足りないか?
教え甲斐あって良いが、私にも限界はある」
大森の瞳が、ぎらりと光る。
嫌悪に塗れた顔で湯ノ内を見た。
そして、低く唸るように囁く。
「勘違いすんな
お前の犬になった事なんて一回もない」
大森が言い返すと、湯ノ内は恍惚とした表情になった。
大森は、理解できない反応に怒りが引いていく。
湯ノ内が頷くと言う。
「いいじゃないか
君が私の犬になった時、どんな声で鳴くのか楽しみにしてるよ」
大森は湯ノ内から、物理的に距離を空けた。
得体の知れなさが、恐ろしい。
何故か 湯ノ内は焚き付ければ焚き付ける程、楽しそうになる。
初めは、舐められているのだろうと思っていた。
しかし、そういう訳でもない気がする。
正直、扱い方が分からない。
大森が戸惑っていると、湯ノ内の手がお尻を撫でる。
大森は湯ノ内の顔を見れずに、俯いた。
湯ノ内が、耳元で囁く。
「確認するが、君のプライベートゾーンは性器だったね?」
大森は顔を上げると、頷く。
湯ノ内の口角が上がる。
何かを企んでいる気がする。
今度は湯ノ内を、じっと観察した。
すると、湯ノ内の手がスボンの中に入ってくる。
大森は急いで、その手を掴んで封じた。
小声で呟く。
「な…なんで?」
湯ノ内が口角を、にやりとあげる。
「アナルなら問題ないんだろ?」
大森の表情が固まる。
勢いよく、顔を振った。
「い、いや…無理」
湯ノ内の眉毛が上がる。
「君は本当に約束を守らないね
困った子だ、自分には甘いタイプかな? 」
大森は、その嫌味に煽られるほど余裕がなかった。
必死で、湯ノ内に言い寄る。
「違う…その、分かるでしょ
プライベートゾーンっていうのは」
湯ノ内が言葉を遮る。
「そうだ、人によるね
君の場合は性器のみなんだろう?」
大森は泣きそうになりながら、湯ノ内を見つめる。
そして、震える声で聞く。
「ほ、本気…?」
湯ノ内が、 冷笑的な薄笑いを浮かべる。
「仕方ないじゃないか
君は、私の犬にならないと息巻いている
それなら、まず心を折らないといけない」
大森の瞳がふらふらと、揺れ始める。
どうにか、打開の方法を探っている様子だ。
湯ノ内は ここで、ある取引を提示した。
「だが 君が、私の犬だと認めるのなら
プライベートゾーンはアナルだったという事にしてやってもいい
その代わり、性器は差し出して貰うがね」
大森は、歯を噛み締める。
犬になる上に、前側も触られる。
こいつの事だ。
“犬になります” なんて言ったらそれを皮切りに、尊厳までも奪いに来るだろう。
でも、後ろは触られなくない。
お腹が緩くなるとか、聞いた事がある。
それに、自分でも触った事がない場所に他人が触れるなんて
しかも、その相手が湯ノ内という悪魔。
無理だ、絶対めんどくさい
でも、犬になります なんて言いたくない。
そもそも自分は人間だ、犬じゃない
じゃあ、お尻を触らせるのか?
でも、こんな所に指を入れるなんて
頭、おかしいんじゃないか
いや、指だけで済まないかも知れない
大森は震えた。
駄目だ、それだけは駄目だ。
湯ノ内が口を開くと、猫なで声で囁く。
「私はどちらでも構わない
さぁ、どうする?」
そういうと、手の平を大森の前に広げる。
「お手が出来るかな?」
選択肢が他に無い事を、理解しているだろう。
瞳の奥に勝ち誇った様な色が見えた。
大森は悔しさを抑える為に、息を吐き出す。
決心を決めると、湯ノ内の手の平にそっと手を置いた。
湯ノ内が、大森を見下ろすと指示する。
「返事をしなさい」
大森は、つい小さく舌打ちをした。
湯ノ内が咎める様な顔で、大森を見る。
大森は 目を逸らすと、不満げな態度を隠さず気怠げに言う。
「あぁ…はい、じゃあ 犬に」
突然 湯ノ内が大森の口を、人差し指で覆う。
大森は驚いて、息を呑む。
すると 湯ノ内がまるで、子供に教えるようにゆっくりと話す。
「犬は、喋るかな?」
大森は意味が分からず、湯ノ内を見つめた。
どういう事だ?
返事をしろと言われたからしただけだ。
湯ノ内は、腕を組むと首を傾げる。
「分からないかな
犬には犬用の返事があるだろ?」
大森は、やっと理解した。
やっぱり、こいつはどこまでも腐ってる
爪が手のひらに食い込むほど、拳を握りしめた。
こうでもしないと、人生の第一欲求が湯ノ内を殴ることになりそうだ。
大森はそっと息を吐くと言う。
「…わ、ん」
湯ノ内は満足そうに口角を上げると頷く。
「 それは、はいという意味だ
君は何を言われても、そう返事をしなさい
そして、その通りに行動すること
いいね?」
なぜ 湯ノ内の発言は、これほど神経を逆撫でするのか
こいつの中に優しさは、少しもない
こんな、人間に屈したくない。
心は絶対に渡すもんか
大森は、憎悪を抱えながら誓う。
湯ノ内が歪んだ嘲笑を浮かべると、言う
「返事は?」
大森はつい、下唇を噛んだ。
絶対いつか、その澄まし顔を壊してやる
大森は、歯を食いしばりながら返事をした。
「…わん」
コメント
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うわー見るの遅くなりすぎたーっ!! 大森さん負けるなー!! 涼ちゃんも若井さんのことちゃんと見ててあげててホントすごい、、さすが最年長、!!
( ;∀;)遅れた😭 ぴりちゃ続きありがとう✨湯ノ内め、(-_-#)
うわー!!!きたー!!!すごいです。もうニヤけが止まらない...次も楽しみにしてます🥰