テラーノベル
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夜空に、ひときわ大きな花火が咲いた。
言った。言ってしまった。
(もう、戻れない)
花火の轟きも、周囲のざわめきも海の底の音みたいに遠い。
――目の前で、浴衣の袖をぎゅっと握りしめている彼女だけが、残酷なほど鮮明だった。
小森は、少しだけ目を見開いて――それから、ふっと息を吐いた。
(……あ、これ断られるやつ……終わった)
視線を逸らしかけた、その瞬間。
「……私のほうがずっと前から、好きでした」
「え……?」
「……中学のときから」
ドン、とまた一つ花火が弾ける。
その光に照らされた彼女の瞳が、まっすぐ俺を射抜いた。
「私、園芸部で、すみれを育ててたんです。やっと咲いた花壇だったのに……男子に踏まれそうになって」
「もうダメだって思ったら……王子谷さんが止めに入ってくれて」
(……あっ)
脳裏に、記憶がフラッシュバックする。湿った土の匂い。いじめっ子たちの顔。守りたかった、小さな紫の花。その後の――鈍い衝撃音。
「そのあと、ボコボコにされてましたけど」
小森が、懐かしそうに笑った。
「……保健室で手当てしたの、私なんですよ?」
「自分のほうが痛いはずなのに、『花、大丈夫?』って気にかけてくれて。……そのときから、ずっと好きでした」
「……」
なにか言おうとしたが、言葉が、喉に詰まって出てこない。
「外見は変わったけど……そういうところ、ずっと変わってないなって」
頭が、真っ白になる。
ずっと否定して、必死に隠してきた自分。
――あの頃の、“デブ谷”だった俺まで。小森だけが、ちゃんと見ていた。
(……なんだよ、それ……)
「王子谷さん、かっこいいから、私なんてダメだって思ってたけど……すごく、嬉しいですっ」
彼女の目は、ほんの少しだけ潤んでいた。
そのとき――柔らかな体温が、飛び込んできた。
(……っ!)
戸惑いながら、そっと腕を回す。
全部があたたかかった。
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俺のうるさい心拍音が、彼女にまで伝わってしまいそうで――しばらく動けなかった。
やがて、彼女がゆっくり顔を上げる。近すぎる距離。睫毛まではっきり見える。
目が合った。
──今度は逃げない。
ほんの少し、顔を近づける。触れた柔らかさは、一瞬だけなのに息が止まりそうで、心臓が爆発しそうだった。
(……無理)
夜風が熱くなった頬を撫でる。唇には、彼女がさっきまで食べていた「りんご飴」の甘さがいつまでも残っている気がした。
――それから季節が、巡った。
コメント
1件
いやー、ついに届いたね…!! 花火の夜空の下でお互い“ずっと前から好きでした”って、重ねてきた想いがどっちも一緒だったのが尊すぎてやばい。 しかも小森さん、中学の頃の“デブ谷”だった王子谷をちゃんと覚えてて、変わんないって言えるのが胸熱すぎ。りんご飴の甘さが残るラスト、こういう終わり方好きだわ。おめでとう!!