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#異世界転生
ひより
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夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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臣桜
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洗濯物を取り込もうと、ベランダの窓を開ける。
春風に乗って、桜の花びらが数枚、リビングに舞い込んできた。
「……もう満開か」
最近、時間の感覚がおかしい。一カ月の育休中、夜中に三時間おきに起こされて。ひよりさんと交代でミルクをあげて、抱っこして。やっと寝られる、と思った瞬間に、また泣き声が響く。
そんなのを繰り返しているうちに、一日が終わって、気づけば一週間が過ぎている。
ベビーベッドを覗くと、娘――ゆずの小さなお腹が、規則正しく上下していた。
(……大きくなったな)
生まれたばかりの頃は、触れるのも怖いくらい頼りなかったのに。
今は少しだけ、この生活に慣れてきた気がする。
(……来週から、本番環境(復職)か。今は「昼寝」という名のメンテナンスができるからいいけど、現場に戻ってやっていけるのか……)
ピンポーン、とチャイムが鳴った。
「はい」
玄関のドアを開ける。
「お邪魔します」
そこに立っていたのは、少し気恥ずかしそうな王子谷と――。
「はじめまして! 小森です!」
太陽みたいに明るい笑顔の女性だった。
「わー! 王子谷くんにこんな可愛い彼女さんができたなんて、もっと早く教えてよ〜!」
「これ、出産祝いっす」
王子谷が差し出した紙袋を受け取る。 中には、手触りのよいおくるみが入っていた。 小森さんと一緒に選んでくれたものらしい。
「ちょうど欲しかったの、嬉しい!」
その瞬間――
「ふぇ〜ん!」
リビングから泣き声が響いた。
「あ、ゆず……今ちょうど起きちゃったみたい」
ひよりさんが慌てて抱き上げる。
「ゆずちゃん。可愛いお名前ですね」
小森さんが覗き込む。
「お腹すいてるのかも。ちょっと授乳してくる!」
彼女が席を外した。ひよりさんに抱っこされながら戻ってきたゆずは、満足そうにしていた――はずだった。
「……あれ?」
ゆずは顔を赤くし、眉が寄っている。
「なんか……ぐずりそうな感じ?」
「じゃあ、僕が代わるよ」
手を差し出し、娘を抱き上げた。
――数秒後。
「ギャアアアン!!!」
「……っ、うわ」
盛大に泣き出した。
「さっきまで落ち着いてたのに!?」
(嘘だろ!? 僕の抱っこじゃ不満なのか!?)
優しく揺らし、声をかけるが、娘のボルテージは上がる一方だった。その時――
「……あの、もしよければ」
小森さんが、遠慮がちに声をかけてきた。
「授乳の後って、ゲップ出ないと苦しくて泣いちゃうこと、あるので……」
「えっ」
「少し、代わってもいいですか?」
「は、はい」
ゆずを預けると、小森さんは手際よく娘の顎を自分の肩に乗せ、背中を下から上へさすり上げた。
やさしくトン、トンと背中を叩く。
――けぷっ、と小さな音が響いた直後、娘はぴたりと泣き止んだ。
(マジか……。一瞬で攻略されるなんて……)
小森さんがゆずをベビーベッドに下ろすと、娘は隣にいた王子谷をロックオンした。
短い手足をバタバタさせ、必死に手を伸ばす。
「……可愛いっすね」
王子谷が手を差し出すと、娘はその指をぎゅっと掴んで、離さない。
そして、にこおっと今日一番の笑顔を見せた。
「ねえ陽一さん、見てこれ! 絶対にイケメンセンサー発動したでしょ!」
王子谷は、照れくさそうに指を握らせている。やがて、ゆずが顔をこすりはじめ、「スリープモード」の兆候を見せた。
「あ、眠いのかも」とひよりさんが言う。
「よければ、さっきのおくるみ、使ってもいいですか?」
彼女が小森さんに、おくるみを渡す。
「あ、でもタグ切らなきゃ。ハサミ……どこだっけ」
彼女が部屋を見回す。しかし、来客前に慌ててクローゼットや引き出しへ物を詰め込んだせいで、ハサミは迷子になっていた。
「……どうぞ」
すっと、王子谷が横から小さな裁縫セットのハサミを差し出した。
「えっ、すごい……なんでそんなの持ってるの?」
ひよりさんが呟いた。
「ああ、たまたま持ってただけなんで」
タグを切り終えると、小森さんは手際よく「おひな巻き」のように娘を包み込んだ。
そのままゆらゆらと抱きかかえ、そっとベッドへ下ろす――。
……静かだ。
「……背中スイッチ、入ってない……?」
僕たちが何度も失敗した「寝かしつけからの着地(ベッドへの移動)」を、彼女はいとも簡単にクリアした。
***
二人が帰った後、リビングは静かだった。ゆずはベビーベッドの中でぐっすり眠っている。
ソファでひよりさんと並んで座り、温かいノンカフェインコーヒーを飲む。
「今日は、色々教わっちゃった。やっぱりプロの看護師さんは全然違うよね」
彼女が笑った。
「僕は、あんなに泣かれて自信をなくしたよ……」
「大丈夫。まだ私たち、親になってちょっとしか経ってないもん。これから一緒に、プロになっていけばいいの」
彼女が、僕の肩にコトンと頭を乗せた。
「……あの二人を見てたら、付き合いたての頃の私たちを思い出して、ちょっと懐かしくなっちゃった」
窓の外では、風に揺られて、桜の花びらが舞い落ちている。僕は、彼女の肩をそっと引き寄せた。
コメント
1件
わあ、もう222話なんですね……。育休中のパパ目線、すごくリアルで胸がギュッとなりました。特に小森さんのゲップ出しシーン、一瞬で攻略される主人公の心境に「わかるわかる!」ってなりました(笑)。王子谷くんのさりげないハサミ差し出しも、彼の育ちの良さとか気遣いが滲んでいて好きです。最後の「一緒にプロになっていけばいい」って台詞が温かくて、窓から舞う桜の描写も相まって、すごく優しい気持ちになりました🌷