◻︎決心
ガチャガチャと音がして、玄関ドアが開いた。リビングでウトウトしていた私は時間を確かめる。もう1時をまわっていた。
「おかえりなさい、遅かったのね」
「仕事なんだから、仕方ないだろ」
相変わらず、苛立ちを隠さない言い方にゲンナリする。ネクタイを外しながら、冷蔵庫を開ける夫。この時間になったということは、タクシーを使ったのだろう。そこまでして、桃子といたいのだろうか?
パタパタと足音がした。
「お父さん!おかえりなさーい」
起きていたらしい絵麻が走ってきて、夫の背中に飛びついた。
「あっ!こらっ!やめろ!」
手にしていたビールをこぼし、咄嗟のことで慌てたのか絵麻を振り払う夫。絵麻は、ドスンと床に落ちた。
「痛ーい、お父さん、ひどいよ」
「あーもう、うるさいな、なんでこんな時間まで起きてるんだ?」
「宿題があるの、ね、お父さん、仕事……」
絵麻がそこまで言いかけた時、夫は私に向かって言った。
「宿題なんか、さっさとやらせて寝かせとけ!こっちは疲れてるんだ」
「え?そんな絵麻は…」
「ねぇ、お父さんったら!」
また背中にしがみつこうとした絵麻を、バン!と押した、いや、叩いた?
「!う、うわーん!」
「ちょっとあなた、絵麻になんてことを」
「なんだよ、お前の躾ができてないからだろ?あー、もうこんな家はイヤだ。俺は一人になりたい」
我が耳を疑うセリフを吐いた夫。泣き叫ぶ絵麻を抱きしめながら、決めた。
___こんなヤツ、捨ててやる!
私ばかりか娘を傷つけた夫を、私は許さない。こんな夫にした、桃子という女も許さない!どうやって、捨てようか?
“そんなくだらない男のために、自分の人生を破滅させちゃダメでしょ?だから刃物は持たなかったのよ”
離婚したばかりのころの、奈緒が言っていたことを思い出した。感情的になったら、負けのような気がする。だから私は、できるだけ冷静に“夫を捨てる”ことにした。
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