自分の呼吸音が聞こえる。
病室の外がやけに騒がしい。
……なんて話そう…
価値のなくなった俺に取り柄なんてないし…
____だけど兄ちゃんは泣いてた。
俺の為に泣いてくれたのかな___
そうなのかな。嬉しいな。
そんなことを考えていると、兄ちゃんが口を開いた。
「…凛」
ドキッとした。
また「いらない」って言われたら……
死んでしまおう。
兄ちゃんから発せられる次の言葉に覚悟を決めた。
俺は下を向き、目をぐっと閉じた。
「こっち向いて」
その言葉に従い、顔をあげる。
「…兄ちゃん…?」
……近い。
とにかく近かった…
今すぐキスをされてしまうのではと勘違いしてしまうくらい、すぐ目の前に兄ちゃんの顔があった。
兄ちゃんの目の周りはまだ少し赤い。
「な、に…。どうしたの?」
互いの息がかかる。
戸惑った状態のまま俺がそう聞くと、兄ちゃんは軽くため息をついた。
「凛…なんで。」
「なんで死のうなんて思ったんだよ…」
_____なんだ、
そのことか。
「…兄ちゃんには関係ないから…!」
どうしよう…俺きっと笑えてない、
可愛くない………
「関係ないとか言うな…」
…え
「お前が倒れてたって聞いてどんだけ心配したと思ってんだよ!」
声が大きくなる。
だけど…心配してくれたの?
うれしい。嬉しい。
「答えろ…なんで死のうと思ったんだよ」
兄ちゃんのターコイズブルーの瞳が真っ黒な俺の目をずうっと覗き込む。
…眩しすぎる。
だから俺は目を逸らした。
___もし、見てもらいたかったからだよ …って、伝えたら嫌われるかな。
それは嫌だな。
まだ「ピッ…ピッ…」という音が繰り返し鳴っている。
「……俺…なにもできないしぃ、生きてる意味わかんないしぃ…」
その声は、今にも消えてしまいそうな、弱々しい声だった。
「…俺が自分のこと嫌いだから殺したいし!」
「そしたらわかんなくなって…、薬ー沢山飲んだら楽になってー…」
今言ってる ことは強ち間違ってはいない。
実際、そんなことは毎日思っている。
「血…沢山出したら死ねないかなって思ったから沢山傷つけて…」
息が苦しい。顔が熱い。
何言ってんだ…俺。
こんな俺を兄ちゃんが好きな訳ない。
…それでも、今ならわかってくれるかな。とか期待している自分がどこかにいた。
「ごめんッ…ごめん…」
「こんな話聞きたくないよねッ!」
兄ちゃんは呆然としていた。
それはそうか。
「もっと聞かせて。」
……………え
「辛いこと…話して。溜め込まないで」
「俺に半分分けて欲しい」
兄ちゃんの言ってる意味がわからない。
兄ちゃんにとって俺は要らない弟だよ?欠陥品なんだよ…?
「…なんでよ…」
「俺…要らないんじゃないの。」
「兄ちゃんが俺の人生にお前はいらないっていったんじゃん…」
「いやそれはッ!!」
俺の声を遮るように兄ちゃんは続けた。
「ごめん…。 日本サッカーが…凛の才能を潰すから…勝手に苛立って、傷つけた。」
「切り離してごめん。凛が成長するためだった。」
………信じたくない。
「その言葉が…凛にそこまで辛い思いさせてたって…知らなかった」
「凛」
…謝んないで。
「好きだよ」
その瞬間。鼻が痛くなった。
顔が熱い。
目から溢れた涙が、不意にも布団の上に落ちていく。
涙が落ちた場所は、すこし紫色になっていった。
…のと同時に、どこからか怒りが込み上げてきた。
「…っバカッ…ヒウッ…」
「兄ちゃんに見て”もら”い”た”く“て”ッ!グゥッ」
「おれ”ッ…頑張ったのにぃッ!」
涙がさらに出る。
「スキ”って嘘じゃないのっ?…ぅグっ」
「ッそんなことな____」
「嘘つきぃッ!」
「じゃぁな”んでお”れのこと全く見てくれ”ない”の”ッ…」
ここまで積み重ねてきたものがすべて 消えた。
「は、落ち着けよ凛。俺は凛のこといつも____」
「嘘じゃん”…」
声が掠れている。
「俺なんかより潔のこと選んだんじゃん”!どうせ俺なんかいらないから_________」
「ぇあ」
唇にふにっとした何かが触れた。
コメント
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泣ける…👊😭✨