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「え、テオドール様は、一緒に来て下さらないんですか⁈」
更にひと月が経った。その間ヴィオラはテオドールがやはり何処からか連れてきた先生から、様々な事を学んだ。立ち振る舞い、ダンス、礼儀作法などだ。それらを、ひと通り終えたのが数日前だった。
そして、いよいよ明日ヴィオラは王都へ戻る予定だ。だが、レナードからはまだ何も連絡はなく、正直な所この状態でレナードの元へ行くのは気が引ける。
もしかしたら、本当に自分は用済みでレナードを訪ねた所で叩き出される可能性もある……。だが、テオドールに手伝って貰い今日まで必死に頑張ってきた。ここで引き下がれば、テオドールの思いを無下にする事になる。それだけはしたくないと、ヴィオラは思った。
「名残惜しいけど、君とは今日でお別れだよ。僕もそろそろ帰らないと行けないから……予定よりも、長くこの町に滞在し過ぎちゃったからね」
ヴィオラはテオドールの言葉に、見るからに寂しそうな顔をする。
「君は君のやるべき事があるだろう。王太子殿下の元へ行って、婚約者の座を取り戻すんだろう?」
ヴィオラがレナードに会いたいと言ったあの時、テオドールはこう話した。
『王太子には、既に婚約者がいるけどそれでも会いたいの?』
ヴィオラは一瞬躊躇うが、静かに頷いた。
『そう。なら、先ずは歩く訓練をしてみない?』
ヴィオラは不思議そうな顔をする。
『わざわざ会いに行くって事は、王太子の婚約者の座を取り戻したいんでしょう?それなら、やはり歩けた方がいい……後は立ち振る舞いや礼儀作法も必要だよ』
ヴィオラは暫く悩む素振りを見せたが、やはり頷いた。
「……はい」
何故ここで落ち込むのか……テオドールは意外そうに眉を上げる。
テオドールは、ヴィオラと一緒に過ごす間にどうにかしてヴィオラを自分に振り向かせようと必死になった。
『ヴィオラの為に選んだんだ。』
いつも、彼女は同じ髪飾りを身に付けていた。話を聞けば、あの王太子から贈られた物だという。だから、対抗心からか、自分も髪飾りをヴィオラへ贈った。
ヴィオラは、丁寧に礼を述べて受け取ってくれた。だか、テオドールからの髪飾りをつけてくれる事はとうとう無かった。
これだけで、諦める程テオドールは情けなくない。この後も方法を変えては、様々なアプローチを続けた。だがどれも効果はないように思えた。それでも諦めない、と奮起するも……テオドールは、ふと気付いてしまった。
これら全てが、自分のエゴなのだと。ヴィオラにとって幸せはなんなのか。それはやはり、ヴィオラが本当に想う相手と生きる事だろう。
王太子と離れ精神的に弱っているヴィオラの心に漬け込み、無理やり気持ちを振り向かせた所で、きっとヴィオラは後から後悔する。彼女は幸せにはなれない……。幸せだと思うのは、自分だけだ。
テオドールは、ヴィオラが、悩み悲しむ姿など見たくないし、望んでなどいない。
本当は中途半端にヴィオラの事を放り出す様で、忍び無く感じてはいる。だが、一緒に王都へ出向き、ヴィオラがあの王太子と幸せそうにする姿など見るに堪えられない。
だから、これでいいだと、テオドールは自分に言い聞かせた。
「さようなら、ヴィオラ。必ず、幸せになるんだよ」
翌る日、ヴィオラは王都へ向け出発し、テオドールが来る事は無かった。
そうして、ヴィオラとテオドールは別れを告げた。