あるところに、冷菓(ひょうか)という少女がいました。雪のように白い肌を持ちながら、その心は長く凍りついていました。
「……また一人だ」 冷菓は窓の外を見つめ、小さくつぶやきます。家の外の世界を知ることはほとんどなく、温かい言葉も優しい眼差しも知らないまま育ったのです。
ある日、理由も告げられず、彼女は家から放り出されました。冷たい夜の街に一人立たされ、助けを求めることもできません。
「どうして……こんな……」 震える声をあげる冷菓。周囲は暗く、人の気配もありません。
意識が遠のき、次に目を開けると、そこは柔らかな光に包まれた不思議な空間でした。
「よく来たな、冷菓」 声が響き、目の前には温和な笑みを浮かべた存在がいました。
「……神様?」 「そうだ。君には、この世界の調和を守る使命がある」 「調和を……守る、ですか?」
神は、冷菓にこの世界を救うための特別な力を授けました。人の感情が色として見える力です。喜びは温かいオレンジ、悲しみは雨のような青、悪意や憎しみはどろりと濁った黒――目に映る感情の色が、すべて彼女に見えるようになるのです。
「私に……できるでしょうか?」 神は微笑みながら頷きました。「まずは観察し、理解することから始めるのだ」
意識が再び暗転し、冷菓は米花町、阿笠博士の家の前に立っていました。街には事件が絶えず、人々の黒い感情が渦巻いています。
「……この色……全部、人の悪意?」 吐き気を覚えつつも、冷菓は街を歩き始めました。
やがて、少年探偵団に出会います。
「君は……?」 コナンの問いに、冷菓は少し戸惑いながら答えます。 「冷菓です。ここに来たばかりで……」
しかし、未来の事件や組織の名前が、つい口をついて出てしまうこともありました。
「どうしてそんなことを知っているんだ?」 コナンは目を見開きます。
「そ、それは……」 冷菓は言葉を濁そうとしますが、慣れない嘘に混乱し、支離滅裂ながらも神から授かった使命と能力のことを話してしまいました。
「……なるほど。君は嘘をついていないんだな」 コナンは静かに頷きました。
「それなら、もっとみんなと仲良くなって、この街の悪い感情をなくしていこう!」 探偵団の子供たちの言葉に、冷菓の胸は温かさで満たされました。
少しずつ、冷菓は心を開きます。事件を解き、仲間と遊び、人を助ける喜びを知るようになりました。感情の色を見る力を使い、人々の悲しみや苦しみに寄り添うことも覚えていきます。
ある日、黒の組織の存在を知ります。
「こんな悪意……絶対に許せない」 神から授かった知識と、コナンの推理力、仲間たちの協力を駆使し、冷菓は組織壊滅に向けて動き出します。
幾度もの危険な状況を乗り越え、黒の組織は次第に追い詰められていきました。
――すべてが終わった後、冷菓は神の前に立ちます。
「よくやったな」 「……はい」
「褒美として願いを叶えてやろう」 「いえ、このままでいいんです。皆さんと過ごした日々が、何より大切な宝物です」
神は微笑み、純白の毛並みに虹色の瞳を持つぬいぐるみを差し出しました。「これは、悪意を浄化する力を持つ。君を支えるだろう」
「……ありがとう」 冷菓はぬいぐるみを抱きしめます。優しい光が、彼女の過去の傷を癒し、未来への希望を灯しました。
その後、冷菓は米花町で仲間たちと共に穏やかな日々を送ります。ぬいぐるみはいつも傍らにあり、街に残る悪意を静かに浄化し続けました。かつて凍りついていた心は温かさを取り戻し、人とのつながりの中で、冷菓はかけがえのない幸せを見つけたのです。そしてその幸せを、ぬいぐるみと共に生涯大切に抱きしめました。
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