TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
シェアするシェアする
報告する

「勿論、育てて貰った恩もあるので政略結婚も仕方の無い事だと、初めは受け入れてました。けど……私の相手となる方は義父以上に利益優先な人間で、私を妻に迎えたら……お仕事の利益を得る為に……接待には必ず同行して……男の方の相手をするようにと、言われました。私はそんな風に使われるのが嫌で……家出を決意したんです」

そして更に、詩歌の結婚相手となる男は彼女の美しい容姿に目をつけ、接待で必ず契約を結べるよう相手の要求に何でも答えさせようとしていたのだ。

「それは、逃げたくもなるね」

そんな詩歌の話を聞いた郁斗は心底同情する。

「ただ、私が逃げようとしている事に勘づいたのか、最近では使用人たちをも使って私を監視していて、一人で家を出る事すら許されない生活が続きました。だけど昨日の夜、義父の会社でトラブルがあったようで慌ただしく会社へ出掛けていき、たまたま使用人数人が夜に家を空けていた事もあって監視が手薄だったんです……」

「それで急いで家を出て東京行きの新幹線に乗ったんだ?」

「はい。それなので大した荷物もお金も、持っては来れなかったんです……」

詩歌はひと通りの経緯を話終えると、そのまま黙り込んでしまう。

そんな彼女を尻目に郁斗は煙草を箱から取り出し口に咥えて火を点けると、ゆっくり煙を吸い込んでから、ふぅーっと煙を吐き出した。

それを何度か繰り返した後、

「それで、詩歌ちゃんはこれからどうするつもりなの?」

依然として黙ったままの彼女に、そう問い掛けた。

「……出来ればこのまま東京で生活をしていきたいって思っています」

「うーん、まあ家に戻りたく無い気持ちは分かるけど、どうやって生活していくつもりなの?」

「……その、どこかで働き口を見つけて……」

「詩歌ちゃんはいくつなの?」

「十九です」

「これまで働いた経験は?」

「……恥ずかしながら、ありません。だけど、何でもやるつもりです」

「そうは言うけど、住む所だって決めなきゃならないでしょ? 厳しい事を言うようだけど、色々と難しいんじゃないかな?」

郁斗の言う事は最もだし、それは詩歌も重々承知している。けれど、彼女の中で京都の実家へ戻るという選択肢は存在しないので、何としてでも東京で生活の基盤を築きたいのだ。

「それにさ、キミの義理の父親や婚約者がこのまま黙って見過ごす訳も無いと思うよ? それなりに財力があるなら、探偵なりを雇って必ず詩歌ちゃんを探し出すと思う。その辺の対策とか、考えてる?」

「…………いえ、そこまでは……。やっぱり私、考えが甘過ぎますよね……」

郁斗に問われ、自身の考えの甘さに気付かされた詩歌は項垂れ、再び俯いてしまう。

そんな彼女を前にした郁斗は暫し何かを考えた後、項垂れたままの詩歌にある提案を投げ掛けた。

「まぁ、どんな仕事でも良いって言うなら、寮完備の仕事を紹介する……けど、これには相当の覚悟が必要になるよ」

郁斗の唐突な提案に詩歌は顔を上げると、戸惑いの色を浮かべながら彼に問い返す。

「紹介して貰える仕事っていうのは、どう言った内容のものでしょうか?」

「……まあ、簡単に言うと接客業だよ。但し、普通とはちょーっと違うけど。そうだね、婚約者がキミにやらせたかった事に近いかもね」

「……それは、その……どんな要求にも、応えなければならないような?」

「そういう事」

「…………」

「無理でしょ? けど、住む場所も確保出来て足もつかなくて働ける所なんて、そういうとこしか無いと思うよ?」

現実を突き付けられた詩歌に最早選択の余地は無く、郁斗の言う仕事を紹介してもらうか家に戻るかの二択になってしまう。

だけど、どうしても選ぶ事の出来ない詩歌はふと、ある事を思いつくと駄目元で、

「郁斗さん、お願いします。私を匿って貰えませんか? ここへ置いてくれるなら、何でもしますから……どうか、お願いします」

彼に自分をここへ置いて欲しいと頼み込んだのだ。

優しい彼の裏の顔は、、、。

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

7

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚