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なんでデイビットさんはいちいち言う事がその、こっちが聞いていても照れてしまうような言い方なんだろう。
私が男性という人物を知らないだけなのかな?
一人首を捻っていたら、庭を通り過ぎ、門の前に差しかかった時、ぐるんと振り返って来た。
「そんなに警戒して距離を取らないでください」
2、3メートル後ろを歩いていただけなのに、泣きそうな顔で私を見る。
そんなつもりは無かったので、すぐに一メートルぐらい近づくと、悲痛な眼差しで首を振った。
「違います。此処まで来て下さい」
指で指示した場所は、――デイビットさんの隣。
「や、そんな、近くまでは、ちょっと」
「遠慮がちなのは日本人の悪い癖です」
――遠慮なんてしていません。
そう言えたら良かったのに。デイビットさんが泣きだすのではという寂しげな表情をするので、困ってしまう。
おずおずと近づくと、嬉しそうなニコニコ顔で私を見た。
整った、絵本から飛び出て来たような王子様スマイルに顔が熱くなってしまう。
「あの、では此処で」
門を開けた瞬間に深々とお辞儀すると、デイビットさんが「もう少し」と首を傾げて強請って来た。
「だめ?」
「だ、めと言うか、その」
「駄目じゃないなら、『良いよ』か『はい』って言って欲しいです。私には、日本の女性の心を感じ取るのは難しい」
そんなに流暢な日本語を操っていながら、こんな時だけ外国人を装うなんてズルイと思う。
「じゃあ、『いいえ』です。私、私なんて、招待されるほどちゃんとした大人じゃないし、出来ればイベントも『いいえ』したいです」
私の方が、母国語なのに自分の気持ちを表すのが下手くそで、何だか日本語まで変で。恥ずかしいし、デイビットさんは綺麗な顔だし、ますます顔が上げられない。
「日本人は『いいえ』を言うのは苦手なのに、美麗さんはきちんと言えて素晴らしいです。でもそれも私は『いいえ』します」
「え」
今、認めてくれたんじゃなかったの?
いいえのいいえ?
「なぜ、イベントに来るのが恥ずかしいんですか?」
あ、イベントに行きたくないってことを『駄目』なんだ。
多分、デイビットさんの納得いく理由をはっきり言わなくちゃ、行かないは駄目ってことか。
「あの、もう跡取りでもないし、鹿取家代表としては行けないし。わ、私」
袴を握りながら、居たたまれない、居心地の悪い気持ちが、じわじわと心を蝕んでいく。
心まで私は地味で可愛くなくて。自分でも本当に嫌になる。
「着ていく服もない、です。着物で注目されるの、好きじゃなくて」
妹のピアノの発表会でも妹は水色のスカートがふわりとした可愛いドレスだったのに、私は着物だったし。どこかに出かける時はいつも着物ばかりで、洋服なんてあまり持ってないし。
「分かりました。私に任せてください」
デイビットさんはその長身で跪くと私の俯いた顔を覗きこんだ。
碧い目に覗かれると、どうしていいのか分からない、熱い鼓動が胸を震わす。
宝石みたいで、綺麗すぎて私には怖い。
「デイビットさん、あ、まり見ないでください」
「何で? やっと涙も止まったのに。今度は貴方の笑顔も貰いますから」
自信満々にそう笑うと、私の髪に頬を擦り寄せてから立ち上がる。
「二日後に、また来ます。いつ来るかは言いません。――言わなかったら貴方は私がいつ来るかと、頭の中で私を思い浮かべますからね。言いません」
その言葉は、酷く私の胸を揺さぶった。
あの甘い笑顔が苦手。直視できない。
俯いてしまうけど、デイビットさんが車に乗り込むまでは意地でも門から動かなかった。
知らない。
今まで経験した事も、見たこともない。
一瞬、お姫様にでもなってしまったかのように。
デイビットさんの言葉は、私の気持ちを簡単に弄ぶ。
意地でも、これ以上からかわれたくなくて。
――デイビットさんの白い車が消えるまでずっと目を離さなかった。
離さなかったのではなく離せなかったのかもしれない。
不幸のどん底に落とされた私の心に、桜の花弁が一枚、舞い降りた。
その花弁が涙を吸い込んでくれたので、私は今、こうして涙で溺れずに済んだはずだ。
二日後。
二日間だけ。
私の魔法はまだ溶けない。
扇の賭けの意味を知るのは、魔法にかかった二日後の夜だけど。
#恋愛
篠原愛紀