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異星人対策室のジョン=ケラーだ。軌道上のプラネット号による某国ミサイル破壊事件から日本時間で三日が経過した。カレンの連絡によれば、ティナ達は用意された旅館で待機しており穏やかに過ごしているようだ。
ただ今回の事件にティナは相当なショックを受けたようで、フェルやカレンがメンタルケアを行っている最中らしい。塞ぎ込んだりはしていないようだが、ちょっと元気がないそうだ。
今回の件は完全に地球側の落ち度なのだが、攻撃してしまったことを悔やんでいると。
君は本当に優しい娘だよ、ティナ。
死者が出る程の報復をされても我々は文句を言えない立場だ。某国の暴発を防げなかったのだからな。
もちろん暴発の引き金を弾いたのはティリス殿の動画だろうが、我々が迅速に対応していればあの騒ぎも起きなかっただろう。外交部を中心にいつもの事として対応が手緩かったと問題提起が行われている。そして各国が連携して某国へ毅然とした対応を行う方向で調整中だ。
また各国では有識者会議を開き、今回の件で法的な問題がないか議論が進められているが。
「今現在の途中経過になるが構わないかな?ケラー室長」
「はい、大統領閣下」
「有識者会議ではこの件でアード方を、もっと言えばティナ嬢を責めることは出来ないとされている。もちろん法的にもね」
「それは何よりでした」
「そもそも、ルールとは常に強者が作るものだよ。我々の作ったルールに、遥かに強者であるアード側が従う道理はない。ティナ嬢の好意的な態度で勘違いをしている輩が少なからず居るのは悩ましいことだがね」
ハリソン大統領も頭を抱えている。ここで某国が正式に謝罪をしてくれたら事態は楽なのだが。
「我々が打ち上げた人工衛星を破壊するなどの蛮行が許される筈もない。アード側には速やかな謝罪と賠償を要求する」
これがかの国が最初に出した声明だ。私も耳を疑ったよ。
事態の更なる悪化を予想してしまったが。
「大丈夫よ、兄さん。彼ら、梯子を外されたから」
「梯子を?」
メリルの意味深な言葉を首をかしげたものだな、直ぐに意味を理解することが出来た。
「ティナ嬢を初めとしたアードの方々は地球の大切な客人である。その滞在地へ誤解を招くような行動を行ったことに深い疑念を懐かずには要られない。各国と連携を密にし、アジアの秩序回復と再発防止のため強く抗議するものである」
事件の翌日に後ろ楯である中華が出した声明だ。他のアジア諸国を巻き込んだ盛大なネガティブキャンペーンには驚いたよ。
しかも然り気無く自分達のアピールも忘れないのが強かな中華らしいやり口だ。某国の背後に中華が居るのは誰の目にも明らかなのだが、追求する証拠もないと外交部の友人がぼやいていたな。
……しかし、こんな外交の情報をなぜわざわざ私に通達してくるのか分からない。異星人対策室の担当範囲が更に広がっているような気がする。権限の拡大は同時に責任の拡大だ。やることが更に増えるなら人員を増やしてほしいものだよ。
日本、国会議事堂。ミサイル撃破事件から一週間、当事国である日本では当初こそ大騒ぎとなっていたが時間の経過と共に日常へと戻りつつあった。
日本政府は某国のミサイル発射に対して痛烈な批判を行い、ティナ達の無罪を表明。地球全体の危機として、またミサイルを発射するような真似をすれば毅然たる対応を取ると日本海に艦隊を展開。合衆国もこれに同調して駐日艦隊を合同で展開させ圧力を加えた。
長年ミサイル発射に悩まされてきた日本国民は今回の件について概ね好意的であった。一部の勢力以外は。
「だから申し上げたのだ!武力を持ち込ませればこの様な事態になるのは目に見えていた!総理!これは彼女達を受け入れた総理の責任ですよ!」
「私は日本国首相として、議員が仰る責任から逃れるつもりはありません。今回の行動は私達にとっても予想外の事態ではありましたが、そもそも彼の国が引き起こした暴挙が引き金になったのは明白です」
「彼の国は衛星を打ち上げただけだと言っているではありませんか!それを破壊し、尚且つ発射基地を攻撃するなど国際問題に発展させてしまったのは明らかです!」
「もとより彼の国のミサイル問題は、長年我が国を悩ませてきました。今回の件で彼の国が事態の深刻さを真摯に受け止め、各国と足並みを揃えて事態へ対応することを切に願うものです」
「総理!貴女はティナさんと個人的に親しい関係であるのは明らかです!貴女が彼女に依頼して今回の件を引き起こしたのではありませんか!これは異星人の武力を利用した恐喝に他なりません!」
「あなた方は彼女が地球で何をしてきたのか、本当に正しく理解しているのですか!私に対する批判ならば甘んじて受け入れますが、彼女を、ティナちゃんの想いを踏みにじるような発言は許せませんっ!」
「その様な意図はありません!勝手な解釈をされては困る!」
「勝手な解釈ですか!?今の発言は明らかに彼女を侮辱したものです!」
最大野党共栄党党首と椎崎 美月首相が国会の場で激論を交わしていた。そもそも某国に対して好意的な彼らはこの事件を利用して政権への攻撃を強めていたが、民衆の賛同を得ている椎崎首相は一歩も譲らず真正面から受けて立っていた。
これらの議論はなぜか非公開となっており、あらゆる記録媒体も持ち込ませない徹底ぶりである。共栄党からの強い要望であり、政府関係者は「ティナさん達に内容を知られるのを恐れているのでは」「新鋭の論客を自称するだけあって抜け目無い」と皮肉った。
尚、渦中のど真ん中に居ティナ達はと言うと。
「あ”あ”~~~……これは駄目になる~~」
「ばっちゃんが溶けてる……」
最先端のマッサージチェアを満喫しているティリスをみて、ティナは何とも言えない気分になった。
「これ、気持ちいいですね」
「肩凝りが治るよ~……重いから肩が凝るんだよねぇ」
凶悪な胸部装甲を持つフェルとカレンも肩周りを一流の整体師からマッサージして貰い、蕩けた表情を浮かべていた。
「私達、遊んでて良いのかな?」
「構いませんとも。少なくともティナさん達の行いを批判する声はほとんどありません。ただ、セキュリティの問題から数日程度旅館で過ごしていただいているだけですよ」
ティナ達はのんびりと英気を養いつつ、旅館内で日本を満喫していた。