テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
「……今日、ノエルとハグしてたね」
部屋へ入った瞬間、
すいちゃんがそう口にした。
静かな声だった。
怒鳴っているわけでもない。
責め立てるような口調でもない。
なのに、ぺこらの肩がびくりと揺れる。
「え……な、なんの話?」
「今日の収録」
逃げ道を塞ぐみたいに、
すいちゃんは短く答えた。
「ずいぶん楽しそうだったね」
その言葉に、
ぺこらの喉が詰まる。
たしかに収録終わり、
テンションが上がって勢いのまま抱きついた。
深い意味なんてない。
ちょっとしたノリだった。
「ノエルは友達だし、ハ、ハグぐらいするよ」
「うん」
すいちゃんは否定しない。
ただ、
静かにぺこらを見ている。
その視線だけで、
心臓が落ち着かなくなる。
「まあ、ぺこちゃんはそう思ってるかもだけどさ、私はそうは思わないんだよね」
そういってすいちゃんは近付いてくる。
そんなすいちゃんが何故か怖くて、逃げる理由なんてないのに、
ぺこーらは無意識に一歩下がった。
「別に怒ってはないよ?うん、別に怒ってはないけどね?」
「っ……」
責められているわけじゃない。
声はむしろ穏やかだった。
だから余計に苦しい。
「す、すいちゃん怖い…よ?」
「そうさせてるのはぺこちゃんじゃん」
そう言って、
すいちゃんは小さく笑う。
その後、先程までの表情とは一変する
「私以外に簡単に触らせないでよ」
「ご、ごめん…」
「私さ、自分が気に入った物に手を出されるのが一番気に入らないんだよね」
「………」
「ぺこちゃんも考えてみてよ、私がぺこちゃん以外の女と抱き合ってたりしたら嫌でしょ?」
「そ、それは嫌かも」
「でしょ?嫌でしょ?それと同じで私もぺこちゃんが自分
以外の女に触られてたらほんとにイライラするんだよね」
「私、結構独占欲強いタイプだからさ」
「わ、分かったぺこ。次から気をつける「次からじゃダメなんだよ」
「っ、」
喋っている最中に口を挟まれる。
「こんな事が起きてる事自体あり得ないの」
「てかそもそもさ、私付き合う時に言わなかったっけ?他の女に浮気すんなって」
「…う、浮気じゃないって言ってるぺこ!」
ぺこーらはすいせいの手を振り払うように一歩下がる。
あまりの理不尽さに怖さよりも怒りが勝ったぺこーら。
「というかそんな事言うなら、すいちゃんだって他の人と絡んでるぺこじゃん。なのにぺこらだけダメとか可笑しくない?」
「おかしい、ねぇ…」
「そうぺこ!」
ぺこーらは半ば勢い任せに言葉を続ける。
「それでぺこらだけ責められるの理不尽すぎるぺこ!」
「ていうかだいたい、ちょっとハグしたくらいで嫉妬するとか子供っぽすぎるぺこ! そんなに自分に自信ないの?w」
そう少し揶揄うような口調で煽ると
次の瞬間。
部屋の空気が変わった。
「…………」
すいちゃんが笑っていない。
なのに口元だけが、ゆっくり弧を描いていた。
ぺこーらの喉がひくりと震える。
まずい。
本能がそう告げていた。
「ぺこちゃんさ」
静かな声。
けれど、逃げ道を塞ぐみたいな圧がある。
「最近ちょっと調子乗ってない?」
「っ……な、なにそれ」
「だってそうでしょ?」
すいちゃんはゆっくり近づいてくる。
一歩。
また一歩。
ぺこーらは後退ろうとするのに、なぜか足が動かなかった。
「私が優しくしてたら、“これくらい許される”って思った?」
「ち、違……」
「違わないよ」
即座に被せられる。
言葉が詰まる。
そしてすいちゃんはぺこーらの目前まで来ると、軽く顎を持ち上げた。
「…で、“自信ないの?”だっけ?」
「っ……」
「ねぇぺこちゃん」
すいちゃんが小さく笑う。
「私が本当に自信なかったら、こんな余裕でいられると思う?」
ぞく、と背筋が震える。
「確かに少しイラッとして余裕がないように見えたかもしれないけどさ?」
でも、と続けるすいちゃん。
「ぺこちゃんが誰と話そうが、誰に触られようが」
指先が頬をなぞる。
「どうせ最後には私のところに戻ってくるじゃん」
「っ……!」
「だから別に焦ってはないんだよ」
その言葉が、妙に刺さる。
否定したいのに。
「でもさ、それはそれとして」
すいちゃんの声が少し低くなる。
「調子乗った子には、ちゃんと分からせないとダメだよね」
「ぅ……」
「ハグくらい平気なんでしょ?」
くい、と顎を上げられる。
「じゃあ、今からぺこちゃんがどれだけ私に弱いか確認してみよっか?」
「っっ!!」
ぺこーらの肩がびくりと震える。
そんなぺこーらを見ても、
すいちゃんは顔色ひとつ変えなかった。
そんなすいちゃんがぺこーらにはとてつもなく恐ろしかった。
「…ぺこら」
「な、なにぺこ」
「”あれ”、しよっか?」
その言葉を聞いた時、ぺこーらの身体中の細胞が震え出すのを感じた。
過去に一度だけすいちゃんが同じ言葉を口にした事がある。
あの時も。
今みたいに、ぺこーらが少し調子に乗って。
すいちゃんを煽って。
そして――。
『ちゃんと、ぺこらが誰のものか思い出させてあげる』
そう耳元で囁かれた直後。
何度も、何度もキスをされて。
息もまともにできなくなるまで逃がしてもらえなかった。
抵抗するたびに深くなっていく口づけ。
視線を逸らすことすら許されず、頭の中が全部すいちゃんで埋め尽くされて。
最後には、自分から縋るみたいにすいちゃんの服を掴んでしまった。
――あの時の感覚を、ぺこーらは今でも忘れられない。
「待ってっ、ごめんっ、すいちゃん。もう絶対しないから許して欲しい」
その出来事を思い出したぺこーらは急いですいちゃんに謝る。が、
「…ごめん、今回は簡単には流してあげられない」
静かな声でそう言われた。
怒鳴っているわけでもない。
感情をぶつけているわけでもない。
なのに、
その一言だけでぺこーらの呼吸が浅くなる。
「〜!! ま、待っ――」
「待たない」
被せるようにそう言って、
すいちゃんはぺこーらの腕を軽く引いた。
距離が一気に縮まる。
「っ、すいちゃ――」
最後まで名前を呼ぶ前に、
唇が塞がれた。
「んっ……!?」
逃げようとしても、
顎へ添えられた指がそれを許さない。
「……ぺこら」
名前を呼ばれただけで、
ぺこーらの背筋が震えた。
逃げたい。
でも、
視線を逸らすことすら許されない。
「舌、出して」
低く、はっきりした声。
完全に命令だった。
「っ、や……」
反射的に拒絶した瞬間、
すいちゃんの目が細くなる。
「……へぇ」
その一言だけで、
ぺこーらの心臓が嫌な音を立てた。
「私に逆らうんだ?」
「ち、ちが……」
「違わない」
被せるように言われる。
すいちゃんはそのまま、
親指でぺこーらの唇をぐ、と押した。
「自分が浮気まがいのことしたくせに、
私の言うこと聞けないんだ?」
「ぅ……っ」
「……そういう事するんだ」
…今舌を出したら絶対に離してくれない。そう思ったぺこーらは必死に出すまいと抵抗する。しかし、
「出せって言ってるでしょ」
今度はさっきより低い。
有無を言わせない声だった。
「……ぅ、ぁ……」
ぺこーらの喉が震える。
唇を閉じたまま耐えようとしても、
すいちゃんの視線に捕まったまま動けない。
「私、待つの嫌いなんだけど」
そう囁きながら、
すいちゃんはさらに顔を近づける。
「…ちゃんと従って。
ぺこらは”私の”なんだから」
そう言われた途端、ほんの僅かな恐怖と嬉しさでほんのり唇が開いてしまった。
その隙を逃さないかの如く、
すいちゃんの舌がぺこーらの口内へ入り込む。
「んっ……!?」
びく、と肩が跳ねた。
逃げようとしても、
顎を支える指がそれを許さない。
「……ふ……っ」
浅く絡め取るみたいなキス。
けれど、
完全に主導権は奪われていた。
ぺこーらが息を乱すたび、
すいちゃんはわざと追い詰めるように距離を詰めてくる。
「ん、ぅ……っ」
苦しそうに漏れた声に、
すいちゃんが僅かに唇を離した。
細く繋がった呼吸の隙間。
「……抵抗しないんだ」
低く落ちた声に、
ぺこーらの身体が強張る。
「だ、って……」
「私の事が怖いから?」
その言葉に、
ぺこーらは何も返せなかった。
返せるわけがない。
だって、
実際怖いくらい心臓がすいちゃんに支配されている。
そんな反応を見透かしたみたいに、
すいちゃんは小さく笑う。
「ほんと可愛い」
そう囁いた直後、
再び唇が重なった。
それから暫くした後、すいちゃんが唇を離すと、銀色の糸が二人の唇の間を紡いでいた。
「もし他の女に靡いたら許さないからね?」
「はぁっ♡…はぁっ♡」
「ってそんな満身創痍じゃ聞こえてないか」
ま、仮に靡いたとしても、もう1回奪いに行くけどね。
そう言葉にしてすいちゃんはぺこーらが逃げられないように四肢を拘束してきた。
そこから何度も繰り返される口づけに、
ぺこーらの呼吸は完全に乱れていた。
「ん、ぅ……っ♡」
逃げようとしても、すいちゃんの腕がそれを許さない。
唇が離れたと思えば、
すぐにまた重なる。
その繰り返し。
まるで、ぺこーらに考える時間すら与えないみたいに。
「……ほんと分かりやすい」
掠れた吐息混じりの声が耳元に落ちる。
「最初の威勢はどうしたのw」
「ぅ……っ」
悔しい。
否定したい。
なのに、
酸素を奪われる度、
身体から力が抜けていく。
気付けば、
ぺこーらは自分からすいちゃんの服を掴んでいた。
「……あ」
無意識だった。
離れようとしていたはずなのに。
すいちゃんに縋るみたいな形になってしまっている。
それに気付いた瞬間、すいちゃんが小さく笑う。
「ほらね」
「っ……」
優しく髪を撫でられる。
その手つきは甘いのに、ぺこーらには逃げられない檻みたいに感じた。
怖い。
本当に怖いはずなのに。
胸の奥では、その言葉に安心してしまっている自分もいた。
もう、
何も言い返せなかった。
コメント
1件
うわ、これめっちゃ重い…!でも好きだなあ。すいちゃんの静かな独占欲が怖いくらい伝わってきて、ぺこらの逃げ場のない感じがリアルだった。「私以外に簡単に触らせないでよ」からの流れ、じわじわ迫ってくる感じがたまらなかった。あと、ぺこらが「怖い」と思いながらも最後はすいちゃんの服を掴んじゃうとこ、その矛盾した気持ちがすごく分かる…。続き、気になるよ。