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「それじゃ、先いってるから」
「はい、後で一緒に遊びましょうね、アリエッタちゃん」
「? はいっ」(よく分からないけど呼ばれたから返事しとけ!)
「もうっ可愛いなぁ♡」
朝。
水着に着替えたアリエッタ達は、再び海に遊びに行く事になった。
アリエッタも少し慣れたのか、寄ってたかって着せられるよりはマシかと思ったのか、白のフリルワンピースを自分から着ていたりする。そして恥ずかしそうに顔を赤らめて大人達を興奮させるという、天然の魔性っぷりを発揮していた。
「ぴあーにゃ?」
「うぅ……」
全員が水着に着替え、出発前になった。しかし未だに着替えていないピアーニャに、アリエッタは心配そうな顔で近づいた。
「ぴあーにゃ?」(なんで着替えないのかな? 今日は遊びたくないのかな?)
「い…イヤだぞ。きのうでさえガマンしたのに、あんなオソロシイものをきるのはイヤだ……」
ピアーニャの水着はネコミミスイムキャップとピンクの尻尾つきフリルワンピース。自分は大人の女性と言い張るピアーニャにとって、拷問以外の何物でもない恰好だった。
1日目はなんとかガマン出来たが、やっぱり着たくないようだ。
「さてアリエッタ。ピアーニャちゃんは後で来るみたいだから、先に行こうねー」
「?」
ミューゼに頭をポンポンと撫でられ、パフィに手を引かれ、なんだかよく分からないままのアリエッタは。ピアーニャから離れて海に行くことになった。
お互いの姿が見えなくなる直前、ネフテリアがリリと視線を交わし、頷き合った。
(よろしくお姉様)
(ええ、なんとかしてみせるわ)
視線だけで意思疎通を済ませ……ついにピアーニャの視界からアリエッタ達がいなくなった……その時だった。
「はっ!」
「ふんっ!」
リリがピアーニャに手を伸ばし、ピアーニャがその場から大きく飛び退いた。
「ちっ、バレてましたか」
「いやわかるわ! ぜったいアレをきせようと、わちをつかまえるきだろ!」
「あたりまえですっ!」
水着を着せられたくない……その為にピアーニャはずっとリリを警戒していた。だからこそ容易に回避出来たのだが、『雲塊』を使っての逃走や反撃をする事は無い。それにはもちろん理由があった。
「くそー、『くも』がつかえれば……」
「『雲塊』は宿では変形と飛行が禁止ですからね。だからここから絶対に逃がすわけにはいきません」
変形させて乗り物や武器になる『雲塊』は、建物内で使えば危険物扱いなのである。その為多くのリージョンでは、施設内や人の多い場所での使用は緊急時以外禁じられている。
つまり今のピアーニャは、ほぼ無力なちびっこでしかないのだ。それでもリリから咄嗟に逃げられるのは、経験の差によるものである。
同じくリリも建物内での魔法は、水を出すなどの小さなもの以外は禁じられている。しかしピアーニャを捕まえるのは、体格の差だけ見れば容易なのだ。
「ふふふ……アリエッタちゃんが待ってますよ」
「ぐ……」(どこかにげみちは……)
「逃げようとしても無駄です。テリアが従業員に、幼児が水着も着ないで逃げて迷子になるかもしれないから出入口に気を付けてって伝えてます」
「サイアクだな!?」
既にピアーニャは袋のネズミとなっていた。宿から出るには水着を着てリリと一緒に行くしかない。
残された手段は……
「だったらきょうは、ウミへはいかん!」
「駄目です。アリエッタちゃんと遊んであげてください」
「いやだー!」
ピアーニャは逃げ出した。
宿から逃げられないならと、泊まっている部屋へと直行した。籠城するつもりである。
しかし、
「くそっ、ロンデルめ! しっかりカギかけたのか!」
当然といえば当然である。
ロンデルは性別が違うので個別に荷物を部屋に持ち込んでいるが、ピアーニャの着替えは部屋割りをしていてもアリエッタ達が寝ていた大部屋に置いてある。そして今、宿に残っているメンバーはリリとピアーニャの2人だけ。
つまり今のピアーニャは部屋に自由に出入り出来ないのだ。しかも部屋の鍵は、現在リリが持っている。
「総長」
「うわっ! はなせー!」
能力が使えず身長の低いピアーニャは、あっさりと追い付いてきたリリに捕まった。反射的に暴れるが、小脇に抱えられては手足をジタバタ動かすだけで精一杯。あえなくアリエッタ達が泊まっていた大部屋に連れ込まれていく。
「うふふ、さぁ水着に着替えましょうか♪」
「いーやーだー!」
ピアーニャの水着はベッドの上に置かれていた。周囲は少しだけ荒れている。アリエッタ達が着替えている時、ネフテリアがピアーニャを捕まえようと頑張った跡である。
再び自分の水着を見たピアーニャは、顔を引きつらせた。そのままリリの腕に捕まり、動きを止めた。
その態度で観念したのかと思ったリリが気と腕を緩め、ニヤニヤしながら置いてある水着を手に取る。
しかしピアーニャは諦めたわけではなかった。
「ふぬぅっ!」
「あっ!」
水着を拾う時の一瞬の緩みを見逃さず、全力で体を捻ったピアーニャ。腕を伸ばして前かがみになっていたリリからあっさり零れ落ちた。
(よしチャンス!)
こうなれば、後は全力で逃げるのみ。しかし走ったところで身長差のせいで簡単に追いつかれてしまう。その事を自分でよく分かっているピアーニャは、左手を握り締め、リリに注意しながらドアへと向かおうとする。
「逃がしませんよ! さぁ脱ぎ脱ぎしましょうね!」
「そんなモノ、きてたまるかっ!」
水着を持っていては捕まえるときに障害物となる。ならば先に脱がしてしまえばいいと考えたリリは、仕事の時よりも真剣な顔で、逃げようとするピアーニャに対峙した。
「絶対に逃がしませんよ、アリエッタちゃんのために!」
「うるさい! たまにはアイツをセットクしろ!」
「嫌です! じゃなかった、無理です!」
「いまホンネもれたな!?」
言葉が通じようと通じまいと、ピアーニャを可愛がるアリエッタを止めるつもりは全く無い。さらに逃げようとするのを阻止するべく、リリがジリジリとドアの方へと近づいて行く
「何が悪いんですか! 可愛い事こそが正義ですよ!」
「わちはかわいくないぞ! オトナだぞ!」
「大人なら自分で脱げますよねー? ほらほら」
「ぬいでたまるかーっ!」
可愛くなりたくないならば、とにかく抵抗あるのみ。ドア前に立ち塞がれる前に、逃げなければいけない。一瞬たりともリリから注意を逸らせない今のピアーニャにとって、ドアまでの距離がとてつもなく長く感じられていた。
「しょーがないですねぇ、脱がしてあげますからねー、とうっ」
「うわわわわわわっ」
リリがピアーニャに襲い掛かった。もちろん位置は計算して、ドアから遠ざかるしかないように誘導までしている。
驚いたピアーニャは、思わず大きく跳び退いた。
「って、ずいぶん跳びましたね?」
「……わちもビックリした」
入口に迫っていたところから部屋の反対側の壁まで跳んでいた。これにはリリだけでなく本人も驚いた。
みんなで集まれるように借りた大部屋である。普通の人であれば、1回のジャンプで最も離れた後方の壁際まで跳び退くなど、大人でも無理なのだ。
身体が小さく身体能力の低いピアーニャが、何も無しにそんな超人的な動きを出来るわけがない。
「なるほど、その左手の『雲塊』を使ったわけですか」
「カンのいいやつめ。これならキケンさはへるからな。ソトではつかえないが」
実はジャンプに見せかけた移動調整だった。
この方法はハウドラントでルミルテと戦った時に使った技の応用。その時は自分自身を包み込んで飛行をしていたが、今回は『雲塊』を手で握り込んで、自分の跳躍に合わせて動かし、着地地点を大幅にずらす補助として使ったのだ。
「これは手ごわいですね……」
形勢逆転。
リリの方からうかつに動けば、ヒラリと跳んで逃げられてしまう。何もしなくても窓から逃げる事が可能である。そうなる前に捕まえなければいけない……
(──と、かんがえているだろうな。クックック、だったらこのままケイカイだけしていればいい。ソトになどゼッタイにでてやるものか!)
ピアーニャは出来る事ならこの部屋から出たくなかった。先程ジリジリと部屋から出ようとしていたのもフェイントだった。
もし宿から出れば、外にはアリエッタがいるかもしれない。浜辺から宿はよく見える。もしアリエッタに見つかれば、追いかけてくるか泣くか…どうなるかは分からないが、ピアーニャは罪悪感から逃げられなくなってしまう。しかもその後がとてつもなく怖い。そんな事態を防ぐには、宿から出ないのが最も安全なのだ。
「かならず、にげきってみせるからな……」
「むぅ……」
さらに逃亡を仄めかす事を言い、リリの思考を固定させる。これで引きこもるつもりである事を、悟られにくくなった。
こうして2人の動きはピアーニャの狙い通りに膠着状態となった……かに見えたその時だった。
「はははは! ピアーニャはここか!」
「なっ」
「えっ!?」
先程ピアーニャを抱えていて鍵をかけ忘れたドアが開き、赤い髪の男が姿を現した。
『ディラン!』
その人物は、ピアーニャの教え子でネフテリアの兄、エインデル城の第一王子ディランだった。
以前にミューゼ達に退治され、罰として風通しのよくなり過ぎた部屋で野宿を強いられ、王子として再教育されていた。特に監禁されているわけではなかったのだが、こうしてヨークスフィルンで会うとは思わず、ピアーニャは心底驚いていた。もちろん元王女のリリとも面識はある。
2人があっけに取られている間に部屋に数歩だけ入り、両手を広げて自信満々に決め台詞を言い放った。
「世界の幼女は、全てこのディランのフィアンセに!」
『帰れっ!!』