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「ひゃうっ!?」
浜辺でアリエッタが叫ぶ。その声に驚き、振り返ったミューゼとパフィが見たのは……
「ふえぇっ、みゅーぜぇ~」(なにこれ魚!? なんで挟まってんの!?)
「おぉぅ……」
偶然にも水着の中に魚が潜り込んでしまったアリエッタの姿だった。おしりの所から少し長い魚が頭から突っ込んで、ビチビチ暴れている。
「あらら、すぐ取ってあげるし。こんなエロ魚は後で捌いてやるし」
「じゃあ火あぶりの刑でよろしくー」
一緒にいたクリムによって魚は引き抜かれ、少しずれたアリエッタの水着も直された。
その時、10歳過ぎくらいの少年2人が、顔を真っ赤にしながらどこかへ走っていくという軽いトラブルが重なったが、多くの大人達はどちらの方も温かい目で見守っていた。
「これが青春の始まりか……」
「随分うらやましい青春だなぁ」
相変わらずリージョンシーカー一同はいろんな意味で注目を浴びているが、先日に比べて今日の浜辺は平和だった。
「あら、もう海から上がるの?」
(せっかくだからアレやってみようかな。今なら作り方も知ってるし)
海から出たついでといった感じで、アリエッタは砂浜で遊び始めた。今度はミューゼとネフテリアが一緒に遊ぶつもりである。
アリエッタが何をするつもりなのか楽しみな2人は、邪魔しないようにアリエッタの真似をしながら観察するのだった。
その時、少し離れた所から眺めるパフィの元に、2人の女性が近づいていく。
「…………へっ!?」
気配を感じて振り返ったパフィは、その顔を見て驚愕の声をあげて固まってしまったのだった。
突然のディランの乱入によって、ピアーニャの緊張が一気に高まった。なにしろピアーニャやアリエッタという幼い少女にのみ求婚し続ける、正真正銘の変態なのだから。
目的はなんとなく想像がつくものの、リリは一応質問を投げかける。
「何しに来たの? ディラン」
「ふっ、ピアーニャとアリエッタ嬢が海水浴と聞いて、じっとしていられる者など男ではない!」
「そ、そう……」
回答のレベルと勢いが妙に高く、冷たくあしらおうとしたリリが圧されてしまった。
「……つまり、わちとアリエッタのミズギすがたをみに、わざわざヨークスフィルンにやってきたのか?」
「もちろん。予定を調査し、5日前から待っていた」
「こらこら……だから肌がすっかり焼けているのね」
ピアーニャ達がヨークスフィルンに来る以前から、ずっと待機していたディラン。それならば、肌が小麦色に焼けている事もなんら不思議ではない……が、
「いや、これは昨日ピアーニャが浜辺に来るのを、朝早くからずっと待っていたからだ」
「えっ、近くにはいなかったわよね?」
昨日は全員浜辺にいたが、誰もディランの姿を見ていない。仮にも王子が1人で、他リージョンで外出する事は普通は無いので、近くにいれば分かりやすい筈である。
「……まさか」
「離れた所から堪能していたに決まっているだろう? ピアーニャが転んであられもないポーズになった時など、出血で死ぬかと思ったぞ」
「ナゾのちだまりはオマエかっ!!」
ロンデルが調査してきた血だまりの正体は、ディランの鼻血だった。それもピアーニャとアリエッタの水着姿を凝視し、興奮しすぎたのが原因だという。
相変わらずな理由に、ピアーニャもリリも、ゴミを見るような目をして納得した。
ここでリリは考えた。ディランは幼女の敵だが、ピアーニャを捕獲する時には強い味方となる。だったら手伝ってもらえば、ピアーニャに水着を着せられるかもしれない…と。そして迷わず実行に移す。
「まぁでもいい所に来たわ、ディラン。ピアーニャに水着を着せたいから、捕まえるの手伝ってくれる?」
「おいっ!?」
リリは、ネフテリアとディランの父であるガルディオ王の妹である。ディランが生まれた時から時々世話をしているので、気楽に頼み事も出来たりする。
もちろんディランは滅多な事が無い限り断る事は無い。しかも、今回は理由的に断るなどあり得ない。
「いいですとも! さぁピアーニャ、私が脱ブフッ!!」
断りはしなかったが、喋っている最中に突然膝をついた。
「……しゃべるかハナヂだすか、どっちかにしろ」
「ちょっと、この部屋汚さないでよね? みんな泊まってるんだから!」
何を想像してしまったのか、興奮が最高潮に達してしまった様子。かろうじて服を使って零さないようにしているが、すっかり息が荒くなっている。
「はぁはぁ……もう大丈夫です。しかし肝心の水着は?」
「そこよ」
「……なっ!? これはぁっ!!」
リリの視線の先にあるのは、昨日陰から見ていた筈のベッドの上にあるピアーニャの水着。しかし……
「き、昨日と全然違う水着…だと? 一体どういう事だ、ピアーニャ!」
「いや、わちにきかれても……」
耳と尻尾がついていたピンクのフリルワンピース……だったはずが、白色の水玉模様が追加されていた。ピアーニャが逃げる程嫌がっているのは、実はこのせいだったりする。
この変貌にはアリエッタ以外の全員が驚いていた。それもその筈、起きたらピアーニャの水着だけ見た事の無い状態になっていたのである。
犯人は、もちろんアリエッタ。深夜に起きて別室でピアーニャの水着に着色し、これでますます妹分が可愛くなるだろうという、純粋な善意による行動だった。まさかそれを望んでいないとは、一寸たりとも思ってない。
深夜にこっそり起きたせいで、朝食には抱っこされて移動していた。もちろんその後で、ちゃんと目覚めたアリエッタが恥ずかしがったのは言うまでもない。
「それを着たピアーニャちゃんはさらに可愛くなるという、アリエッタちゃんからのお告げよ。ディラン、見てみたくはないかしら? その為には捕まえなければいけないのだけど」
「おいリリ! どういうつもりだ!」
ここでリリがディランの説得を始めた。ピアーニャの水着姿というご褒美をちらつかせ、捕獲を手伝わせるつもりである。
返事はもちろん、
「……うおおおおお!! ピアーニャぁぁぁ!!」
「くるなああああーーーー!!」
肯定を省略してダイレクトアタック!
飛び込んできたディランにビックリして、ピアーニャは慌てて大きく回避した。しかしそれを狙ってリリが動く。滑るような動きで空中のピアーニャに接近し、手を伸ばした。
「うわっと!?」
「逃がしません!」
壁を蹴ってリリを飛び越えるピアーニャ。同じく壁を蹴ってピアーニャを追いかけるリリ。
後ろから迫るリリを空中で避けようと、手の中の『雲塊』を操作して着地地点をずらした。しかし、
「はぁっ!」
「ぬあっ!?」
なんとリリまでもが空中で軌道を変え、追跡を続けた。
そのまま2人は壁・天井・床を全て使って、立体的な追いかけっこを繰り広げていった。天井から真下にジャンプしたと思えば壁に着地し、床と天井を往復した後は壁から壁へグネグネまがりながら跳ね回る……もはや不思議を通り越して、気持ち悪い動きになっている。
その間ディランは、跳び回るピアーニャと置いてある水着を交互にみながら、内心テンションを上げていた。
咄嗟にピアーニャが椅子をバリケードにし、2人はようやく動きを止めた。
「ちょっとまて! なんでオマエまでおなじウゴキできるんだ!?」
「空属性の魔法です。薄く強く体に纏えば、体を軽くしたり空中の位置調整だってできるんですよ」
「……あいかわらずマホウはベンリだな」
空属性は空気を操る魔法。空気の動きを止めたり、暴風を起こしたり、そよ風で洗濯物を乾かしたりと、それなりに応用力の高い魔法である。
宿の中では大きな魔法を使えない為、今回は自分の動きを補助する程度の使い方をしていたのだ。
「ええ、でも風で無理矢理自分のお腹を押し上げたりしていたので……うぅ、朝ごはん…出そう…」
「をぃ……」
いくら空気の流れで一瞬浮けるといっても、人体は物理的に影響を受けてしまう。しかも空気抵抗が最も大きい場所は、人体でも特にデリケートな場所である。準備無しで長時間行えば、身体にあまりよろしくないようだ。
かといって、体全体を飛ばす程の強風を使えば、間違いなく部屋が荒れ、宿に怒られてしまう。それは元王女でありリージョンシーカーの受付嬢、そして一緒にいる総長と王子にとって、ものすごく恥ずかしい事なので、確実に避けておきたかった。
「ふぅ、落ち着いた。それじゃあ今度こそ捕まえます」
「もうやだ、このうけつけじょう……」
「ディラン! 交互にいくわよ!」
「はいっ!」
今度はディランと連携してピアーニャを捕まえる事にした様子。作戦はディランと一緒に連続でピアーニャを追いかけ続けるという簡単なもの。
先程の後ろから追いかけるだけの動きではなく、そこに横からの接近を追加する事で、ピアーニャの警戒網を広げさせ、心身ともに疲労させるという流れである。流石に2人とも、まともにやりあって捕獲出来るとは思っていない。それほどの経験の差なのだ。
「ふん……つかまってたまるか!」
「諦めてください。アリエッタちゃんの為に。そして可愛いもので満たされたい私の為に!」
「たのむピアーニャ。水着を着てくれ。そして結婚しよう」
なんとも欲望まみれな王族2人である。
一瞬睨み合った後、準備万端とばかりにディランが動き出す。
「では私から行きます。リリおばさ──」
「必殺! 王子滅殺拳!!」
しかし、ピアーニャを捕まえる為の連携は、リリの怒りの一撃によって……
「ごはあっ!?」
「ぅべぁっ!?」
ドゴァッ!
初手の前に失敗した。
ディランが物凄い勢いでぶっ飛ばされ、驚いて硬直してしまったピアーニャに直撃し、捕獲だけは成功していたのだった。奥の壁を犠牲にして。