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俺と早紀の願いが叶った後日、俺は後輩に話を聞くため、早紀と一緒に一年生の教室を訪ねた。
「会長と貝塚さん、どうしたんですか?」
「実は聞きたいことがあってな、ここじゃあれだから、今日の放課後、生徒会室に来てくれないか?」
「なるほど、大体予想はつきます。会長もいるんですか?」
やっぱり早紀のことを気にしているようだ。
「もちろん同席するわ」
「そうなんですね。分かりました、また放課後に」
「ああ、よろしくな」
意外とあっさり言うことを聞くようになったもんだ。早紀の影響が大きいんだろう。俺のことも見下している様子はなかったし、本当に改心したんだな。
放課後になり、俺たちは生徒会室に集まった。
「じゃあ、早速質問だ。なんで怪文書なんてもの、三年生全クラス、それに加えて全員の机の中に入れようなんて思ったんだ?」
「恥ずかしいんですけど、私、会長のことが好きだったんです」
「うん、それは知ってる」
俺の言葉で後輩の顔が赤面した。おまけに早紀にも睨まれる。
「拓斗くんってデリカシーがないわよね。本当、そこだけは直してあげたいわ」
「ご、ごめんって」
「いいんです。気にしないでください……」
あんな強気だった後輩が嘘のように低姿勢になっている。いや、そうじゃなくて、本当に申し訳ない。
「そ、それでどうしてなんだ?」
「上手く気持ちを伝えられなくて、手紙を書こうとしたんですけど、それも上手くいかなくて、会長は謎解きが得意だから……」
「なるほど、色々悩んだ結果、怪文書を三年生の全クラスにばら撒いたと……」
正直理解できない。あまりにも不器用すぎないか? 絶対に難しい謎解きを作るより、直接想いを伝えたほうが簡単な気がするのだが。
「でも、結局バレたくなくて……」
「そうだろうな。君の考えた文書を解読したけど、意味が分からなかった」
「それは、会長だけに分かるようにしたつもりだったんですけど……」
俺が早紀のほうを向くと、早紀は手を差し出した。
「友人くんが書いた考察を持っているでしょ、それを見せてあげて」
「か、会長……?」
「これ、拓斗くんのお友達が作った資料よ。怪文書を私だけに分かるように作ったみたいだけど、残念ながら私より上はいるのよ」
後輩はその資料を読んで唖然としていた。静かに俺のほうを見て、質問を投げかける。
「どうしてここまで……。完璧に見抜かれるなんて」
「俺の友人はちょっと頭がきれる奴だから、俺にも理解できない領域にいるんだよ」
「でも、会長も……」
次に後輩は早紀のほうを向いて、何かを期待しているように見つめる。
「この怪文書を読んで、すぐにあなたが作ったものだと確信したわ。当然、あなたの気持ちにも前から気づいていた。でも、私はやっぱり直接、あなたの口から言葉を聞きたかったのよ」
「今思えば、私もそう思います。どうしてあんな馬鹿げたことをしてしまったんだろうって」
「放っておいていた私も悪いのよ。そして、あなたも私の行動を見て見ぬふりしたの。お互い様ね」
早紀は後輩の気持ちと行動に気づき、秘密裏に処理しようとした。後輩は早紀がしようとしていることに気づいていたが、その責任を俺に擦り付けたというわけだ。
「まあ、もう終わったことだ。最初の三枚は君が作って、その次の二枚は早紀が作った。それは間違いないな?」
「間違いないです。でも私は、会長が作った怪文書の内容を知りません」
「それもそうか」
確かに、早紀が俺に直接渡していたのだから、偽の怪文書を作った早紀、それを渡された俺、それを解読した友人以外に、内容を知る者はいない。
「私が作った偽物は、拓斗くんの友人が理解できればそれでよかったもの」
「見事早紀の思い通りになったってわけだ」
「会長はずっと私が作った文書に似せて作っていたんですね」
本当に、事をややこしくしてくれた。その次の二進数文書にも、紛れ込ませていたんだから。
「次はこの二進数についてだ。これ、早紀の誕生日だろ」
「その通りです。もうひとつは、私と会長が出会った日、それが入学式の日です」
「君が作ったのはこの二枚だけ。残りの一枚は早紀が作ったんだな」
そう、この数字だけが何なのか分かっていない。
「これは……私の誕生日……」
「そうだったのか。じゃあ、早紀は後輩の存在を伝えようとしていたってことか」
「ご名答ね。これはさすがに友人くんも知らなかったみたいだけど」
友人だって何でも知っているわけではない。たまたま専門外だったということだろう。
「じゃあ、最後の楽譜文書に移ろう」
「これに関してはもう……」
「ああ、もうこれは意味も目的もはっきりしている」
海斗が動いてくれていたあの期間、怪しい動きに気づいた後輩は、怪文書で脅迫文を作った。海斗はバイオリン経験者、後輩は海斗が楽譜を読めることを知っていたんだろう。それは海斗も同じで、後輩がピアノ経験者であることを知っていた。
「怖い思いをさせてごめんなさい」
「いいんだよ、これを解いたのは結局友人だから」
「すごいんですね、友人さん」
これも、二枚は後輩が、一枚は早紀が作っている。ただ分からないのは、早紀はどうやって偽の怪文書を紛れ込ませたのだろう、ということだ。
「海斗くんには口止めしておいたけれど、最後の一枚は私が直接海斗くんに渡したものよ」
「じゃあ、海斗は真実を全て知っていたってことなのか?」
「少なくとも、拓斗くん以外の関係者は知っていたと思うわよ」
おいおい、初耳だぞ。ということは、友人も真実を知っていて、途中からはわざと怪文書を解いていたことになるのか。
「結局悩んでいたのは俺だけかよ」
「でも、拓斗くんの行動次第で上手くいくかどうかが左右されていたのよ。だから、拓斗くんだけ騙されてくれる必要があった」
「そうだとしても酷いぜ。せっかく早紀のメッセージまで真に受けて頑張ったのに」
早紀のメッセージとは、楽譜文書の三枚目、ヘ音記号で書かれていて、解読すると英語になる文書。友人が俺に自力で解かせたものだ。
「その、内容はなんだったんですか?」
「えーっと、言ってもいいのか?」
「別に、問題ないわよ」
実際、あのメッセージがなければ心が折れていた。
「内容は『do not give up』、『諦めてはいけない』だよ」
「上手くやったと褒めてほしいものね」
「だから感謝してるじゃないか」
後輩は俺たちの様子を見て微笑んでいた。ずっと無表情で、俺に対しては恐ろしく睨みつけていたのに。人って本当に変われるんだな。
「仲良いんですね」
「色々あったからな。唯一君に感謝していることは、俺と早紀との接点を作ってくれたことだ。君はそうは望んでいなかったかもしれないけど」
「もう、あの時みたいに貝塚さんを恨むことはありません。あれはただの逆恨みでしたから。今は、会長と貝塚さんが仲良くなってくれて良かったと思ってます」
これが、早紀が望んだ、後輩の姿だったんだろうな。生徒会に入っても変わらないでほしいと、ただ願っていただけなんだもんな。
「そう思ってくれて俺たちも嬉しいよ。今日は話してくれてありがとう。そういえば、最近の学校生活はどうなんだ?」
「友達作りを頑張っています。まあ、そう簡単には出来ないんですけどね」
「ゆっくりでいいじゃない。生徒会の人間じゃなくても、私はいつでもあなたの味方なのだから」
どこまでも早紀は優しい。それを聞いて後輩も安心できたようだ。後輩を見習って俺も頑張ろうかな。これでようやく、長かった事件の幕が完全に閉じたのだった。