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【ダイキャット・カンパニー】を訪れた俺たちは、日本から持ち込んだ品々を猫商人に買い取ってもらっていた。
どれをとっても『未知のもの』だったと思うが、そこは目先が利く商人である。
すべて買い取ってもらえた。
その中でも猫商人が一番に注目していたのが【手鏡】であったのだが……、最後に出した【コンソメ】に全部もっていかれた感じである。
しかしコンソメに注目するとは、さすがは猫商人。
胡椒を商っているだけあって、人々の『食へのこだわり』というものをよく理解している。
そして、鍋を出し慶子 (けいこ) が説明にはいると、
「そんなわずかな量でこれだけの味が出せるのか。こ、これは凄いぞ! こんなものがあったらコックが失業してしまうではないか!」
猫商人は大興奮。
12㎏入りの段ボール箱を見て、「これだけなのか……」と落胆していたほどである。
商品の引き渡しと清算が終わると、
「次回も是非我がダイキャット・カンパニーに!!!」
握手をしながら慶子は何度もお願いされていた。
ダイキャット・カンパニーをあとにした俺たちが次に向かったのは【錬金術師ギルド】である。
馬車は邪魔にならないよう繁華街の端に待機させ、俺たちはそのまま歩いて錬金術師ギルドへ入った。
目的はもちろん、ヒールポーション (低級) 購入のためである。
「ここは一人で大丈夫だから座って待っててちょうだい」
慶子がそういうので、俺はシロとヤカンを連れ待合スペースの長椅子に腰をおろした。
すると少し離れたところに座っている三人組から話し声が聞こえてきた。
恰好からすると商人のようだが。
本人たちはヒソヒソ話のつもりだろうが、レベルの高い俺からすれば普通に聞こえてしまうのだ。
素知らぬ顔してしばらく聞き耳を立てていると、
【サンタクレス大帝国】では、ポーション類がかなりの品薄状態になっているのだとか。
サンタクレス大帝国といえば、このクルーガー王国から南に下ったところにある隣国であり、この大陸で一二を争うほどの大国である。
しかし隣国といえども国境はかなり離れており、こちらと諍いが起きるようなことはほとんどない。
さらに話を聞いていくと、
ポーション類だけではなく、弓や槍、鎧なども軒並み値が上がっているのだという。
「これはもしかすると、もしかするかもしれないぞ」
なるほど、帝国内外からはそんな噂が流れているのか……。
すると、もう一方の商人からとんでもない情報がもたらされた。
その情報とは、
『サンタクレス大帝国の帝都に人が集められている』というものであった。
「これはいよいよもってキナ臭くなってきたんじゃねえかー?」
それを聞いていた商人の一人が静かに漏らす。
「しかし、それが妙なんだよ。割のいい仕事があるとかで男や獣人はおろか、女や子供までスラムから引っ張ってきているみたいなんだ。それも千人規模でだぞ…」
――ガタッ!
俺はつい、自分が座っていた長椅子を拳で叩いていた。
何事かと、三人は話しを止めこちらを振り向いている。
俺はゆっくり立ちあがると、会話をしていた三人に謝礼はするので今の話を詳しく聞かせて欲しいとお願いした。
最初は渋っていた三人だったが、俺がツーハイム家の布章を提示すると顔を青くしながらも従ってくれた。
俺はすぐさま受付カウンターへ赴くと、布章を示し個室を借りることにした。
カウンターにいた慶子が心配そうにこちらを見ている。
俺は慶子に近づくと、
「すこし話を聞くだけだから」
とだけ耳打ちし、用事が済んだら待合スペースで待ってるようにと伝え個室に入った。
俺は三人を目の前にしてニッコリ微笑むと、一人に1枚ずつ金貨を差し出し先程の話を詳しく聞いていった。
最初は緊張していた三人だったが、思いがけない収入に気を良くしたのかいろいろと語ってくれた。
中には帝国との【渡り商人】もいたようで、帝国の内情を詳しく聞くことができた。
帝国内部では『いよいよ戦なのか?』、『どこを攻めるんだ?』、などとキナ臭い噂が飛び交っている中。
今から30日程前、帝都に集められていた千人を超える人間が忽然と姿を消したそうだ。
噂によれば『鉱山に連れていかれたのでは?』ということらしいのだが。
「それでは物価の高い帝都にわざわざ連れていくる意味がないのでは?」
などという商人らしい考えも聞かせてもらった。
帝国の情報をある程度聞きだしたのち、連絡先を聞いた上で三人は返した。
もちろんマークは付けているので王都にいる間はどこに行っても把握することはできる。
どこぞの工作員による、混乱を招くための嘘情報ということもあるしね。
さてさて、この話を誰に持っていきますかね……。
先ずはこの人だよね。
――困った時のおばば様。
まぁ今回はそこまで困っているわけではないけど。
この手の話ならおばば様が適任かな。決断も早いしね。
俺は慶子を王都の別邸へ送り、自由に過ごすようにといって屋敷をでた。
馬車で王城へ向かい、離宮に御座すおばば様に面会を申し込む。
程なく許可がくだり、俺は離れの屋敷へと通された。
応接室にてしばらく待っていると、
「おや、ゲン坊。ここに来るとは珍しいね~。なにか急ぎの用かえ?」
流石はおばば様。すぐに空気を読んで即応の体制をとってくれる。
「実はですね……」
と、皿に盛ったチ○ルチョコを差し出しながら、要点だけを話していく。
「噂ね~。ポーションが少なくなってるのは事実だよ。王国 (うち) も草は放っているからね~」
「そして勇者かえ? それは穏やかじゃないね~。狙いはおそらく南の小国群のどれかだろうね。まぁ王国を狙うことも十分考えられるさね」
おばば様はチ○ルチョコをほおばり、冷静に分析していく。
「それにこっちも確認してからじゃないと動けないからね~」
「…………」
「どうしたもんかね~」
「…………」
チョコの包みを開けながら俺の顔をチラチラと見てくる。
「は~~~、わかりました。俺が見てきましょう」
「おや、そうかい! 誰に頼もうか今考えていたところだよ」
まったく白々しい。
「じゃあ、ちょっと待てておくれ。うちの草と繋ぎがつけられるよう手紙をしたためてあげようかね」
俺は手紙を預かったのち落ち合う場所を確認、おばば様の離宮をあとにした。
別邸に戻った俺はすぐさま慶子を連れてデレクの町へ帰還した。
取り急ぎシオンに事情を説明しサンタクレス大帝国の地図を受けとる。
俺はその地図を素早く確認、インベントリーに保管した。
「慶子、申し訳ないが俺はしばらく出てくる。あとは町に出るなりダンジョンに潜るなり自由にして構わない。何か困ったことがあったらシオンに相談してくれ」
「わかったわ、私は温泉にでも入ってゆっくりしてるわね。遠出するんでしょ? 気をつけて行くのよ」
「おう、ありがとう。なるべく早く戻ってくるよ」
そういって俺は金貨2枚を慶子に渡した。
「ではシオン行ってくる!」
俺はシロの背中に手をのせて、
――トラベル!
俺たちはミツバーン伯爵領の南にある国境の町へ転移した。
ここから先はシロの背に跨って移動する。
サンタクレスの国境までは馬車に乗って5日の旅だが、シロの足なら1日と掛からないだろう。
ヤカンは向うに着いてから召喚する予定である。