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クルーガー王国の南に位置する大国、サンタクレス大帝国。
俺とシロは帝都であるギリシャールに向け街道を駆け抜けていた。
国境を越える際の検問?
そんなものは時間の無駄だし、受けてない。
じゃあ、山越えでもしたのか?
いやいや、ふつうに門を通ってきましたよ。
光学迷彩を張ってたから周りからは見えてないけどね。
『反則ですやん!』っていまさらでしょう。
今回の目的が帝都の偵察だから、なるべく足跡は残したくないんだよね。
いざとなれば身分証もいくつか用意しているし、偽装も完璧だよ。
………………
まもなく帝都が見えてくるかな。
馬車で移動するなら20日はかかる距離をシロはたったの4日で走破したことになる。
しかも俺を背に乗せた状態でだ。
さすがは聖獣フェンリルだね。頼りになります。
帝都の城壁が見えてきたところで、俺はシロから降り歩いて門に向かっていった。
門の前には長蛇の列ができてており、商隊なんかは結構細かく調べられているみたいだ。
まあ、ここも国境のように素通りしてもよかったんだけど、情報収集はこまめにしないといけない。
だってここには、お喋りな商人さんがいっぱい集まっているからね。
それから待つこと半刻 (1時間) 、ようやく俺の順番がまわってきた。
「俺は冒険者のケン。こっちは愛犬のチッチだ!」
(まだ召喚してないけど、ポッポ (ヤカン) もいるからね~)
門を守る衛兵さんに偽の冒険者証を提示する。
「ふん、Cランクの冒険者か。志願兵なら歓迎するぞ。いってよし!」
衛兵さんにはジロジロ見られたが、無事に検問を通過することができた。
ついでとばかりに冒険者ギルドの場所を尋ねたのち、俺たちは門を潜って帝都にはいった。
馬車も行き交う大きな通りを進んでいくと、40分程で冒険者ギルドに辿り着いた。
受付に並び移動登録を済ませたら、今度は商業ギルドの場所を尋ね表にでる。
路銀代わりに持ってきた『砂金』を商業ギルドで換金するためだ。
クルーガー王国のお金を両替することも考えたけど、違う国のお金は極力出さない方がいいだろうと考えてのこと。商人であれば話はべつだろうが。
帝国のお金を手にした俺は、冒険者ギルドに程近い裏手に宿を取ることにした。
まず、シロも一緒でいいか確認してみる。
部屋を汚さなければ従魔が一緒でも問題ないようだ。
「では、朝食付きで3日間。それからロウソクと燭台、お湯を一桶たのむ」
「あいよ。朝食付き3日で銀貨6枚と大銅貨6枚。ロウソクと貸し燭台、それにお湯が一つで大銅貨3枚だよ。 あとは……、はいコレ! 朝食の引き換え札。木札をテーブルの端に置いておけば分かるから」
「了解だ」
その場で銀貨7枚を渡すと、
お釣りに大銅貨1枚、ロウソクの立った燭台、朝食の木札を3枚受け取った。
案内されたのは階段をあがって2階、右側3番目の部屋。
「クローゼットはそこだよ。お湯はすぐに用意するから使い終わったら廊下に出しといたらいいから」
部屋の説明を聞いたあとシロを連れて中にはいる。
――うっ、カビ臭!
部屋全体に浄化を掛けてからベッドに腰掛けた。
ふぅ―――っ、 ようやく一息つけたな。
シロは床の匂いを嗅ぎながら部屋を回っている。
さてと……、
俺はヤカンを召喚した。
「ヤカンおいでー!」
「このヤカン、お呼びにより参上いたしました」
「うん、よく来てくれた。ここはサンタクレスの帝都ギリシャールだ。今は冒険者ギルドの裏手にある宿屋に入ったところだな」
「なんと、もうギリシャールに着いているのですか? 相変わらずシロさまの脚力は大したものです」
シロも褒められて嬉しいのか、ヤカンの横に並んでゆっくりと尻尾を振っている。
「それで、ギリシャールの地理は頭に叩き込んできたか?」
「はい、そこはお任せください! 4日も時間を頂きましたのでバッチリ覚えてまいりました。どこへでもご案内できます」
「ほう、それはまた頼もしいなぁ」
俺はシロとヤカンを代わりばんこにもふり、栗いりの蒸しパンをおやつに出してみんなで食べた。
そして夕刻。
外出する旨を女将に伝えた俺は、クロークを羽織り表にでた。
小雨がパラつく中、足早に指定された店へと向かう。
【海のさかな亭】
「主 (ぬし) 様、こちらの建物になります」
ヤカンの案内でやって来たのはどこにでもあるような大衆酒場。
店の名前は【海のさかな亭】となってはいるが、出てくる料理は獣の肉や川魚が主だという。
それもそのはず、このサンタクレス大帝国は大陸一二を争う大国ではあるが、内陸部にあるため何処も海に面してないのだ。
そのため帝国では塩を輸入で賄うしかなく、慢性的な塩不足に悩まされているのだ。
それが帝国の最大の弱点と言えるだろう。
人間生きていく上で塩はもっとも重要なものである。海さえ近くにあれば高い塩を買う必要はなくなるのである。
「あとで召喚するからシロもヤカンもしばらく遊んでおいで」
俺がそう促すと、二匹は尻尾を振りながら町中に消えていった。
晩ごはんはさっき与えたし、このくらいの小雨ならなんてこともないだろう。
酒場の入口で二匹を送り出したあと、俺はクロークを脱ぎながらひとりで店内に入っていく。
雨のせいか客はまばらだ。
テーブルの間を縫うように進んでいくと、奥にはカウンター席があり6脚の椅子がならんでいた。
俺は壁から2番目の椅子に腰掛けた。
「ご注文は?」
カウンターの向うから40前後のおやじが声を掛けてくる。
「エールを1つと、生きの良いサンマを頼む」
「はいよエールだ。サンマはねーが今朝入ったヤマメでどうだい」
おやじはエールをわざわざトレイに乗せて差し出してくる。
「うん、じゃあそれで」
俺はトレイを受け取ると、エールの代わりに大銅貨2枚と預かってきた手紙をのせ、おやじへ速やかに返却した。
するとおやじは、
「カウンターを頼む」
女将に言い残すと奥の部屋へ入っていった。
それから10分程でおやじはカウンターへ戻ってきたが、これといってリアクションはない。
(…………)
さらに10分程過ぎたとき、俺の隣にひとりの女性が座ってきた。
女性はエールを頼むと一人で飲んでいる。
歳の頃は20代半ば、栗色の髪をうしろで束ねてポニーテールにしている。服装の感じからして冒険者のように思われるが。
俺はカウンター越しに立つおやじを見やる。
――んっ、ああ。 こいつがそうなのか?
目配せしてきたおやじに俺はゆっくり頷くと、
「また来る!」
俺は席を立ちクロークを羽織った。
店を出ると外は真っ暗。雨はもうあがっているようだ。
しばらく店前で待っていると、
「こちらです。ついて来てください」
小声で話し掛けてきたのはさっきのポニテちゃん。
カンテラ片手にスタスタと先を歩き始めた。
俺もそのあとをついていく。
いつの間にやら俺の両脇をシロとヤカンが歩いてる。
二匹はふわふわ尻尾を振っていて何だか楽しそうだ。
真っ暗な闇、雨に濡れた石畳の上をひたひたと進んでいく。
このドキドキ感。これだな!
二匹はこれに反応しているに違いない。――たぶん、おそらく、maybe.
……しばらく進んでいくと。
そこは、う~ん倉庫街》? そんな感じの一角だった。
「こちらになります。どうぞ」
ポニテちゃんがドアを開けてくれる。
そこは立ち並ぶ倉庫のひとつ……、ではなく、倉庫の間に建っている管理用の小屋だろうか?
あ~、どうせなら倉庫がよかったな~。
そして俺たちが第3倉庫に突入すると、
『ふっふっふ、よく来たな待っていたぞ!』
とかなんとか言ってマシンガン構えた手下が50人ばかし…………。
ないよね~ハードボイルド。――残念。
小屋の中に入ると一人の男が貴族礼をとっていた。
それを見たポニテちゃんも慌てて跪く。
どうやら俺の正体もバレたようだね。
「今はお忍び故、気軽に接してくれていい」
まぁ無理だろうが、一応そのように言っておいた。
そして例の噂について俺は聞き込みを開始する。
するとクルーガー王国で商人達が話してくれたことは、ある程度真実であることがわかった。
それで一番の懸念材料についてなのだが……、
ここ帝都に人が集められたのは確かなようだ。その人数も986人と大体噂どおりである。
問題は『何処に連れて行かれたのか?』なんだが……。
難民キャンプのように帝都の一角に集められていた千人近くの人間が、一晩にして忽然と姿を消しているのだ。
馬車で移動なら痕跡が残るし、歩きだと更に現実的ではない。
ダンジョンでもあれば話は別なのだが……。
(…………!)
まさか有るのか? 隠されたダンジョンが……。